第三話 一日の終わり
—— トルトン
「この世界の町ってなんか,いいよな」
「そうだよね、なんかのんびりしてるし平和だしね。ここにずっといてたいくらい」
ギルドから出た悠斗たちはトルトンを観光していた。
「悠斗、ハル装備を揃えるんじゃないのか?」
「なにいってんのレイ。ここ最近逃げてばっかりだったんだし、たまにはいいでしょ」
「まあ、いいか」
「ハル、こっちで何かやってるぞ」
「え、なになに?」
そこでは屋台が立ち並ぶ祭りが開催されていた。
「この世界にも祭りはあるんだな」
「悠斗がいた世界でもあったのか?」
「ああ、あまり参加はしなかったけどな」
「お~い、ゆうとーはやくはやく!」
「ハルが呼んでるぞ。早くいってやれよ」
「いっけね。じゃあ行ってくる」
あんな楽しそうなハルを見るのはいつぶりだろうな。
これも悠斗のおかげか。
「レイも来るか?」
「俺はちょっとな。二人で楽しんでくれ」
「分かった。じゃあまたあとでな」
「ゆうと、早く見に行くぞ!」
「おう、そうだな」
悠斗とハルは祭りへ向かった。
あの二人は楽しんでくれて構わない。けれど俺はやるべきことをやらなきゃな。
王女と交わした約束を守るために
そう思うとレイは竜の姿へと戻り、空へと飛び立った。
「ふむ、追って来るものはいないか。珍しいなギルドがあるから大きくは動けないのかもしれないが」
ひとしきりの偵察を終えたあと、レイは地上に降り立ち人の姿へと戻った。
にしても胸騒ぎがする。あとで取り返しのつかないことが起きなければいいのだがな。
その頃、一人の男が遠くからトルトンの様子を伺っていた。
「危なかった、あの竜は実在していたのか。これは厄介なことになるな。早く姫を回収しなければ」
そういうと男はトルトンへと向かった。
夕方
「ああー、楽しかった」
「ハルは祭りとかに来るのは初めてなのか?」
「ハルは祭りに来るのは初めてなのか?」
「僕はなかなか外に出ることがなかったから。でも、今日はすっごく楽しかったよ! またいつか一緒に来ようね」
「わかった。またいつか一緒に来ような」
「うん!」
その時、遠くから足音が聞こえた。
「二人とも、祭りはどうだった?」
「あ、レイ。えっとねーすごい楽しかったよ」
「そうか、それは良かった。宿を取ったからそこで休むぞ。ハルと悠斗は同じ部屋にしたけどいいよな」
「やったー! 悠斗と一緒だ」
ほんと楽しい時はいい笑顔するよな。こいつは
よし、それじゃあ行くか.
「はあ~、ふかふかのお布団だ、悠斗も早く来なよ」
「うん、今行く」
一時間前
「悠斗、ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?」
「おう、いいぜ。何のことだ?」
「お前がアグナのスキルを吸い込んだあの技。あれは刻印もちしか使えない禁断並みの威力だ。お前、向こうの世界で何があった?」
「思い出せないんだ。自分の名前以外、自分のことが何にも。だから俺はどんな奴だったのか分からない」
「そうか、じゃあしょうがないな」
「でも」
「でも?」
「あの技を使った時、俺は確かにこの世界が来るべき世界だったって思えた。不思議だよな、どんな人間だったかは思い出せないのにイメージだけはできて」
現実では悠斗は中二病だった。しかし、彼をそんな風に変えた理由こそが彼の抱えていた最大の闇であった。
「悪いな、そんなつもりじゃなかった。でも今日会ったばかりのお前にすごく助けられた。ありがとな」
「俺もこの世界にきて一日色々あったけど、レイとハルに出会えてほんとに良かったと思う。明日からもよろしくなレイ」
「よろしくな悠斗」
「ねぇ悠斗、悠斗ってば」
「わりぃ、考え事してた」
「むー、まあいいか。ところで約束の事なんだけど」
「約束なんかしたっけ?」
「覚えてないの? 帽子外してあげるって約束したじゃん」
「あ、そうか」
俺が答えるとハルは帽子を外した。
改めて見ると、やっぱりきれいだ。まるで天使みたいな。
「ねぇ悠斗、約束守ったんだから僕のお願いも聞いてくれる?」
「わかった。俺に出来ることならなんでも」
「よかったらでいいんだよ。もし嫌だったら断っても」
「わかったわかった。じゃあお願いってなに?」
「腕まくら、して、くれないかなぁ」
可愛すぎかよこいつ
「ごめん、今日会ったばかりなのに。私となんていやだよね」
「そんなことないぞ」
「じゃあ、ほんとにいいの」
「いいけど、逆にいいのか?俺なんかで」
「うん、レイには断られるし、悠斗は一緒にいて安心できる。ずーっと一緒にいたいくらい」
「そうか、うれしいな。そう言ってもらえると」
「今日は本当に色々あったね」
腕の上に頭を乗っけてるレイが話しかけてくる。
「そうだな。色々あった」
転移したと思ったら二人に出会って、戦士から逃げたり、ギルドに入ったり祭りに行ったり。
「でも僕はすっごく楽しかった」
「俺もだ。今日は楽しかった。また明日も楽しく過ごせるといいな」
「そうだね」
そういうとハルは悠斗の胸に顔をうずめて眠りについた。やっと安心できる場所を見つけたかのように、ぐっすりと
今日会ったばかりだけどこのハルを俺がずっと守っていきたい。
そのためにこの空想を使いたいな。
悠斗は隣にいるハルを見て、そっと呟いた。