第一話 私は攻略対象
ああどうも、初めまして。
唐突ですが私、転生者です。
そんでもって前世は男でした、今は女の子です。
あとそれと、この世界はギャルゲーム「空色Lover」の世界です。
私はそのゲーム攻略対象のひとり「雨宮 翔子」という者です。
べつに電波とかそういう厨〇的なアレではないです。
まあ、私のことを簡単に説明するとですね、安土桃山時代から続く将軍の家系である「嵐野家」に、古くから忠臣としてお仕えする我が「雨宮家」の一人娘で、嵐野家の嫡男であるこのゲームの悪役令息「嵐野 聡一郎」様のお側付きといったところ。
そっかぁ俺、攻略対象なのかぁ...
なーんて、転生直後呑気に考えていた私は、あるとき気がついてしまいました。
『え、じゃあ俺ってば攻略されちゃうのっ!?』
とね。
私こと雨宮 翔子の攻略フラグは、「不正をし続ける聡一郎に、主人公くんが法の下に裁きを与え、束縛されていた翔子を救う」というもの。
そう、私のフラグの原因は聡一郎様にあるのだ。
このまま聡一郎様をのさばらせて置くと後々私が主人公くんに攻略されかねない、私にとって野郎とのボーイミーツガールなどダレトクホモトクなのだ。
だったら憂いの元を断てばいいじゃない、と思い立ちまして。
現在は聡一郎様の更生計画を実行中であります。
今私は6歳。
来月から小学校へ通うことになりますから、今日は聡一郎様と初めてのお顔合わせの日なのです。
ふふふ、待っていなさい聡一郎様、あなたを七三分け詰め襟瓶底メガネにしてあげますよ... ふふふ...
◆
「あのお部屋に聡一郎様がいらっしゃるから、翔子ちゃん、ご挨拶してきなさい」
「はい、母様。失礼します」
微笑む母様に一礼して、縁側の突き当たりにある襖まで歩を進めた。
結って貰った髪の毛が、頭の後ろでゆらゆらと揺れる。
今日身に付けているのは、質の良い灰色の着流しだけである。
6年間も和服だけで過ごしていたから、ただの洋服の方が違和感を覚える。
実際、昨年の誕生日に叔父が買ってきてくれたヒラヒラのフレアスカートとシャツを着てみたのだが、生地の薄さと軽さに心許なさに不安しか抱かなかった。
スカートの方は別の意味で不安になった、というか恥ずかしかった。
父様がなんだか凄い勢いで一眼レフのシャッターを切っていましたが、母様の無言の物理攻撃で沈められてしまいました。
おっと、いけない。
思考が逸れました。
床に正座して、口を開く。
「失礼します」
......へんじがない、ただのしかばねのようだ。
襖に手を掛けて、ゆっくりと開く。
部屋のなかは藻抜けの空だった。
明かりを消した薄暗い12畳ほどの一室、散らかされた布団が押し入れから顔を覗かせており、それ以外はいたって普通のお部屋。
立ち上がって、部屋に1歩踏み込む。
「失礼します。嵐野 聡一郎様、ここにいらっしゃいますか?」
一応問い掛けてみるが、反応はなし。
お留守みたいだ。
おかしいな、母様はここにいらっしゃると言っていたのに。
ふむ、聞いてみるか。
一旦引き返そうと部屋に背を向けた瞬間。
「とりゃぁっ!!」
襖の左に壁沿いに設置されている箪笥の上から、雄叫びと人影が降ってきた。
人影は覆い被さるように飛び付いてきたので、私は一歩だけ後ろへスッと下がった。
―――――ビターンッ
「ウギュッ!?」
もはや人間ではない呻きを上げて畳へ叩き付けられた人影は、私より少し小さいくらいの少年だった。
しばらくしてから少年がムクリと起き上がり、私に指を突きつけてこう言った。
「よけてんじゃねえっ!」
「え、えぇー...」
思わず語尾に(汗)がついてしまいそうな声を出してしまった。
恐る恐る、謎の少年に向かって訪ねてみた。
「ええと、もしかして、あなたが聡一郎様で?」
私の質問にピクリと反応した彼は、腰に両手を当て、胸を張ったふてぶてしいポーズで答えた。
「おう! おれがこのいえの、えっと、じきとうしゅ? のそういちろうだ! おぼえとけっ!!」
「...あ、はい」
なんだ。
なんだ。
なんなんだ。
この――――――――――残念ボーイは...ッ!?