三章:6 「着きました。こちらです。」
刀夜は、スマホの画面上で先頭をトテトテと歩く福☆FUKUダルマ君を追いながら駅構内を進む。
「人気の無いところ」と言っていたことだけあって、構内でも端の方で、薄暗く死角のような場所まで連れてこられた。
(………それにしても。)
後ろを振り向く刀夜。
死角のようなところといっても、主要通路から一つ曲がったところだ。その主要通路には、人々が大勢行き来している。
なのに…。
(………何でここは誰もいないんだ?)
まるで彼方の通路と此方の通路が、別次元で寸断されているかのようだ。
そして目の前には、スマホを返しているとはいえ、喋って歩くダルマがいる…。
(……ははっ。これはゲームなんだから人がいないのは、たまたま。たまたま。)
引きつった笑い顔で、刀夜は自分の恐怖心を誤魔化そうとする。
(そ、そういえば、ユキはどうしているかなぁ?)
改札口前で別れてから雪人からは連絡はない。アプリゲームが起動中でも、それらの通知はされるはずだ。
あの時は説明されなかったが、雪人には雪人なりの考えがあってのことだろう。……ただ凡人の刀夜にはその考えとやらは、まったくもって想像がつかないが。
周囲の不穏な空気に不安になってきた刀夜は、雪人に今いる場所だけでも連絡しようかとも思った。が、そうするにはゲームを一時停止させなければならない。
そうなると福☆FUKUダルマ君が見えないし、会話もできなくなる。その間に、今のイベント自体が終了してしまう可能性もある。
刀夜がどうしようか迷っていると、いきなり…。
――…
「着きました。こちらです。」
「ツッ!!?」
前を歩いていた福☆FUKUダルマ君が振り向いてそう言ったものだから、刀夜の心臓が跳ねあがる。
「あっ。うんっ!………ッ!?」
平然を装い作り笑いをした刀夜だったが、通路の突き当たりの福☆FUKUダルマ君の前にある…………『ソレ』を目にしたとたん、朧気な記憶が鮮明となったッ。
――…【駅の中のアリス】
この駅の都市伝説である「異界に続くホーム」に連なる、それも有名な怪異譚…。
……約十年以上前。
ある日の寒い冬の朝。この駅のコインロッカーの中に、女の赤ん坊が放置されているのが発見された。
だがその時には、もう赤ん坊は死亡していたらしい。
発見時、最低気温マイナスまで下がるなか、赤ん坊は裸でへその緒がついたまま青く薄いタオルにくるまれていただけだという。
ロッカーに入れられた時も周囲が鳴き声など聞いている人がいなかったことから、もうその時には死亡していたか、鳴き声をあげられないぐらい衰弱していたと思われる。
赤ん坊には身元を証明するモノは無く、唯一分かるのはタオルの端に書いてあった【阿莉里】という滲んだ文字だけだった…。
そんな事件の後、この駅には夜な夜な赤ん坊の鳴き声が聞こえてくるようになったという。
だがそれも、月日が進むにつれ鳴き声は聞こえなくなり、代わりに青い服を着た少女の霊と恐ろしい怪物が現れるようになった。
駅関係者は口々に噂する。
「コインロッカーの赤ん坊は、死んだことに気づかずに、少女へと成長しているんじゃないか?」……と。
そしてその服の色と、名前が似ていることから【駅の中のアリス】と呼ばれるようになったと…。




