冬の女王
むかしむかし。
と言っても、そんなにむかしのことではないよ。
とっても遠いところから、とっても近いところまで。
見えるところはぜんぶ、ひとつの国だったころ。
その国には、春と、夏と、秋と、冬と。
四つの季節の女王様がいたんだ。
その国では、いつまでも春だったり、夏だったり、秋だったり、冬だったりして。
春のつぎに秋がきて。
冬のつぎに夏がきて。
そんな、じゅんばんのない季節だったから、国のみんなはとてもこまっていた。
花がさいたのに雪がふってかれてしまったり。
くだものがとれたのに暑くてくさってしまったり。
そんなことが続いていた。
ある時、女王様は話し合って。
季節をじゅんばんに作ろうって言ったんだ。
そうすれば、ゆっくりとゆっくりと、季節がかわって。
国の中に、春と、夏と、秋と、冬と。
四つの季節がめぐっていくって、そう考えたんだね。
春の女王が塔に住んでいるときは、夏と、秋と、冬の女王は、春の女王がさみしくないように、国中にさいた花をあつめては、花たばを作ってとどけに行った。
夏の女王が塔に住んでいるときは、春と、秋と、冬の女王は、夏の女王がさみしくないように、国中でいちばんの青空を、みんなであつまっては毎日ながめた。
秋の女王が塔に住んでいるときは、春と、夏と、冬の女王は、秋の女王がさみしくないように、国中でとれたくだものや木の実を、たくさんたくさん持っていった。
冬の女王が塔に住んでいるときは、春と、夏と、秋の女王は、冬の女王がさみしくないように、国中にふった雪の結晶を、少しずつ少しずつ、あつめていった。
そうやって、何年も、何年も。
春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来て。
季節が、めぐっていくのを、だれも不思議に思わなくなって。
何年も、何年もたって。
☆
ある年のこと。
いつものように、冬がきて。
あたりいちめんまっ白に、雪におおわれる季節になった。
空は毎日、雲におおわれて。
青空が見える日なんて、ほんの少しもない日が続いた。
国のみんなは、春と、夏と、秋にとっておいた食べ物を食べながら。
きっと春が来るだろうって思っていた。
あたたかいストーブにあたりながら、冷たい冬を、すごしていった。
春が来れば、ごわごわとしたふくをぬいで、たくさんの花をながめることができるからと。
夏が来れば、いっぱいの青空の下で、おもいっきり仕事ができるからと。
秋が来れば、おなかいっぱいにくだものや木の実を食べることができるからと。
そう。
長い間、季節がすぎて。
何年も何年も、季節がすぎて。
国のみんなは、春と、夏と、秋は好きになった。
だけれども、冬だけは。
好きになることは、できなかった。
だから、早く、冬が過ぎるように。
早く、冬の女王が塔から出ていくようにって。
国のみんなは、いのっていた。
毎日毎日、空を見て。
毎日毎日、塔を見て。
早く、冬の女王が塔から出ていくようにって。
国のみんなは、いのっていた。
でも、いつまで待っても、いつまで待っても。
春の女王は、来なかった。
冬の女王様が、いつまでたっても塔から出ていかなかったんだ。
王様は、とてもこまってしまった。
このままだと、食べるものがなくなってしまう。
その前に、なんとか春になってほしいって。
だから、ひとつのおふれを出したんだ。
冬の女王を、春の女王と交替させた者には好きなほうびを取らせよう。
ただし、冬の女王が次にまわって来られなくなるほうほうはみとめない。
季節をまわらせることをさまたげてはならない。
ってね。
それを聞いた国のみんなは、そろってみんな手を上げた。
好きなほうびがもらえるのなら、何でもやってみようって。
そうして、いろいろなことをした。
塔の下で、春の歌を歌ったり。
みんなで、キャンプファイヤーをして、夏のかっこうでさわいでみたり。
秋にとっておいたくだものを、塔の窓から投げ入れてみたり。
いろいろなことをやってみたけれど。
冬の女王は、塔から出てはいかなかった。
みんなであつまって、何日も何日も話し合って。
みんなであつまって、何回も何回も塔のところへ行って。
そのうち、国のみんなはつかれてしまった。
どうして、冬の女王は塔から出ていかないんだ。
そう言って、怒りだした。
口々に、冬の女王をおいだせ、おいだせ、ってさけんで。
その声をきいて。
冬の女王は、泣いていた。
このままこの塔の中にいたら、きっとみんなはこごえてしまう。
このままこの塔の中にいたら、きっとみんなはうえてしまう。
それなのに、この塔から、外へと出ていくことができないと。
季節を春にすることが。
今の冬の女王には、どうやったってできないことに。
冬の女王は、泣いていた。
手に、くわや、すきをにぎって。
飛び出していきそうなときに。
だれかが言ったんだ。
どうして、だれも春の女王をさがしに行かないのかい。
って。
みんな、びっくりした。
だって、冬の女王に出ていってもらうことばかりをかんがえて、春の女王に来てもらうってことを、だれもかんがえていなかったのだから。
国中、大さわぎになった。
みんなで、春の女王をさがしに行った。
とっても遠いところから。
とっても近いところまで。
何日も、何日もかけて。
国中、ぜんぶをさがし回った。
でも、春の女王を見つけることはできなかった。
とうとう、さがすところもなくなって。
みんな、塔の下にあつまった。
そして、大きな声でこう言った。
冬の女王様、冬の女王様。
あなたはどうして、塔の中に入ったままなのですか。
冬の女王様、冬の女王様。
このまま冬が続いていけば、私たちは食べるものがなくなって、やがては死んでしまいます。
冬の女王様、冬の女王様。
春の女王様をさがしてみても、どこにも見あたらないのです。
冬の女王様、冬の女王様。
私たちは、いったいどうすればいいのでしょう。
とっても遠いところから。
とっても近いところまで。
その声は、ひびいていった。
もちろん、塔の中の、冬の女王にもとどいていった。
冬の女王が、なみだを流して、なみだを流して。
流すなみだもなくなったころ。
どこかで、だれかが言ったんだ。
冬の女王様。
あなたのことが、大好きです。
春と、夏と、秋の。
それぞれの女王様と同じくらい。
あなたのことが、大好きです。
私たちは、冬の女王様がいなければ、春の女王と、夏の女王と、秋の女王に変わった時に。
ひとつひとつ。
楽しみを見つけることができなくなってしまうでしょう。
私たちが、春と、夏と、秋を待ち続けることができるのは。
冬の女王様。
あなたがいてくれるからなのです。
その言葉は。
だれかが言った言葉から。
口から口へ。
だんだんと国中を伝わって。
ゆっくりとゆっくりと、冬の女王が住んでいる、塔のかべをのぼっていって。
冬の女王の、所にとどいた。
その言葉を聞いた冬の女王は。
たったひとつぶの、なみだを流した。
とっておきの、なみだを流した。
そのなみだは、ほほをつたって。
冬の女王の口へ入って。
ひとつ、歌を歌わせた。
☆
何日かすぎて。
今まで、空をおおっていた曇り空は、少しうすくなって。
ときどき青い空が、見えるようになっていった。
少しずつ、とけていく雪。
少しずつ、あたたかくなっていく空。
塔の上には、今も、ひとりの女王が住んでいる。
その女王は、どことなく、冬の女王にそっくりで。
なのに、少し、春の女王ににていて。
ときどき、窓から外をながめるている。
まるで、青空が見えるのが、うれしいかのように。
うすくなった雪の間から、黄色い花が、見えかくれするのが待ちきれないかのように。
とてもにこやかに笑いながら、冬の女王を好きだといった国のみんなは。
好きなほうびをもらうことができた。
それは、国のみんなが、とっても心待ちにしていたもの。
もう少しすると、塔の上には、春の女王がやってくる。
そして、国中は、待ちのぞんだ、春になる。
ありがとうございました。