三章:5 「ッ///////////………はい、よろしくお願いします。」
が…。
《攻撃不可》
またスマホからビッ!ビッ!と警告音が鳴り、スマホの画面の福☆FUKUダルマ君の前に、赤いフィルターのようなモノにそう表示されたッ。
見れば放たれたはずの青の護符は、使用されずに元の位置に戻っている。
「なんで、攻撃できないッ?!」
(青の護符じゃあ、少しも上級魑魅魍魎には効かないってことなのか?……だったら無駄遣いだった護符が消えているはずだ。)
刀夜はもう一度、スマホ越しにマジマジと福☆FUKUダルマ君を凝視した。
怯えるように縮こまる福☆FUKUダルマ君。その前の《攻撃不可》の表示は、五秒ほどで消えている。
(………やっぱり上級魑魅魍魎には見えないよな~ぁ。まったく攻撃してこないし。…となると。)
「もしかして君って……NPC?」
NPC……位置付けとすれば、阿ーちゃん吽ーちゃんと同じ、プレーヤーを補助するキャラクター。
福☆FUKUダルマ君はそれに対し、なぜか刀夜の顔と自分に向けられているスマホを見ながら数秒間、答えに戸惑う素振りをみせた。
「?」
その姿に、違和感を覚えた刀夜が訝しげに眉を潜める。
が、答える前に福☆FUKUダルマ君は、同じポスター内のワンポイントとなっていた駅員用の帽子の写真を拾い上げるような動作で手に取ると、丁寧にその赤い頭に乗せた。
――…
「はい。『あなた方のなかでは、そのような認識になっているようですね』。……ですがぁ、私は『この中に組み込まれていない』と思っていたですけど…。」
「…『あなた方のなかでは』?…『組み込まれてない』?」
変な言い回しに、更に首を傾げる刀夜。
――…
「い、いえ、此方の話です。改めて、私はこの駅を任せられています福☆FUKUダルマと申します。当駅には魑魅魍魎を探しに?」
福☆FUKUダルマ君から先ほどまでの怯えた表情は消え、業務をこなす本当の駅員のように毅然と、それでいてお客様に対応するがごとく丁重に話し出した。
「うん。俺はこの駅にいるはずの上級魑魅魍魎を探しているんだ。NPCの君なら、何か情報を持ってたりするの?」
そう。RPGだったら、こういうNPCとの出会いはイベントのフラグが立ったことを意味する。そして話しかけて、イベントの情報を聞き出すのが定石だ。
それを聞いた福☆FUKUダルマ君は驚いたように目を見開いて「…上級」と呟き、悲しそうに視線を落とす。
――…
「……そうですか。最近、歩きスマホの人が多いと思っていましたが……ついに『あの人』は【阿莉里ちゃん】を執行対象と認定したんですね…。」
「……『あの人』?……【阿莉里…ちゃん】?」
(あれっ?【阿莉里】…ってどこかで聞いたことあるような…?)
何か思い出しそうになりながら、聞き返す刀夜。福☆FUKUダルマ君はゆっくり顔をあげた。
――…
「はい、あなたが探している上級魑魅魍魎は【阿莉里ちゃん】のことだと思われます。詳しい話は…。」
一旦、福☆FUKUダルマ君は話を切り、刀夜の周りを気にするように見回し…。
「…どこか人気の無い場所に案内しますので、そちらでしたほうでしたほうがよろしいかと…。」
「んっ?」
ここで刀夜はようやく気づいた。……ポスターにスマホをかざし、ブツブツと独り言を言っている自分を、周囲の人たちが冷たい目で見ていることを。
どうやらNPCに気を使われたたらしい。
「ッ///////////………はい、よろしくお願いします。」
刀夜は真っ赤になりながら、福☆FUKUダルマ君に頭を下げた。




