二章:7 「………『あとは任せた』って何だよ?」
「『何をした』…なーんて人聞きの悪いこと言わないでくれるっ?……でも何で、そー思った?」
明星の問いと、藤原総理の視線を感じながら、手元の完全に冷えた中国茶に視線を落とす。
「………少し前まで、その四社は『よくテレビで見た』。それも報道ニュースとかでだ。それがここ最近になって、パッタリと取り上げられなくなった。」
これは、刀夜が同じことを思っていた。
大手企業なら、マスメディアに取り上げられるのは別段珍しい話では無いのだが、その出方が問題だ。
「………報道されていた理由は、不正なデータ改ざんや悪質な雇用状態、国外への機密技術流失に裏社会との繋がり…などといった各企業の黒い噂ばかり。でもどれも噂の域を脱することなく、有耶無耶のまま沈静化してしまった。」
ここで顔を上げる菖蒲。
「………お前は国家権力を使って、その四社を『脅迫』したんだろ? 「お前たちの悪行を『握り潰してやるから』、金を出せ」って…。そして四社とも、それをに応じた。……違うか?」
菖蒲は藤原総理に、一瞬だけ視線を流す。
総理は、今言ったことを「違う」と否定しない。そしてこのことが明星の独断だったとしても、総理がまったく「知らない」ということは考えづらい。
どんなに仏のような優しい顔をしていたとしても、化かし合の政治の世界で、強かに総理大臣にまでなった人だ。………今までも、こういった清濁併せ呑むようなことは数知れず経験してきたのだろう…。
すると藤原総理が、明星がこれに対して答え合わせする前に、腕時計を見て「すまない。」と席を立った。
「ッ?!」
「悪いが、もう『時間だ』。私はこの後も予定があってね、先に退席させてもらうよ。ああ、デザートがまだだったね。君たちはゆっくりと食事の続きを楽しむといい。」
藤原総理は微笑みながら「『あとは任せたよ』。」というと、スマートに個室から出ていく。明星は手をヒラヒラさせて総理を見送った。
だが、総理の底知られない部分を垣間見てしまった菖蒲は、ちゃんとした挨拶も出来ずにいた…。
「………『あとは任せた』って何だよ?」
藤原総理が去ったことで体の緊張が緩んだ菖蒲が、横目で明星に問う。
だが間の悪いことに、そのとき丁度追加したデザートが、二人の黒服に蝶ネクタイ姿の男性店員により運ばれてきた。
慌てて口をつぐむ菖蒲。
恭しく横から、三種類のデザートを明星の前に置く店員たち。その人達がまだいるのにも関わらず、明星は口を開いた。
「今、総理が言った『任せた』と言うのはね…。」
「…馬鹿ッ!喋るなッ!!」
更に慌てる菖蒲。




