二章:14 「どうか…。どうか…。私とともに、魑魅魍魎からこの国を護ってくださいませ。」
【ソウルウォーク★魔都】を開いた直後、和楽器を使った不思議なBGMとともに美しいアニメ映像でオープニングが始まる。
画面には、夜空から滑空する鳥ようなカメラワークで、今まで現実では見たことない古めかしいが街灯揺らめく巨大な都市が眼下に広がる。
刀夜は乏しい知識のなかで、そのアニメ映像の都市を「まるで、明治か大正時代みたいな建物だ」と思った。
その鳥の視野のようなカメラワークが、眼下から天上へと切り替わる。そこにはありえないほどの大きさの月が、ポッカリと夜空に空いた穴のように冷たく光っていた。
「…………………………ッ?」
ふと、その映像を見ていた刀夜が自分の胸を押さえる。
次の瞬間……BGMがおどろおどろしいモノに変わり、蒼白かった月が血のように真っ赤に染まった。
その真っ赤な月の中心に、黒いシミみたいなものが見えた。それはどんどんと膨張し、四方に広がっていく。
鳥の視野は、目を凝らすかのごとくそのシミ一点にピントを合わせる。すると視野は二倍・五倍・十倍と段階的にズームしていき……シミの正体を捉えたッ。
思わず刀夜も身を乗り出して画面に食いつく。
ゾワッッ…。
「…ッッ!!」
……それはCGでも、ましてやリアル映像でもないアニメだというのに………刀夜の背筋に寒気が走ったッ。
シミの正体は、異形の化物の集合体だったッ。
距離があったのでシミのように見えたが、今は個体一つ一つが確認できるまで近づいている。
化物たちは、鬼といった種類が判るモノもいれば、まったく名の知らないモノまで、ゴチャゴチャと混ざり固まっている。ただ皆、何かを渇望するように地上に向かって手を伸ばし、突き進んでいた。
その化物たちの鳴き声や唸り声がBGMと重なり、耳に気持ち悪く反響する。
……しかしそれよりも気持ち悪いのが、刀夜の心の中に生まれた……『前にも同じモノを見た』という感覚。
だが、そんなことありえない。コレはゲーム。コレは空想。だから、コレは記憶違い……のはず。
けど、気持ちとは裏腹に………スマホを握っている手が、剣道で竹刀を持っているかのように……いや、真剣を持っているかのような感覚で、強く硬く力が入ってしまう。
まるで決戦前の、刀を構えて『敵』を迎え撃つ緊張感のように。
そしてその感覚ですら、気持ち悪いほど『懐かしい』。
「何なんだ…???」
問いを呟くも答える者はおらず、代わりに…。
ーー…
『魑魅魍魎ッ!滅殺ッ!!』
…鋭い声が響いたかと思うと、地上から大きな光の矢が化物の塊の中心を貫いたッ。
その中心から爆発が伝播し、四方の化物たちを巻き込んでさらに爆発を拡大していく。
化物たちの断末魔が響き……爆破の閃光により、画面一面が真っ白になった。
すると半秒の沈黙の後、またBGMが変わる。今度は、満点の星空のなかをふく夜風のような、冷たく神聖なメロディー。
画面はゆっくりと色を取り戻す。
そしてそこに現れたのは、まるで天女…いや、観音様のような薄い玉虫色の衣と金の装飾を纏った一人の人物。
黒く長い髪は複雑に結い上げられ、顔は衣と同じ玉虫色の布で隠れ、スレンダーな体型からは性別など判断できない。…というか、どう見ても性別を超えた神様的キャラクターだ。
その神様だと思われるキャラが、画面の向こうにいる刀夜に向かって手を伸ばす。
ーー…
『どうか…。どうか…。
私とともに、魑魅魍魎から
この国を護ってくださいませ。』
…静かに懇願する優しい声。
その神様キャラの伸ばした手から、赤・青・黄色・緑の四つの光が飛び出したかと思うと、神様キャラの顔の衣がはためき、また画面が真っ白に染まる。
「ツッ!!」
何故か体が強張る刀夜。
そして、【ソウルウォーク★魔都】のスタート画面に切り替わった。




