表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

雪月花

月の輝くところ

作者: 綾乃 蕾夢

 月に向かって、大きな蝶が飛んでいった。


 闇夜に青白く輝く、大きな月。

 (うれ)いを()びた美しい鱗粉(りんぷん)が尾を引いて。



 彼はいつでも月の輝くところを目指していた。



 あの日、彼は旅に出ると言った。


 何もない、この不毛の大地に未練はないと。


 私は残される悲しみを少なからず感じていたが

 彼を止めることは出来ないと分かっていた。


 じゃあ、お気を付けて。


 背後から声をかけた私を彼は振り返り、おそらく微笑んでくれたのだと思う。


 ()の光の中に入ってしまった彼の顔は、逆光のせいもあったのか、その表情は今では上手く思い出せない。


 また、会える。


 確かに彼は、そう言ったはずなのに……。



 もう、ずっと昔のことのような気がする。


 彼は(いま)だに帰らない。



 そこは豊かな水が緑を育て、月の明かりが花を照らす。

 甘い蜜に蝶が踊り、限りを知らない喜びが溢れるところ。


 そんな場所があるはずは無い。


 彼の妄想(もうそう)を私は笑ってしまった。


 彼は無事にそこにたどり着いたのだろうか。


 今日も彼の背中を見送ったこの場所に立つ。


 ふと落とした視線の先に、大きな蝶が横たわっていた。


 力尽きたその身体を風が通り抜けていく。


 そのままにしておいてはいけない気がして

 私は蝶を両手ですくい上げた。



 ああ。そうか。


 私は澄んだ夜空を(あお)いだ。


 彼は私そのものだった。

 彼は()ってしまったのだ。


 月の輝くところへ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 申し訳ありませんが、私には少し難しかったようです……。ですがこういうものを探していました。文章がすごく美しく、読んでいて心が浄化される様なものを感じさせられました。 純文学というよりかは詩…
[一言] 詩的な物語が儚く、とても美しいと感じました。 蝶は人の魂だとも言われますよね。 彼は月に魅入られ、帰ってこなかったのでしょうか。 それとも元々の帰る場所が月だったのでしょうか。 読み方によっ…
[良い点] ごく短い文章の中に風景や彼らの関係など想像が膨らむ余地が沢山ある、とても美しいお話だと思いました。 言葉を交わし合ったり顔や背中という表現があるのを見ると人間同士のように思えますが、しかし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ