転生2
――意味が分からない。
此処は何処だ? 私は死んだ筈ではないのか?
トラックの目の前に飛び込み、一瞬の激痛で全てが終わった……筈だ。
良く見れば服も滅多に着る事が無くなった普段着に変わっている。何の冗談だ?
足元はよく分からない砂、空を見上げるとそこには何故か――地球があった。
はて、地球? ここは宇宙? 目前の蒼い星は結構近い。 もしかして足元のコレは――月?
走馬灯にしても月に生身で立った覚えは無い上、そもそもどういう訳か息が苦しくない。
あまりの突然の状況に、脳の処理が渋滞している。
半ば放心状態でその場に座り込み、地球を眺めていると何故か声が聞こえた。
「杠葉様~! 杠葉様~!!」
私を呼ぶ声? 声音に心当たりは無い。 勿論、こんな場所とも言えないような空間に知り合いなど居る筈もないのだが……。杠葉というのは間違いなく私の苗字で、呼び声が反響する事も無く、何処からか聞こえてきた。
「あぁっ!? こんな所にまで飛ばされて……、なんとお詫びすれば良いのやら……。」
「何……? 貴方……。」
あたふたという効果音がまさしくピッタリ合う様子の女性が、文字通り飛んできた。
―――
「離しなさい! ここは何処で、貴方は誰で、私が今どういう状況になってるか全部説明しないと、私は絶対動かないってば!」
「あっ、暴れないでください! 今から説明できる場所に連れていく所なので!」
「その説明が連行より前に出来ない理由が分からないから下ろせって言ってるのよ! この悪魔!」
「悪魔ぁ~? 貴方罰当たりにも程があるわよ!? 女神に向かってなんて言い草を……!」
「貴方が女神? 無理よ無理! 尊厳が全く感じられなグ!」
首を絞められた。 それもアームロックで。
「いいですか? もうすぐ説明会が始まるので、急いで連れて行ってるんです。 貴方があんな場所に落ちたのは手違いで、それは謝ります。 ですが、そこをとり上げて罵られる謂れはありません。」
ギブアップの意味も込めて腕を叩くと拘束を緩めてくれた。 何故か息苦しくは無かったが。
「何かまだ分からない事はありますか?」
「……説明会ってのは何?」
「杠葉様と同じ……、いえ似た境遇とも言いますか。 まあ、そういう人たちが集めて、何が起きたか、今後どうすれば良いかの説明です。 所謂『啓示』ですね。」
啓示だなんて、まるで神のような事を言う。 現時点では自称だが。
現状、50kg前後の私を適当な担ぎ方で持ち上げるばかりか、その状態で飛んでいるので人外の類であるのは間違いない。
さっきまでは結構本気で抵抗していたが、もう少しで抜けれそうという感覚も恐らく手加減によるものだろう。 明らかに勝ち目は無いので、この場はそれ以上抵抗する事は止めた。
「しかしまあ、何というか凄い場所まで流されましたね。」
「何の話よ。」
「貴方の事ですよ。 本来の位置から大きく離れてて、お陰で捜索が大変だったんですよ?」
「話が見えてこないわ。」
「ううむ? 何やら話が伝わって無い様子。」
ちゃんと向き合って話していたらお互いの間の抜けた表情を見合えただろう。会話は成立しているのに話が通じないという状態になっていた。
「えぇっと……、死んだのは覚えていますか?」
「ええ。自殺したわ。」
「自分の死因についてはえらくハッキリ言うんですね……。まあ、それはそれとして。」
「では少しスケールが上がりますが……、貴方の文化圏では死後の世界はどういう扱いになっていますか?」
「は? ……あの世とか、彼岸とか言われてるわね」
「その辺りからですかね。」
「まず此処、月が所謂『死者の国』です。死んだら皆魂が此処に来ます」
悪人とか善人とか関係ないですと付け足す。 やはり此処は月で間違い無かった上地球も青くて安心した。
「そういえば月を切っ掛けに転生……なんて作品もあるわね。」
「はい。 そういった世界観の物はなかなか事実に近いです。 多分何か受信したんでしょうね。」
「……ん? 転生?」
「はい、転生です。 良く気付きましたね。」