12歳の誕生日!
月日は巡り、私は12歳の誕生日を迎えた。
この日が来るまで、本当に長かった。
あの日の制限通り、父は私を5歳くらいから冒険者になるためにひたすら鍛えあげたのだ。
鍛えられたというか、生きるために強くなったようなものだが。
朝起きて、兄のエリックと屋敷の周りを走り、ただ、棒を振り回している修行?な時はまだ良かった。
おそらく私が修行に対して、本気で取り組んでいない事が伝わったのか、父はある強硬手段を取った。
なんと、まだ6歳の女の子を魔物がたくさんいる森に放り込んだのだ。
あの時は死ぬかと思った。
支給されたのは、小刀と携帯食料1日分、水3ℓだけだ。十分と思うかもしれないが、飢えの心配よりも魔物に食べられる事の方が心配だった。
結果、私はひたすら魔物に見つからないように様々なものに擬態し、なんとか見つからず脱出できた。(何回か見つかり、食べられそうになったが。)
この日から、私は決意した。真面目に修行をしようと。じゃなきゃ、いつか本当に死んでしまう。
そうして体術も必死に学び、1年で森の中を逃げ惑うしかできなかった私は森の中級の魔物を倒せるようになっていた。(残念ながら、兄には及ばなかったが)
そして、9歳になる頃には魔術を学び始めた。
魔力は生まれた時から、既に大人程度あったので魔術を使う事は苦労しなかった。
むしろ、私は現代にはなかった魔法に夢中になった。
何もないところから、火、水、土など様々なものを魔法の計算式を詠唱すれば出せるからだ。上級者になれば、頭に計算式を思い浮かぶだけでだせる。
体術より、むしろ魔術の方が私は好きであった。
そして、10歳になった私は近くの森の主はもちろん、
父の仕事(勇者であった父の元には未だに多くの魔物討伐の依頼がくる。)に連れていかれても、ほとんどの魔物は倒せるようになっていた。
それから、12歳になる頃にはギルドでも中級冒険者程の実力を認められていた。
そして、12歳になった今日に至るのだが…。
もう、今までの苦労はしなくてもいい。試験に落ちさえすれば、私の素晴らしいお嬢様ライフは始まるのだ。
試験を受けるのは億劫だったが、今日が素晴らしい日には違いなかった。
今日は私の誕生日なだけあって、パーティーが開かれていた。
屋敷中には、たくさんのお客さんがきており、たくさんの料理が並んでいた。
一応、私はお嬢様なのだが元々冒険者であった父や母の知り合いがほとんどなので、格式ばった事はしなくてもいい。
「メルシアちゃん、お誕生日おめでとう!」
「立派になったね。」
「お誕生日楽しんでね、メルシアちゃん!」
私の姿を見かけるなり、皆が私に声をかけてくれた。
「みんな、ありがとう!」
客のほとんどは冒険者であって、いかつい人もいるがみんな心優しくていい人ばかりだ。
そんな中、小柄なメガネをかけた少年が自分の元へと駆け寄ってくる。
「メルシアー!お誕生日おめでとう!
これで、僕と同い年になったね。」
「ありがとう。ヨルン。ヨルンは相変わらず、なんか小さいね。」
「小さくないやい。見てろ。絶対、メルシアより大きくなってやるんだから。」
「あはは。うん、期待しない程度に楽しみにしておくよ。」
「もう!メルシアって本当、いじわるだ。」
「ごめんごめん。ヨルンっていじると面白いから。」
「……で。メルシアもギルドの試験、受けるんだろう?」
「うん。父さんが受けろって言うから。」
「でも、お前は受けたくないんだろう?」
ヨルンには私があまり、冒険者に乗り気ではない事は話していた。
「うん。だから、わざと落ちようと思ってる…。」
「お前。それはふざけんなよ…。」
そう呟いた途端、ヨルンは怒り出した。
「お前なぁ、受けるのだってタダじゃねえんだぞ。
世の中には必死に金をかき集めて、やっと試験を受けるやつだっているんだ。
そんな曖昧な気持ちで受けるなよ!」
ヨルンの家は私の家とは違い、家族皆で助けあって生きていける家だ。だからこそ、受かる気がない私が許せなかったのだろう。
「ヨ、ヨルン、私…。そんなつもりじゃ。」
「いや、お前は何もわかってねえよ。」
そう言って、ヨルンは行ってしまった。
謝りに行こうと走りだそうとした時だった。
「お嬢様、お父さんがお呼びです。」
執事に呼びとられ、私はひとまず父の部屋へと向かった。
「失礼いたします。父上。」
「入りなさい。」
部屋に入ると、父は朗らかな笑みで私を手招いた。
「メルシア、12歳のお誕生日おめでとう。」
「ありがとうございます。父上。」
「あんなに小さかったお前が、もうギルドの試験を受ける年齢になるなんて…月日は早いなぁ。」
感慨深そうに窓の外を見ながら、父は呟いた。
私は少し照れながら、父に本題を切り出した。
「ところで、御用とは何でしょうか?」
本当はわかっている。例の件だ。本当は話せる段階で何度も冒険者になりたくないと言いたかったが、あまりに私に期待してくれている父を目の前にすると話せなかったのだ。
「さっそくだが、明日ギルドの試験を受けてもらおうと思っている。合格ならば、冒険者として生きてもらう、失格ならば、母さんの言う通り、花嫁修行に専念すればいい。」
「はい。わかりました…」
そういって、私は俯いた。わざと落ちてしまえば、父をがっかりさせてしまうことになるからだ。罪悪感が湧いてくる。
その姿を見た父は緊張していると感じたらしく、
「大丈夫だ。お前は試験に合格する、むしろそれ以上の実力を持っている。」
「ありがとうございます。」
私は申し訳のない気持ちを抱えながら、父の部屋を後にした。