シーダとモグ
ようやく辿り着いたはずの村から一度出て、山の中に入った後もクリスはスタスタと歩き続ける。
村を出て10分ほど歩いたところでクリスは足を止めたが、ブリーダーらしき人は見当たらないし、近くに家らしき建物もなかった。
「シンジュ様、こっちです」
「え? わぁ……凄い。全然分からなかった」
結構な大きさの洞穴があるのに、生い茂った草に隠れていて見えなかった。
クリスに教えてもらわなければ、こんなの私はずっと気付けなかったと思う。
「よくこんなの探せるね……」
「僕が探したわけじゃないですよ。そういうことを考えている人がいただけです」
入りましょうかと手を差し出され、クリスと手を繋ぎながら洞穴に足を踏み入れる。司祭様が用意してくれた荷物の中に手持ちのライトがあったので、薄暗い洞穴の中で有り難く使わせてもらった。
「うーん……先が見えないのね。結構奥まで続いてるのかしら?」
「崩れる心配はなさそうですし、とりあえず進みましょう。そのうち突き当たりますよ」
クリスがどこまでこの洞穴の情報を持っているのか分からないけれど、そう言うのであればきっと大丈夫だろう。この奥に人がいるなら尚のこと、安全は保証されていると思いたい。
一本道だったため特に迷うこともなく、ただ真っ直ぐに洞穴の中を歩いていく。
ここがエロトラップダンジョンであるはずもないので、何のハプニングも起きないまま最奥へと辿り着いた。
おそらく5分も歩いていないので、そこまで深い穴ではないのだろう。その程度の距離しかないのであれば、私とクリスの話し声がここまで聞こえていたのかもしれない。
話し声がどんどん近付いているのを聞いて、二人組の侵入者に狙われているとでも思われたのだろうか。洞穴の奥で対面した人物は完全に臨戦態勢といった様子で、小型のナイフを構えたまま睨むようにこちらを見ていた。
「お前ら誰だ? 村の奴らに何か言われてきたのか?」
低い声で問われ、向こうの姿がライトで照らされる距離になったところで、ゆっくりと顔を合わせる。その瞬間に、私は初めて相手の顔を認識した。
少し長めの前髪で隠れていて見にくいけれど、中性的で整った顔立ちをした男の人だ。敵意剥き出しで私を睨むその表情も、かっこいい人がしていると最高に絵になる。
ナイフなんて服を剥くのにちょうどいい物を構えているのも、もしかしてそのためなんじゃないだろうか。ああでも初めてが屋外っていうのは少しハードルが高いような気もする。
「シンジュ様のそれ面白いですけど一旦落ち着いてください。残念ですが、この人そういうことする感じじゃないです」
「え、あ……ご、ごめん……。つい変なことを……」
「本当にそれは面白いので全然いいんですけど、相手が不審がってるのでまずは話をしましょう」
年下の男の子に諌められているこの姿は、相手の目にどういう風に映っているんだろうか。
「話を逸らしてしまってすみません。僕はクリス=マイリドです。チモキラのブリーダーを探してこの村に来ました」
クリスの方が私より先に自己紹介をするので、もう言うことがなくなってしまった。とりあえず名乗るだけでもしておこうと、改めて男性に向き直る。
「あの……同行者のシンジュ=プラートです」
不審な目でこちらを見てくることに変わりはないけれど、とりあえず戦う意思がないことは伝わったらしい。
少々躊躇った後にとりあえずナイフを下ろしてくれて、彼の方も簡潔に名前だけを教えてくれた。
「……シーダだ。こっちは俺の使い魔のモグ」
そう紹介してくれたシーダの後ろから、一匹のチモキラが姿を現した。至近距離で見るチモキラ、改めてめちゃくちゃ可愛い。まるまるしている。
「さ、触ってもいいですか……? チモキラ可愛い……」
「まあ、モグが嫌がらないなら好きにしていいが」
シーダがそう言ってくれたので手を伸ばすと、モグはふよふよと私の方に近付いてきてくれた。有り難く撫でさせてもらうと、小さな手足をバタバタと動かしながらムームーと鳴く。可愛い。
「ああ、あんた魔力があるんだな。だからチモキラを譲ってもらおうと村に来たのか?」
「あ、そうなんですけど、さっき村でチモキラ達がまとめて檻に入れられてるのを見て、何だかちょっと辛くなってしまって……。チモキラの面倒を見ているという村の人たちにも何だか不信感が湧いてしまって、一旦抜けてきたんです」
「ブリーダーを探していると言ったが、俺の手元には今はもうこいつしかいない。奪われたチモキラ達を取り返すつもりでいるが、村人全員が相手となると簡単にはいかなくてな。どうにかしたいんだが」
「あの、奪われたって言うのはどうしてですか?」
「俺にもよく分からないが、今朝急に押しかけてきた村の奴らに家ごと奪われた。危うく俺まで捕まりそうになったからな。身動きがとれなくなるよりはマシかと思い、一旦引いて作戦を立てようとモグと一緒に山の中に逃げてきたんだ」
家ごと奪われたという穏やかじゃない事態に、何が起こっているのか想像して急に不安になってしまう。
そんな空気を壊すようにして「ああ、そっか」とクリスが軽い声をあげた。
「シーダさんは村の人とあんまり関わりないんですね。僕は村の人の話も知ってるので、どうしてこうなったのか説明します」
村人よりも村の事情を知っているクリスが頼もしすぎる。
何故お前が? という顔をしているシーダへの説明は一旦置いておくことにして、説明よろしくお願いしますとクリスに向かって軽く頭を下げた。




