三章:1 「……………余裕っ!」
――…駅、改札口近く。
――…
「上級魑魅魍魎は
逃げました。」
…と阿ーちゃん吽―ちゃんに告げられたうえに、画面に大きく表示された。
人の流れのなか、立ち止まった刀夜は「へっ?」とスマホの画面をガン見する。
「……出現率が低いうえに、逃げちゃうの?」
雪人は黙ってスマホを見つめたまま考え込み、刀夜は頭に浮かんだ問いが間髪入れず口をつく。その刀夜に阿ーちゃんと吽ーちゃんはハモりながら…。
――……
「はい。駅敷地内にはいるようですが、位置が特定できません。どうやら魑魅魍魎は移動を繰り返しているようです。再ルート検索をかけることもできますが、また逃げられる可能性が高いです。……ターゲットの魑魅魍魎を、変更することを推奨します。」
…と、丁寧に答えた。
「え~~~…っっ。」と刀夜は落胆の声をあげるも、諦めきれないのか、本当に魑魅魍魎がいないかスマホのカメラ機能で四方上下と周囲を見回した。
すると…。
「ッ!?」
…まばたきするほどの一瞬。改札口から駅出口に向かう人ゴミの足元を、流れに逆らうようにバスケットボールほどの赤い丸いモノが、素早い動きで改札口を抜けたッ。
(犬ッ? 猫ッ?…でも赤いッ。…それに改札機が、素通りしても反応しないッ。もしかして、上級魑魅魍魎ッ???)
すぐにスマホのカメラ機能で追うも、行き交う人と色々な遮蔽物で、今の位置では捉えることができない。
「雪人ッ!今ッ、上級魑魅魍魎ぽいッ、赤い丸いモノが…ッ!」
走り出したい衝動を抑え、雪人に叫ぶ刀夜。けれど雪人はいつになく冷静だった。
「………たぶんそれは違う。」
「なんでッ?!確認しないと判らないだろだろッ?!」
「……そうだな。…『確認しないと判らない』。じゃあ、それは刀夜が追えッ。」
「なんだよッ!まさか雪人、諦めたのかッ?」
刀夜は「ここまで人をこのゲームに巻き込んだくせに、まさか勝手に戦線離脱するのかッ?!」と思いで憤慨するも………雪人はニヤッと笑った。
「はッ!それこそ、まさかだッ。」
「ッ?!」
「説明している暇はないッ、行けッ!…それとも何?お前だけじゃ捕まえられない?」
…今度は挑発的な笑みに変わる雪人。
雪人の意図は解らない。だが、何か確信があるのは解った。
「……………余裕っ!」
少し引きつりながらニッと笑い返す刀夜。
すると刀夜は、剣道でつちかった高速の踏み込みでスタートダッシュをかける。そして、改札機にスイカを当てながら改札口奥へと消えた…。
……一人、それを見送った雪人。
刀夜とは反対に緩やかな足取りで、構内の壁際の適度に空いたスペースを見つけると、床に直にドカと腰を下ろした。
そして持っていた黒いリュックから、表面に派手な絵柄のシールがベタベタ貼ってあるノートパソコンを取り出すと、自分の胡座の上に置き開く。
また黒いリュックからゲーブルを取り出すと、今度はそのノートパソコンと自分のスマホに繋いだ。
「さて、やってやりますかぁっ。」
雪人は手の屈伸運動をした後そう呟き、ピアニストが曲を弾き始めるように、緑色に光るキーボードパネルに手を置いた……。
★☆★




