一章:10 「ふぇっぷしゅっっ!!」
ーー…体育館裏の件から5日後。プールサイド。
「ふぇっぷしゅっっ!!」
刀夜の前を歩いている雪人が派手にくしゃみをした。それを後ろで、刀夜が恨みがましい目で見ている。
二人は、最後に集めきった吸水ポリマーを入れたバケツを運んでいた。
…あの体育館裏での件は、三年生も後ろめたいのか、上級生の同性として恥ずかしいのか、はっきりと雪人と刀夜に「やられた」とは言わなかった。
とはいえ、状況を見れば容易に想像はつく。その場にでくわした岩木先生も丸っと全部を把握した上で、雪人と刀夜に罰としてプール清掃を課せたというわけだ。
でも雪人は、二人だけ罰せられるのが不満だったらしい。
だかそれはしょうがないことだと刀夜は思っている。
簡単に言ってしまえば「やり過ぎた」なのだ。
いくら正当防衛を主張しようと、絡まれてピンピンしている二人と、絡んだほうなのに満身創痍の三年生たちを見比べれば………一目瞭然だ。
(……まったく~ぅ。岩木先生も事を荒立てないようにしてくれたのに、それ以上の大事を起こしてどうするんだよ~~ぉ。)
「………こんなこと桜塚会長に知れたら、凄い怒られるだろうな~~ぁ。」
溜め息混じりにポツリと呟くと、いきなり前を歩いていた雪人がグリンッと振り向いた。
「なぁっ、なぁっ、お前と桜塚会長って付き合ってんの?」
「ぶッッふぉッッ!!!」
雪人のとんでもない問いに、思わず吹き出してしまった刀夜。
「なッ!なッ!なんでッ、そうなるッ!?俺と桜塚会長とは、ただの生徒会内の先輩と後輩の関係で…///////////ッ!!」
「でも二人は、住んでいるところが近所で、小・中そして高校まで一緒だろっ?」
真っ赤になっていく刀夜を、雪人がニヤニヤと問い詰めていく。
「た、確かに昔っから良くしてもらっているけど………結さんと、つッ、付き合うなんて滅相もないッ!」
「「結さん」ね~~~ぇ。」
更にニヤニヤする雪人。
いくら桜塚会長とは小学校からの知り合いとは言え、あちらは容姿端麗、頭脳明晰、運動神経も抜群ときている。
サラサラの長い髪を揺らして構内を歩けば、男女ともに羨望の眼差しで見惚れてしまうような完璧な生徒会会長様だ。
はっきり言って、自分とは「月とスッポン」ぐらい違うと思っている刀夜。
(…………まあ、俺がユキぐらい顔が良ければ、少しは可能性があったかもしれないけれど…。)
自分の凡庸な顔に溜め息をつく刀夜。
「ユキ。急に何でそんなこと言い出した?」
そう発想したということは、何かしら理由があるはずだ。
「……………………。」
たが雪人から、すぐには返事が帰ってこなかった。




