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特殊部隊  作者: FLOG's
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1章【予感】デモ隊編③

デモ隊から少し離れた位置に集結する警察隊は、デモ行進時の警官隊の配置について確認を行っていた。そこで声を張り上げているのは竹だ。

「今回のデモは30人規模の大所帯での行進だっ!今言ったようにぬかりない配置になってる。てめぇら、気を抜くんじゃねぇぞ!」

『はいっ!』

「右後方、わけた、しろむら、いいかっ!」

「はいっ!」

「はっ!」

竹の入念な確認に返事する。

「左後方、右中腹の――えーっと。石と柄川!」

「あいよっ」

岩下は先ほどの仲介人ぶった竹を見下すようにぶっきらぼうな返事を返す。当然ながら、竹本人にその気など毛頭ないのだが。

「あぁ?!」

『はいっ!』

岩下は竹の声にすかさず返答を直し、柄沢も誤魔化すように合わせて声を張り上げる。

「今片方ため語ゆったよな…」

竹は、二人の取り繕うような返事を聞きながら、岩下の言動を振り返りつつ首を傾げる。

近くでその流れをみていた大道が数歩前に出て、斜め前から警官隊へと声をかける。

「平日の表参道とはいえ、人は多い。市民の邪魔にならず、いざこざのないよう。また、デモ行進がとどこおりなくできるようしっかり警護する。いいな!」

大道が締めくくるように挨拶すると、竹は小さくうなづいた。

「了解です。よしっ、全員配置に着け!」

『はっ!!!』



場所は変わり、東京都の中心にほど近いビル街。

そのビルの一角の、会議室に近い広さを持つ部屋に、がたいの良い男が部屋へと入ってくる。男はそのまま真っ直ぐ部屋を歩くと、その正面に位置するアンティークな装丁の机に座る初老男性へと一礼をすると報告を告げる。

「代表。いよいよ参道での行進が始まるようです」

ここは、デモ行進を行う集団の所属、リーフの会の本部であった。

「うん。街頭発信こそが会の根源。…ですなぁ」

この初老男性はリーフの会代表を務める芦山昌美(あしやままさみ)

その芦山は、最後の言葉を呟く時に、斜め手前に置かれたソファーへと座る男性に話しかけるようにそちらを見た。話しかけられた男はそれに対し何も答えず、代わりの様に膝へ置いていた手をぎゅっと強く握りしめた。



表参道では、時間もお昼を回りオフィスレディ&メンは昼食を終え、夕方までの穏やかな時間を迎えていた。

その頃を狙うようにリーフの会の一行は予定通りにデモ行進を神宮前より開始した。

デモのため封鎖された道路をデモ隊は「秘密通信保護法悪用反対!」や「社会保障制度を守れ!」といった各々テーマを打った横断幕やプラカードを持ち、参道を下へ下へと下りながら行進をしていく。

デモ隊には、老若男女問わず様々な年齢性別の人々が含まれていた。その一人ひとりが自身の、そして全員の言葉を周囲へと伝えようと強く叫ぶ。

「民国党政権の秘密通信保護関連法に反対―!」

「反対―!!」

「国民を欺こうとする消費増税、それと引き換えの社会保障制度の充実化はどうなってるんだー!」

「そうだー!そうだー!公共事業ばかりに税金を通やし、必要な医療費負担、介護制度の改革は棚上げかぁー!」

デモ隊の面々は、思い思いに現政府に対する問題点を指摘し、自らの所属するリーフの会の精神を訴えた。

「今こそ、我々国民が声を上げるときです。政府は都合の良い理屈ばかり並べ、献金企業と談合し無駄な公共事業を進め、一部だけが潤う経済政策を進め、日本全体の景気にはなんら好影響を与えず、国の増えていく借金には国民の血税で穴埋め。一刻を争う病に苦しむ人々への医療負担、待ったなしの介護政策にはそ知らぬ顔をする」

リーダーが拡声器を使い言葉を連ね、参加者はそこへさらに訴えを乗せ、叫ぶ。

「私たちの血税は、私たちのために使うものじゃないのかー!」

「そして、近年では各国との連携を強調しての軍事拡大を匂わす動き!それに伴う情報管理強化を謳い、秘密を隠さんとする、まるでスパイ防止法とばかりの秘密通信保護関連法!」

そのリーダーの言葉を引き継ぐように、別の男が拡声器を使い、訴える。

「そうなんです!そもそも秘密通信保護法は、各国との信頼関係を築き重要機密を共有し、緊急時の事態に対応できるように制定した法でした。その使い道を決める関連法で秘密をしゃべった者に対する罰則規定を盛り込もうとしているとは、どういうことなんでしょう?!ここぞとばかりに戦時中の治安維持法にかける、そんな気すら彷彿とさせる危険なものではないでしょうか!!」

デモ隊の姿を、街を歩く人たちは振り返り、時には立ち止まってその言葉に耳を傾けている。

中には嘲笑するものもいれば、真剣にその言葉を聞いている者もいた。

警官隊は周囲に配置された形でデモ隊と歩みを合わせてゆっくりと進んでいく。

大きく分けてデモ隊の前・中・後の両脇の6箇所、さらにその周囲に6箇所。デモ隊を二重に囲む形で配置されている。さらに一定の間隔で警官が固定で配置され、通行人とデモ隊が接触しないよう警戒をしている。

そのデモ隊、そして警官隊の姿を見つめる怪しい人物達が、左右の歩道側から人影に隠れながら同じくデモ隊に速度を合わせて進んでいた。

デモ隊を見つめるように最初は電話ボックスの陰から、しばらく進むと自販機で珈琲を買いそれを飲みつつ、最後にデモ隊が歩く場所ギリギリのところから歩き近づいてくる。

その人物は、周囲に警戒しつつおもむろにスマホを取り出すと、電話をかけた。


岩下、柄沢も警察隊の石下、柄川両巡査として指定された配置についていた。二人は互いに警官の基本装備としての無線機とは別に、右耳へと特殊部隊の装備である小型インカムを装着していた。このインカムは、一見すると小さなカフスのようにも見える作りとなっていて、目に付きづらい。周波数は2つ分設定することができ、本部で予め設定する必要があるものの、その通信は秘匿性がかなり高い。特殊部隊内では特に重宝されている代物だ。

柄沢はインカムごしに別箇所に配置されている岩下へと話しかける。

「石下巡査。こちら後方右側の柄川巡査の柄沢だ!」

「はいよ!左中腹位置のいっしーよ。――いや、長いな…」

「まぁな。このスピードだとゴールまではかかるな」

「俺は、もっと短いほうがいいね」

岩下は歩道でティッシュ配りをしている女性を見ながら答えていた。その女性のスカートは、言葉通り膝上ぴったりのタイトスカートで、ミニスカートとは程遠い。

柄沢は言葉のかみ合わない具合から、何となく予想しつつ返す。

「おまえな。状況は問題なしだな?うん?」

「あっ!順調ー順調。昼過ぎの平和な時間ですね。――ん…今日は学生諸君お早い下校ね」

「そうだな…。今日は卒業式のとことか多いのかな」

時期だけに街の風景は、二人の会話のように下校途中の学生も多く沿道にみられた。

「(デモ隊にも目立った動きはないな)」

柄沢は見える範囲でデモ隊員1人1人の動きを観察しているが、変わった動きは見せず、プラカードを上げ下げしつつ訴えを続けている。そのデモ隊の行進も中間地点を過ぎようとしていた。

その中、デモ隊後方の路地裏では、3人の男たちが終結していた。そこはちょうど警官隊からの完全な死角となっている。男たちは、先ほどから喫煙所や自動販売機といったところから、デモ隊の動向を見続けていた者たちだ。

「…いくぞっ!」

男の一人が残りの二人に目配せをした後、ポケットに忍ばせていたナイフを取り出すと声をかける。それに合わせ、三人は弾かれる様にデモ隊の最後尾へと走っていった。



デモ隊の列が、二人が最初に来たときに集まっていた辺りを過ぎた。

表参道も半ばの交差点に差し掛かる。あと数十分もしないでこのデモ行進も終わるだろう。このままただの護衛のまま終わるか―――。

そういった考えが少し柄沢の中にも出ていた。しかしその時、最後尾から突然悲鳴が上がった。

「きゃー!」

「いてぇー!うぁー!!」

「やめてー!」

男の三人組みが突如ナイフでデモ隊最後尾に居た者たちに切りかかってきたのだ。柄沢、岩下は動きを止めるデモ隊と同時に悲鳴の方向へと目を向ける。

「浚?!」

「最後尾だ!」

インカムから飛んできた岩下の声にそう反応すると、柄沢は最後尾へと走り出した。三人組はデモ隊員5人に切りかかると、最後尾にいた警察官を振り切り、デモ隊の進行方向と逆に逃げようとしていた。柄沢はそれを少し遠目で見つつ追いかける。走りながら、倒れこんでいる数人を横に見て状態を確認する柄沢。腕や手から血が流れているが、量も少なく深手の者はいない。

「ケガ人は幸い軽傷者しかいないようだ。岩下、今どこだ!?」

岩下から返答が来る。

「もうちょいで最後尾に着く!ちょ、お前ら邪魔っ!」

柄沢と逆の側面で、中央寄りに配置されていた岩下は、混乱して逃げ惑う人の群れの中を掻き分けるように向かっているため、遅れているようだった。

待っていても逃げられるだけだと、さらに踏み込む足に力をこめ男たちを追いかける。3人の男が服屋の角を曲がり路地裏へと逃げ込むのが見えた。勢いのまま3人を追って服屋の角を曲がり路地へと入り込む柄沢。

直後、建物の影から金属バットを振り下ろされる。

「おおあぁぁ!!」

「っ!?」

「ガィンッ」

頭を狙われたが、どうにか身をよじって紙一重にかわし、勢いを殺せないまま柄沢は地面に転がる。バットは右耳をかすめ、そこに装着していたカフス型インカムを地面に叩きつけて遠くへと飛ばす。

男は振り下ろして地面を叩いた金属バットを再び持ち上げ、走りよってきてさらに振り下ろしてくる。それをひざ立ちからバックステップでかわす。バットはブンッと空を切った。その重さで、体勢が少し崩れたところを見逃さず、付く足に力をこめてすばやく前進し、男の腹部へとこぶしを叩き込む。

「うっ」

ガランッ、とバットを取り落とし、たまらずうめく男の懐へ間髪入れずに入り込み、右手で胸元を捻り上げる。

「っらぁぁ!!」

男の体を右手で強く引き込んで背中に乗せ、その勢いで投げ飛ばす。いわゆる背負い投げというものだ。ただし、投げっ放してはいるが。

『ガッシャーーンッ!』

男の体は一瞬宙を飛んだ後、服屋のディスプレイに背中から思いっきり突っ込んでいった。服や棚をあたりに散乱させ、激しい音を立てる。直後、服屋の中からは叫び声と何事かとどよめきが聞こえてくる。

「…ぁー、すまない」

制服を軽く整えながら、店と犯人のどっちにともつかない調子でつぶやいた。柄沢は足元に転がっていた金属バットを、再び利用されても困るのでビルの間に放り込む。その時、ちょうど岩下が追いついてきた。

二人は頷き合うと、路地の奥へと目を向ける。道は直進と斜め左の二手に分かれている。

「あと二人居る。この先だ」

「おう。挟み撃ちにすっか」

気絶した一人は岩下の後ろから追ってきた警察官に任せ、柄沢は真っ直ぐ。岩下はその横の道を走って後の二人を追いかけた。



岩下は、見慣れない路地を全力で走っていた。柄沢よりも先に回り男たちを挟み撃ちにするためだ。しかし、そこで岩下は思わぬ障害に当たってしまった。

「おぉっとっと。マジかよ…」

岩下は、慌てて足を止めた。目の前には壁が立ちふさがっていたのだった。岩下は行き止まりの塀を目の前にしつつ、すぐさま柄沢へとインカムを入れる。

「浚?浚?!」

柄沢に通信を入れるも、柄沢は先ほどの戦闘時に通信機を耳から落としていた。無論岩下がそれを知るわけもないのだが、とにかく返答は返ってこなかった。

「あーくそ。どうすっかな…ん?」

岩下は返答の来ない通信を諦め周囲を見回す。周囲は3方向がビルで囲まれ、来た道以外道は見当たらない。しかし、ふと横のビルにはめこまれた、古い窓枠へと目が向いた。その窓枠は上へ向けて等間隔にはめ込まれている。

「んー…なるほどね…」

その窓枠を下から上へと順に見ながら、岩下はうなづきつぶやいた。



柄沢は路地を走る中二人の男の背中を見つけ、尚追いかけていた。しかし二人の足は速く、さらに地形を把握しているようで思うように追いつけない。

「くそっ!」

距離を縮められず歯噛みをしながら走る柄沢。

二人が狭い路地を、横の道へ走りこんでいくのが見えた。追って入り込む柄沢。少し走ると行き止まりとなり、奥には犯人の一人が立っていた。少し離れたところで柄沢も止まり、その犯人の男に相対する。その男は、手に持っていた銃を構えてくる。

「……」

銃口を見据えた柄沢は、構えることもなく動かない。その引き金が引かれ、パンッと軽い音がする。

弾は柄沢の腹部に当たった。しかし変わらず柄沢は微動だにせず、足元にころりとBB弾が転がる。制服の下には、特殊部隊仕様の防弾プレートがしこまれていた。

「改造ガスガンじゃ、この距離でも衝撃もないぜ」

柄沢は鼻で笑うように言って見せた。銃口のライフリングの有無から、実銃でないことは見抜いていた。そして腹部を狙っていたことから動く気もしていなかった。

しかし、そんな柄沢の言葉を意に介さず男はにやにやと笑っていた。その銃口を、次は顔へと向けてくる。それに合わせ、後ろのビル入り口からもう一人が姿を現す。手にはナイフを数本持っていた。

柄沢は挟まれる形に立たされる。空いていたビルの入り口に気を配り損ねた事を心の中で少し悔やみつつ、柄沢はつぶやく。

「…上等だ」

背中を向けないよう横のビル壁を背にし、目の両端に二人を入れた状態で柄沢は構えをとった。

後ろから現れた男は、懐からおもむろにナイフを取り出すと、そのナイフをゆっくりと持ち上げ、ふっと振り下ろすとナイフを柄沢へと投げつけた。



場所は変わり、襲われたデモ隊と警官隊。

負傷した数名が手当てを済ませ、路上の隅に腰を下ろし安静にしている。その周囲では、警察官たちが絶えず無線で報告を行い、状況の把握と事態収拾に努めている。

デモ隊は一時進行を中断し、各々警察官の指示に従い、一箇所に集まって現場の行方を見守っていた。

現場は警察官と救急隊員、そしてデモ隊員とごった返している。

大道もその最中で竹と共に現場の指揮をしていた。その大道に駆け寄ってくる警察官が、大道へと耳打ちをする。

「犯人の一人を抑えました」

「そうか、よし…。竹、あと見とけ」

「了解です!」

大道は警察官に案内され、犯人の一人のところへ向かう。着いた先では、服屋のディスプレイから引きずりだされ、ぐったりしている犯人の姿があった。あたりは服や壊れた棚が散乱していた。

「どっちがやったか知らんが派手なもんだ…。おい、署に引っ張っとけ」

「はっ!」

敬礼をし、他の警察官と共にその男の両脇に立ち、持ち上げて運んでいった。大道はそれを見送り、その後周囲を見回す。ふと、隅のほうに転がっている小さなカフス型のインカムに目が止まった。

それを拾い上げて一瞥すると、上着のポケットに放り込み路地の先へと足を踏み入れた。



柄沢へと場所は戻る。

『カツッ』

右へ少し動いた柄沢の左腕のすぐ後ろ横にナイフが突き刺さる。壁にはすでに数本のナイフが刺さり、足元にも何本か落ちている。

「警察官さんよう、結構がんばるじゃん」

にやにやと笑いながら男はまた新たにナイフを取り出す。その間、もう一人のガスガンを持つ男は常に柄沢に照準を合わせ続けている。

はさまれていた初期の状態から三者の位置関係は変わり、今では柄沢が袋小路の壁に背を向けていた。

男たちの連携は絶妙で、片方が見せる隙をもう片方がきっちりとフォローをしている。

その連携にやられながら現在の位置へと誘導されてしまい、今ではナイフの的と化している。

反撃に出ようとも思ったが、飛び道具二人に同時に攻撃されたら、下手をすればやられかねない。こちらが一人である以上、相手が余裕を見せて遊んでる構図が、隙を探す点では望ましい。とはいえ、それでも時間の問題ではある。

柄沢の額にはうっすら汗が浮かび、それを服の袖でぐいとぬぐう。すでに何度もナイフをかわし続け、体力は確実に削られつつあった。

ナイフ男はゆったりとした動作で手にしているナイフを掲げると、柄沢めがけ投げる。柄沢は左へすばやく動く。ナイフはブロックに刺さらず柄沢へ向かって跳ね返ってくるが、それをさらに紙一重でかわす。

「おー、すっげぇ反応速度。じゃあ、これでどうだ!?」

両手にナイフを持って同時に投げてくる。仮に両方壁に刺さらず跳ね返れば、一方は刺さる可能性がある。柄沢は瞬時に軌道を読み、ブロック塀に刺さっているナイフを一本抜くと、飛来するナイフを横に一閃して同時に弾く。ナイフは弾かれ、少し離れた地面へ落ちる。

「っすげー!あんた最高すぎる!」

ナイフ男は拍手をする。柄沢はそれを見て舌打ちをする。

「ほめられても嬉しくないな…」

「おい、そろそろやべえぞ。終わりにしようぜ」

その光景を横で見ていたガスガン男がナイフ男に声をかける。

「え~。…まぁそうだな。なごり惜しいけど仕舞いにするか」

そう言ってナイフ男はナイフを二本取り出す。ガスガン男も、脇を締め直して柄沢の顔面に照準を合わせてくる。同時に打ち込んでくるつもりなのだろう。

「くそぉ…」

柄沢がつぶやき、ナイフ男がナイフを掲げた瞬間、ふっと黒い影がナイフ男の頭上にかかると同時に声が聞こえた。

「おまっとさーん!」

その声に三人が上を見上げると、岩下がビルの3階から降ってきた。

岩下は犯人の後ろに背中を向けて着地すると、足元で砂煙を立てつつ、体をひねり犯人二人を見据える。直後、右後ろ回し蹴りでガスガン男の手を蹴り、その勢いのまま左回し蹴りでその男の肩を蹴り地面へ叩きつける。

あっけに取られているナイフ男を、柄沢がすばやく間合いを詰めると、そのナイフを持つ手を捻り上げてナイフを落とさせると、その手を後ろへ回して手錠をかけた。

「浚ちゃん!水もしたたるいい男ってか」

岩下は柄沢の流れ出ている汗を見ながら、軽口をとばす。それを聞いて、柄沢はむっとしながら別の言葉で返す。

「ったく。道間違えたろ?!」

「わりぃ、わりぃ。ってインカム、お留守番になってるけど?」

柄沢は、右耳を指で軽く叩きながら言う岩下の言葉に、通信機を落としたことに気づく。

「…。しまった」

柄沢は自分の右耳を触りながら、苦笑いを返す。岩下も柄沢の苦笑いに合わせて笑顔を見せる。

そこへ大道を先頭に警察隊がやってきた。

「おぉ。二人とも大丈夫か?」

岩下は、大道に目を向けながら地面に倒れた男に手錠をかけながら大道に答える。

「見ての通り。確保しました」

大道は近づきふたりが犯人を抑えている姿を見ると笑いかけながらねぎらいの声をかける。

「ご苦労さん」

そして、後ろの警察隊の面々に目をやった。

「まったく。わき道みりゃこの場所ぐらい察しつくだろ…」

柄沢を追い、見失ってしまった警察官らに訴えるようにいう。

「……」

警察隊数名のうなだれる姿を大道は見た後、柄沢に抑えられたまま睨んでいる男に近づき、髪の毛を引っ張り顔を合わせるとその強面で睨み返す。男はその顔を見て、びくっと体を震わせた。

「署でゆっくり聞いてやるからな!」

岩下と柄沢の二人から犯人を引き継ぎ、警察官たちは男たちを逮捕した。



一向は、柄沢が最初の犯人の一人と戦闘した店の前へと戻ってきた。先ほどの犯人が突っ込んだ店では、店員が店先を片付けていた。その中で、一人の店員が棚の下を見たりしながら何かを探していた。

「あれっ。このマネキンに持たせていたバットは?」

「ないのか?」

その声を聞いた柄沢は、表参道の大通りを目指し歩いていた一行から抜けると、ビルとビルの間に足を進め、そこからバットを取り出し店員Aに差し出した。

「あっ!ありがとうございます」

「いえいえ。…ただ、金属だと危ないですから次は別の物にしては?」

店長がすかさず話す二人に駆け寄る。

「申し訳ありません。別の物に変えます」

柄沢はそう聞くと笑顔で会釈し、一行の元へと戻った。

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