マンションを経営しよう
仕事帰り、ふらりと立ち寄った電気屋で捨て値で販売されているゲームを見つけた。
へー、結構いろいろあるなあ。お、これいいかも? 絵柄が俺好みだし。
パッケージの説明も読まずに『マンションを経営しよう』というゲームを衝動買いしてしまった。
経営系のシミュレーションゲームは好物だし、100円+税だったからまあいいかなと。
家に帰って、早速プレイだ。明日は休日だからのんびりできるぞー。
お、間取りの設計からか。こういうのって楽しいよなー。
とはいえゲームだ、ものすごく簡単な設計しかできない。
まあ俺も建築士じゃないし、難しい設計なんてできてもできなくても作る物は変わらないんだけどな。
まずは管理人の部屋、つまり俺の部屋からか。これは家賃が取れないから最低限でいいな。
カーテンとベッドカバーを俺好みにして、よし完成。
次は管理人のアバター設定かー。かわいい女の子にしとくかな。ついでにマンションも女性専用で。
って、緑色の髪ってなんだよ! キツネ耳とかエルフ耳とかあんのか! ファンタジーか!
くそっ、家賃は金貨と銀貨と銅貨と石貨で決めろだと? しかも日額? え、マンションだよね?
えっと、月5万円として、日額……って、分かるか!
なぜ日本円じゃないんだ? せめて米ドルかユーロだろ!
なぜマンションを建てる場所をファンタジーの世界にしたし。日本の何が不満だったんだ、制作会社よ。
そのくせ、間取りも家具も水回りはぜんぶ現代風か。いや現代風の方が分かりやすくていいんだけどさ。
部屋は1人用だけでいいな、カップルでいちゃつかれたらムカつくし。
……って、おいおい、3部屋しか貸せないのかよー! ガッカリだな!
それなら、水回りはぜんぶ共用でいいな。まだ資金もないことだし。
はあ、疲れたし適当に部屋を作って開始するか。家賃はベッドの3分の1でいいだろ、とりあえず。
『1日目:ニートがやってきました。契約しますか?』
え、ニート? え、ニート? 吃驚して二度見しちゃったよ。ニートじゃ家賃払えないし、却下だよ。
学生さんか社会人でお願いしますだよ。
『2日目:無職がやってきました。契約しますか?』
しないよ。なんでニートの次が無職なんだよ。
『3日目:無職がやってきました。契約しますか?』
あれ? 俺キャンセル押したよな?
『4日目:ニートがやってきました。契約しますか?』
えええええ?! え、何このゲーム、ってかこの世界。まさか無職とニートしかいないの?
『5日目:ニートがやってきました。契約しますか?』
え、無職とニートしかいない社会って、どうやって動いてんの? ファンタジーっぽいSFの世界?
『6日目:ニートがやってきました。契約しますか?』
何これ、ひそかにホラーゲーム? それとも同じニートが巡回してんの? 怖いな!
いやでも落ち着け、俺。無職はニートよりまだ希望がある。
たとえば若いころに貯めたお金があるとか、たとえば怪我をして今だけ働けないとか、妊娠中とか?
『7日目:ニートがやってきました。契約しますか?』
ニートとはしない。ニートよりは無職の方がまだ希望がある。よし、次に無職が来たら無職を選ぼう。
『8日目:無職がやってきました。契約しますか?』
キター! 契約するよ、無職と!
『8日目:無職をどの部屋に入れますか?』
部屋の名前はデフォルトで1,2,3だ。方角とか分かんないし同じ間取りだしで、まあ部屋1だな。
『8日目:無職が部屋1に入りました。生きる希望が湧いてきたと呟いています』
うん、それは良かった。頑張って仕事を見つけてちょうだい。そして家賃を払ってちょうだい。
『9日目:部屋1の無職が家賃が払えないと呟いています』
『9日目:無職がやってきました。契約しますか?』
諦めるな、無職その1! うさみみをへにょんとさせるな! ちょっと家賃を下げてやるから!
そして新たにやってくる無職……マジで大丈夫なの、この世界。
『9日目:無職をどの部屋に入れますか?』
まあ部屋2だな。
『9日目:無職が部屋2に入りました。一旗揚げるぞと呟いています』
ふむ、無職その1と台詞が違うんだな。こっちのが若いのか。でも、だからどうしたって話だけど。
『10日目:求人依頼が入りました。マンションの住人を1人だけ推薦できます』
『10日目:求人依頼の仕事内容→荷運び4時間×10日間、1日銅貨5枚』
『10日目:部屋1の無職が家賃が払えないと呟いています』
『10日目:部屋2の無職が家賃が払えないと呟いています』
『10日目:無職がやってきました。契約しますか?』
……この世界のマンションってアレなの? 職業斡旋業も兼務してんの?
ふー。とりあえず部屋1の家賃は銅貨4枚のまま据え置き、部屋2も銅貨5枚から4枚に下げるよ。
で、推薦はどっちをするべきか。まあ力仕事みたいだし、ちょっとでも若いっぽいその2のほうだな。
『10日目:部屋2の無職が拒否しました』
『10日目:管理人の評価が下がりました』
ええー? 何やってくれちゃってんの、無職その2! 家賃払えないって呟いてたじゃんよ!
ムカつくから部屋2の家賃は戻しておこう。元々銅貨5枚だったし問題ないよな?
『10日目:部屋2の無職がやってられないと呟いています』
いや、こっちが言いたい台詞だよ、それ。
『10日目:部屋2の無職がニートに転職しました』
今すぐ出てけー!!!!!! 新しい無職ならいくらでもいるんだよ、この世界……恐ろしいことに。
『10日目:無職をどの部屋に入れますか?』
まあ部屋3だな。ほかは空いてないし。
『10日目:無職が部屋3に入りました。思ったよりも清潔なのねと呟いています』
これは没落した家の令嬢か何かかな? まあ気に入ってもらえたっぽいな。
『11日目:部屋1の無職が家賃が払えないと呟いています』
『11日目:部屋2のニートが家賃を払わず逃げ出しました』
『11日目:部屋3の無職が働かない生活って素晴らしいと呟いています』
『11日目:ニートがやってきました。契約しますか?』
マジでバックレたのか、あのニート。ブラックリストに入れとこう。
そして無職その3もニートに墜ちそうだな、これ。
そして新たにやってくるニート。……ここはニートにも挑戦しておくべき?
いやでも家賃を払わずにバックレるならまだしも、居座られたら最悪だしな。キャンセルで。
『12日目:部屋1の無職が家賃が払えないと呟いています』
『12日目:部屋3の無職が働かない生活って素晴らしいと呟いています』
『12日目:ニートがやってきました。契約しますか?』
払えないと言いつづけながら払っている無職1。これはもしや高度な交渉術なのか?
◇
『20日目:求人依頼が入りました。マンションの住人を1人だけ推薦できます』
『20日目:求人依頼の仕事内容→おばあちゃんの話し相手8時間×10日間、1日銅貨6枚と昼食』
『20日目:部屋1の無職が家賃が払えないと呟いています』
『20日目:部屋3の無職が家賃が払えないと呟いています』
『20日目:無職がやってきました。契約しますか?』
ああ、ついに部屋3も家賃が払えないと呟き始めたか。そして1はまだ払えるのか。
今の家賃設定は部屋1が銅貨4枚、部屋2が5枚、部屋3が5枚だ。
無職その1だけ安いのは何か納得いかないよなー。よし、仕事を推薦して5枚に上げよう。
『20日目:無職をどの部屋に入れますか?』
まあ部屋2だな。ほかは空いてないし。
『20日目:無職が部屋3に入りました。他と比べて安すぎない?と呟いています』
なるほど、だから無職その1も3も家賃が払えないと呟きながらも居座っているのか。
『20日目:部屋1の無職が了承しました』
『20日目:管理人の評価が上がりました』
ああ、良かった。これで家賃をあと10日は払ってもらえるし、俺の胸のもやもやも解消される。
で、この評価って何か意味あんのかな? ……あるんだろうな。
『20日目:キャー!』
ん、なんだ?
『20日目:覗き魔が発生しましたがすぐに捕まえ奴隷商人に引き渡しました。銀貨が10枚増えました』
へー、ラッキー?
しかし、20日目にしてやっと見たニートと無職以外の職業が奴隷商人か。
ゲームの中の話とはいえ、いろいろと心配になる世界だな。
……もしかしてバックレたうさみみ娘も売ることができたんだろうか?
まあいいや、キリがいいしもう寝よう。歯だけ磨いて、続きはまた明日だな。