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売買


「あの、これは……」

「チモキラをお求めでしたら、是非この中からお好きなのをお選びください。金額の相談はその後で」

「え……? ええっと、じゃあ少し見させていただきますね?」


 どうぞどうぞと道を開けられて檻の前まで案内され、中に入っているチモキラ達の様子を見る。

 元気そうにふわふわ浮いている子達ばかりで、ちゃんと世話をされているということが分かった。

 本で読んだだけだから詳しい飼育の仕方はよく分かっていないのだけど、どの子もみんな健康そうである。


 だけど正直、思っていた環境と違って戸惑ってしまう。

 なんだか劣悪なペットショップみたいだ。チモキラ達が元気そうなので育て方に問題はないのだろうけど、こんな風に狭い空間に閉じ込めているのはどうなんだろうか。

 チモキラが狭い場所を好むなんて記述、私が読んだ本にはなかったはずだけど。


「どうです? お気に召すものはいましたか?」

「え、あー……そうですね。みんなとても可愛いのですけど、少し迷ってしまって……。あの、貴方がこの子達のブリーダーさんですか?」

「あ、いえ。この村の人間みんなで面倒を見ているので、私がブリーダーというわけではないんですよ」

「あ、そうなんですね。ブリーダーの方がいると聞いていたので、てっきり貴方がそうなのかと……」

「いえいえ。チモキラは村人全員で共有しているので、私のものではありませんよ」


 テントの中に入ってから真っ先に話し掛けてきた男性がそう答え、他の人たちも次々とそれに同意する。

 よく分からないけど、なんだろう。なんだか少し嫌な感じがする。

 うまく言語化できない気持ち悪さが胸の奥につっかえていて、早くここから去りたくて堪らない。

 そんな私の気持ちを、静かに読み取ってくれたのだろうか。黙って私の後ろに立っていたクリスが、急に動き出して私と男性の間に入った。


「え、クリス……?」

「あの、ごめんなさい。おしっこが漏れそうなんですけど、トイレ貸してもらってもいいですか?」

「え、あの、クリス……?」


 なんだか少しモジモジしているけれど、無表情のままそう言うので本気なのか冗談なのかよく分からない。

 しかし相手は、幼い男の子が本気でトイレを我慢していると思ってくれたらしい。「テントを出て右にまっすぐ行ったところに家があるから、その中のトイレを使うといいよ」と、親切に案内してくれた。


「ありがとうございます。一人じゃ不安なのでシンジュ様も一緒に来てください。早く」

「え? ええ……?」


 結構な力で手を引っ張られているのだが、彼らにはこの行動も、幼い男の子が姉を連れて行こうとしているような感じで見えているのだろうか。

 なんの疑いもしないで「一緒に行ってあげな」と言われ、微笑ましいものでも見るような表情を向けられたままテントから出た。

 私の手を引いたままクリスはどんどんテントから離れていき、トイレに使いなさいと案内してくれた家の前を通り過ぎてからも歩みを止めない。


「え、あの、クリス大丈夫……? トイレがある家、多分通り過ぎたけど」

「漏れそうだって言ったの嘘なので大丈夫ですよ。テントから出るための口実です」

「ああ、まあ何となく分かっていたけど……また嘘も方便ってやつ?」

「そうですよ。シンジュ様も不信に感じてたみたいですけど、あそこにチモキラのブリーダーいないみたいなので一旦退散です。気に入ったチモキラがいたとしても、ちゃんとブリーダーの許可をもらってから引き取りたいですよね」

「……どういう事?」

「まずは本物のブリーダーのところまで行きましょう。居場所は分かったので」


 こそこそと小声で話しながら早足で歩き、少しずつ村から遠ざかる。

 何も悪いことをしていないから誰かが追って来るはずもないのだけど、何だか急に不穏な展開になった気がして、少しだけ恐怖を感じてしまった。


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