序章:2 「黙れ、人間…ッ。」
そして総理と明星の間で、数分間へビーローテーションの押し問答が続く。
全然進まないことに痺れを切らした一番若い議員(といっても52才)が、明星に向かって苛立ちの声を上げた。
「いい加減にしないかッ!誰のおかげで、ここまで『優遇』されていると思っているんだッ!!」
その『優遇』という言葉に、明星がピクッと反応する。
それに気づいた藤原総理大が青ざめながら「まッ、待て…ッ!」と、その議員を制止させようとするも止まらない。
「それだけの『能力』を持っていなから使い渋るとはなんだッ!この国に生まれた者としての愛国心は無いのかッ!?」
怒りの感情のままに立ち上がり、目の前のテーブルを両手でバンッ!と叩く議員。
明星はそれに対し、怯える様子はない。ただ先程まで子供のようにヘソを曲げていた顔から打って変わって……無言にて、冷ややかな目つきで議員を見下していた。
その目にカッと頭に血が登る議員。
「キッ、サマ…ッ!!」
その生意気な目に更に大声の怒号を浴びせようと、口を大きく開けた…。
…が。
「黙れ、人間…ッ。」
「ツッ!?」
何処からともなく響く低い声。
それもその声はあまりに重く、国の政治の中枢のなかで歳と経験を重ねてきた議員であっても、萎縮して声を発することが出来ないぐらい威圧的なモノだった。
だが、これは誰が発したものなのか?
声自体は明星辺りから聞こえたようだが、明星のものとは違う。
明星と同年代の若い声質ではあるが、一発でそれは男性だと判る。
ふと、声だけでなく体も強張らせていた議員が、眼球だけを動かし、明星が座る席の斜め後ろに影のように揺らぐ黒い物体を捉えた。
それを『認識できた』とたん、はっきりとした人物の輪郭が見えた。
……黒いスーツの男だ。
ワイシャツは白だが、細みのネクタイも革靴も黒。
歳は声質で判断した通り、明星と変わらない二十代前半に見える。ただ日本人じゃないように見える。
緩やかなウェーブに、白みがかったイエローブラウンの髪。眼鏡を掛けていても判る、大きくはっきりとした目鼻立ち。
黙っていれば英国の王子様のような甘い顔立ちだ。
服装と立ち位置からすれば、その者は要人を守るSPかとも思うが、それにしては体型が細過ぎるように思える。運動をあまりしていない議員でも、掴みかかれば容易に倒すことが出来そうな気がするほどだ。
でも、動けない。
言葉も発せられない。
その男の目……グリーン・ゴールドの瞳を直視した直後、呼吸困難を起こしそうなほど体の強張りは強くなった。
「止めなよ、白檀。」
そう明星が発すると、「チッ!」と舌打ちと共に白檀の鋭い視線が議員の視線を手放した。
「ッ………。」
すると体の強張りは解け、その反動で力が抜けた議員の足腰は崩れる。
議員は、そのまま糸が切れた操り人形のようにストンと椅子に座ることとなる。その代わり、座ったとたんに議員の身体中の毛穴という毛穴からドッと冷たい汗が吹き出した。