Epsode5 希望の灯火(上)
「この旅にはもう一つの目的がある。それが――アイネくん。君が最強の魔法使いになること!」
旅立ち前の会話の、続き。
「えっ」
「君は今こう思っただろう。「いや私は魔法使いでもないし、こんなくだらない旅で最強になれるとか童話かよ!」と」
「まあ……はい」
「心配することはない。君には魔法使いの素質がある……私の勘でわかるさ、これくらい」
「素質……でも私別に魔法使いにはなりたく……」
「まあまあ照れることはないぞ。ほら、魔法の杖だ。ああ、今回のは安物だから壊してもいいんだよ」
◇
「……と、いうわけで。私も戦います!」
杖を手に、キリッとした表情でツクシたちを見つめる。そんなアイネにめがけて、敵の攻撃が降り注ぐ――
「ぎゃああ!!」
せっかくのかっこいいところだったのに!そう思ったアイネだが、またもやカリンに守られながら、地面に張り付く以外なにもできずにいた。
「おしゃべりしている途中ごめんね!アタイたちは海賊だよ!この国を侵略しにやってきた!だから、君たちもついでに殺させてもらう!」
海賊集団の先頭に立つの、ビキニを着た少女。ドクロが描かれたバンダナを頭に巻き、小麦色の素肌にはさきほど跳ね返ってきた海水の水滴がしたたる。
「国を侵略……?よくわからないけど、そうはさせないよ!」
ツクシが、魔法の杖を振りかざす。そして、勢いよく敵に向かって飛び出す!
「おお、やっとやる気になってきたみたいだね!よし、お前ら!アタイたちも行くよ!」
「おお!」
数十人の、ビキニ少女が元気よくこちらに向かって突っ込んでくる!
アイネの目の前で、両者による戦いの幕が切って落とされる――
「アイネちゃん!その……本当に戦うの?」
「う、うん!私も……」
この前のチョココロネとの「戦い」で、繰り出した火の玉を思い出すアイネ。
「やってみよう……すーはー」
深呼吸をして自分を落ち着かせる。そして、杖を敵に向け――
「ファイ――」
「ひっ?」
バンダナビキニが、なにかを察したのかその場で立ち止まる。その目の前にあらわれたのは、太陽のように大きな火の玉!
「ファイアアア!!」
その叫び声と共に、火の玉は大きな火柱となり、敵に向かって放たれる!
「げっ……よ、よけて、みんな!」
思いもしなかった攻撃。ビキニ少女たちは、慌てて攻撃を避けようとする――
ゴゴゴ!!!
霧をも引き裂くような熱気と光が炸裂する!
「えっ?!アイネちゃんすごい!」
味方もアイネの一撃に驚いているようだ。
攻撃も止み、バンダナビキニが背後を振り返ると、
「ありゃりゃ……何人か持って行かれたか……こいつはヤバいね。みんな、あの金髪美少女に気をつけて!」
「あいあいさー!」
気を取り直した海賊少女たちがあらためて、攻撃を繰り出してくる。
「アイネちゃん!さっきのもう一発……あれ?アイネちゃん、杖……」
「あっ……」
なんと、アイネの杖は一瞬の間で、跡もなく燃え散っていった!
「ええ?!大変、杖が燃えちゃったよ!」
「ごめんカリン……多分私の魔法、そういう仕様だから」
「あははは!これはおもしろい。杖が燃えるとかはじめて聞いたよ」
「笑い事じゃあないよ、ラン!アイネ、杖のストックとか持っている?」
「い、一応、あと1本……」
「わかったわ。その一撃は、取っておいて!さて、今度は私たちが――行くよ、ラン!」
「はいよ!ミラクル――」
ツクシとランの魔法の杖が、交差する。すると、空中に大きな光のバッテンがあらわれ――
「クロス!」
「きゃああ!」
敵のビキニ少女は必死に防御するもむなしく、バッテンに引き裂かれて倒れていく!
「よし!どうやら敵は雑魚ばっか――」
「ラン!危ない!」
「えっ?うわあっ!」
攻撃を終えたばかりのランをめがけ、青いビームが放たれる!
「……っ!姉貴!私をかばって……」
「くっ……私は平気よ。それより……あのバンダナに気をつけて。彼女は「ミシマ海賊団」の副団長、ミシマ・クウ……」
「わっ、アタイのこと知っているの?!オオトモ・ツクシとオオトモ・ラン……ふむふむ、どうやら君たちを引き離す必要がありそうだね。よし!第2波!行くよ!」
「あいあいさー!」
霧の中から、さらにたくさんのビキニ少女たちが飛び出してくる。
「ちっ……敵は数で攻めて来るようだね」
「目標はブゼン国の侵略!そして、破壊!さあ、君たちを倒してさっさと仕事を終わらせに行くよ!」
「ラン!クウは今のあなたにとって強すぎる――手下たちの方は任せた!」
「姉貴!で、でも……」
「いいから!……頼んだよ。国を守るのが、私たちの役目!」
「わ、わかった!」
言葉にしなかった気持ちを飲み込み、ランはツクシの隣から離れる。
「ほうほう、良い判断だよ!ということで、ミシマ・クウVSオオトモ・ツクシ、一騎打ちだね!」
「ツクシさん!私たちも……」
「必要ないわ。カリンたちも、手下の方をお願い――隙を見て、さっきの一撃で敵にとどめを刺すのよ!」
「っ!は、はい!」
「おっとそっちの方にも厄介者がいたっけ……うお座のみんな!あの美少女を集中攻撃しちゃって!」
「うお座……あっ、私のことだ!あいあいさ!」
数人のビキニ少女が、アイネにめがけて突っ込んでいく!
「か、カリン!カリンも、なにかしらの魔法が撃てるんでしょ?」
「私は!これしか!できないの――バリアー!」
さっきから、度々アイネを守ってきた光の薄い盾。敵の攻撃を弾くたびに、カリンの顔が少しだけしかむ。どうやらカリンの方にしっかりとダメージは伝わっているようだ……
「……ごめんね、ビームとか撃てなくて……」
「だ、大丈夫だよ!それより守ってくれてありがとう――でもこれって、ヤバいかも?」
「こいつら撃ってこないよ!よし、うお座のみんな!一斉で撃つよ!」
「うっ――」
四方八方から、敵がアイネとカリンを囲い込み、杖を掲げる――
---「そうはさせない!!」---
そのとき。人影が包囲網のど真ん中に飛び込み、木の棒を地面に向けて振り下ろしたと思いきや、周囲の地面に大きなひびが走り、大地が激しく揺れ出す!
「スミレさん!ありがとう」
「これが……「土属性」の魔法か」
「ああ。手こずっているようだね……私はここに加勢するよ」
スミレの手に持っている棒こそ、彼女の魔法の杖だ。杖にはほど遠い見た目だが、どうやらこちらの方が全身の魔力を地面に伝達しやすい上、武器としても扱いやすいらしい。
「うわあ……ブゼンの痛い系アイドルに火力ぶっ壊れ金髪、それに筋肉系魔法使いか……これはかなりマズイよ」
戦場全体を見渡しながら、戦力の計算をするバンダナビキニ。
「よそ見させないわ!マジカルビーム!!」
「くっ」
背後に回り込んだツクシからの攻撃をかわす。
「このままでは侵略どころか返り討ちにされてしまうよ……おーい!あんたらもそこで見ているだけじゃあなくて手伝ってよ、そういう契約だったし」
「あんたら?」
バンダナビキニが、ニヤリと笑う。
風が吹き、霧が晴れていく。その先にあらわれたのは――
「……ふん。無能な海賊ね」
「っ!「TiKS」……なぜチクゼンの武家がここに?!」
そこにいたのは、凜とした表情でこの戦いを見下ろす、クロダ家。アジサイの綺麗な黒髪が風に吹かれ、クールな視線からは寒気と恐怖を感じる。
「……ねえ。あの土属性と金髪……あたしが狩ってもいい?」
「好きにして、フウコ」
「うん――」
刹那、フウコの姿が消える。そして、次の瞬間――
「っ!スミレさん、危ない!」
戦うスミレの背後に、フウコが音もなく姿をあらわす!
「ぐわあ!」
「スミレさんっ!!」
至近距離から放たれた稲妻攻撃が、スミレにヒットする。
「まずは、一人」
ぷくーと、風船ガムが膨らむ。 つづく!