一章:7 「俺ってば、刀夜のように『攻撃をかわす』なんてまどろっこしい芸当できないわけよ…。」
ガスッ!
ボスッ!
ドスッ!
連続して響く殴打音。
「なにコイツ?全然、弱ちいじゃんっ。」
「ははっ。さっきの威勢は、どこ行った?」
嘲笑いながら二人の三年生たちの殴打が続く。雪人は得物である竹の棒を離してはないものの、身を屈めて頭を庇うように両手でガードしているだけだ。
「顔を狙えッ。顔をッ。学校中の笑い者になるぐらい、グチャグチャにしちまえッ!」
その二人の後ろで、あのフラれた三年生が残酷な命令する。完全に嫉妬によるものだ。
そんななか…。
「イヒッ…。」
…ガードしている腕の中から小さな笑い声が聞こえた。それが…。
「…クッヒヒヒヒッッ。」
…大きくなっていく。
雪人が、打たれながら笑っているのだ。
「はあっ?コイツ、笑ってるぜ?」
「打たれ過ぎて、頭が可笑しくなったか?」
攻撃をしながら、訝しげな顔をする三年生たち。ひとしきり笑った雪人が、腕の隙間からそんな二人を見た。
「………俺ってば、刀夜のように『攻撃をかわす』なんてまどろっこしい芸当できないわけよ…。」
「バカかッ!そんなことエラそうに言ってんじゃねぇッ!」
三年生の一人が今までに一番の力を入れた拳を、雪人に振り上げたッ。
そのモーションは、どうしても力を入れた分だけ大きくなる。………それを雪人は逃さなかったッ。
身を屈めていた分、バネのような瞬発力で拳を振り上げた三年生の懐に突っ込む。その間に手の中で先を短く持ち直した竹の棒を、その三年生の腕の根元に向かって突いたッ。
ゴキ…ッ。
「…ヴッ、ガァッ!」
鈍い嫌な音と共に、振り上げた筈の拳がダランと下がる。打たれた三年生は、肩の痛みで崩れるように膝をつく。
どうやら雪人は、肩に打ち込むことで骨とスジをイカれさせ、腕自体を行動不能にしたみたいだ。
まさか、打たれぱなしのヤツに反撃を食らうと思っていなかったフラれた三年生。唖然としているあいだに、もう一人が雪人の脇腹に蹴りこんだッ。
「よしッ!今度こそ…。」と思ったが……雪人は足の踏ん張りと、脇腹に行く前の腕のガードで、それを受け止める。
(ツッ!?………よく考えたらコイツ、攻撃を受けているときも微動だにしなかったッ!!)
驚異的な打たれ強さと頑丈さッ。そう気づいたときには、もう遅い。
雪人はニヤリと笑うと腕で足を弾く。すると三年生の体勢が崩れた。
すかさず今度は長く持ち変えた竹の棒で、雪人は三年生の胸を突くッ。吹っ飛ぶように倒れる三年生。
「あー痛たかった。」
雪人はその整った顔から、埃を無操作に拭った。




