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名無しの短編集

破滅へ向かう中で

作者: ネームレス

友人と「互いに互いのテーマを指定して書き合おうぜ!」的なノリで話し合った結果、「宇宙」「鬼ごっこ」「破滅」というテーマを受け取って書いたらこうなりました。

暇つぶしにでもどうぞ。

「まるで鬼ごっこだな」

 不意に男が呟いた。

 ここは無機質な壁や床で囲まれた空間。無駄を極限まで削り取られたかのような空間だ。

 窓はある。だが、この空間において窓はあってないような物だった。何故なら、窓から見える空間は黒によって塗り潰されていたのだから。

 ここは宇宙船の中だった。俺たちはとある任務を受けて宇宙を放流していた。

 そして、不幸にもその任務の任を受けて……いや、受けさせられてここにいるのは五人だった。男三人に、女二人だ。

「鬼ごっこって、何がだ」

「いやさ、こっちまで回ってきた“不幸”を他のとこに持っていく。そしてその他のとこも多分これを他のとこに持っていく。これって鬼ごっこだろ」

「言えてるわね」

 その言葉に女が反応する。

「でも、だとしたら凄くスケールの大きい鬼ごっこね。惑星規模の鬼ごっこよ? 流石に嫌になるわ」

「たしかにな」

 俺たちの運ぶもの。それは、端的に言えば“爆弾”だ。もっと言えば、爆弾の所有権を移す“シンボル”と言っていい。

 このシンボルが俺たちの住む星、地球に送られてきたのはもう7年近く前だった。

 見たことのない技術で作られた船が突如飛来してきたのだ。当然、地球人はそれを調べた。

 中からは、かなり俺たちと酷似した“何か”が出てきた。その“何か”は一つの黒箱を渡すと地球から去って行った。

 最初は何かはわからなかった。地球人は混乱するばかりだ。

 宇宙人?

 謎の技術?

 そんなものは全てフィクションとしか捉えられていなかったのだ。

 だが、その黒箱が届けられて24時間後。ホログラムが浮かび上がった。灰色のローブに目深にかぶったフードの人物が浮かぶ。

 更なる混乱に陥る地球人だったが、ローブを付けた“何か”は機械のようにメッセージを端的に告げた。

『これは爆弾の所有権である。これが生物の住む星に24時間存在し続けた場合、爆弾の所有権は自動的にその星のものとなる。所有権が入れ替わってから10年以内に他の星にこの所有権を渡さなければ、最後にこのシンボルの置かれていた星は自動的に“破滅”を迎える』

 そうメッセージを残すと、ホログラムは消えてしまった。

 その後、半年もかけ黒箱を分解しようとするも結局徒労に終わり、反応も何一つ無かった。

 検証のしようがない。

 だからと言ってこの黒箱を地球に残し続けるのも危険。

 何か方法があればいいが、タイムリミット10年でこの半年間、何一つ変化を起こさなかった黒箱をどうにか出来ると思えるほど、地球人の頭は愉快では無かった。

 生物の住む星に置いて来なければならない。10年以内に。

 すぐにプロジェクトチームが編成された。半年間の遅れを取り戻す勢いだった。

 その時に、宇宙船のパイロットとして白羽の矢がたったのが、俺を含めた他4人だった。

 出発は黒箱が届いてから一年後。それから約6年間。俺たちは何もない宇宙空間を何をするでもなく、ただ黙って放流し続けた。

 唯一の娯楽は、メンバー同士での会話だった。

「本当に不思議よね。本来なら、地球を救うメンバーに選ばれた! やったー! て感じの筈なのに」

「誰一人としてこの役目を喜んではいない、か」

「そんなものだろ。昔は誰しも“勇者”や“英雄”に憧れるものさ。だが、実際になってみたらそうでもない。無闇に力を持ってたが為に戦いに駆り立てられ、成果を上げたが故に国民からの、世界中からの期待に押し潰されそうになる。今の俺たちにピッタリだ」

「鬼じゃなかったのか」

「魔王が主人公の時だってあるんだ。鬼が主人公でもいいだろう?」

 男が朗らかに言う。

 この男の見た目は凄くチャラい。はっきり言えば絶体に仲良くなれないと思っていた。

 だが、何もない宇宙空間ではこのチャラい男が突発的に湯水のように溢れる話題に何度も救われた。

 それに6年間の生活により、この男が実は誠実であることも知れている。“人は見た目によらない”という言葉も強く共感出来るようになってしまった。

「そうね。たしかに6年前の地球のファンタジーじゃ、“勇者が魔王を倒す”みたいなストーリーはあまり無いわよね。役職だけ言えば絶対悪役のキャラが主人公だったり、相手側の事情にも深く突っ込んでいったり、簡単に決まる問題は殆ど無いわ」

「そもそもボスの存在が無かったりするよな」

「そうね」

「……話に全くついて行けん」

 この女は最初はとても喧嘩腰だったものだ。

 エリートとしてのプライドか、常に完璧であろうと振舞っていた。だが、エリートとして振る舞うがゆえにたった5人という集団の中で孤立し、その寂しさから崩れそうになった。

 まあ、その状況を何とかしたのが目の前の男なのだが……。

 趣味も合うようで、その話になると度々二人だけの空間を作るのでそれだけはやめてほしい。

「おーい。そろそろ交代してくれ」

「じ、時間、です」

 その時、二人の声がかかる。

 先ほどまでこの宇宙船を操作していた二人だ。操作、と言っても、運転は自動だからあくまでも監視、ではあるが。

 片方は中肉中背の男。もう一人はとても弱々しく見える女だ。

「了解。任せとけ」

「わかったわ」

 その二人と入れ替わるように今度はさっきまでいた二人が移動した。

「何の話をしていたんだい?」

「俺たちがやっていることはまるで鬼ごっこみたいだなって話していた」

「鬼ごっこ……ですか?」

 俺はさっき話していたことを話す。あくまで理解出来る部分だけだったが。

「ああ、なるほど。たしかに鬼ごっこだ。凄くはた迷惑な、ね」

「じゃ、じゃあこの場合鬼は私たちですか?」

「そういうことになるな」

「まあ、鬼ごっこにしては少し過激だけどね。罰ゲームは地球の破滅。責任重大だ」

「休み時間終了時点で鬼だった奴はゴミを片付けたりする罰ゲームを小学校の頃にやった覚えがあるが、流石にスケールが大きいな」

 ゴミの片付けが地球の破滅だ。

 流石に笑う気も失せる。

「それよりお料理係りさん。今日の夕食はなんでしょう?」

 料理係りとは俺のことだった。

 パイロットとしての腕前で選ばれたメンバー。そのメンバーの負担を少しでも減らすための存在が料理係り。即ち俺だ。

 料理以外にも洗濯や掃除などもやるが。

「そうだな。チャーハンだ」

「それって楽したいだけでしょう」

「で、でも美味しいですよ。チャーハン」

「その通りだ。美味いぞチャーハン」

「そりゃ美味いけどさ……」

「不満なら」

「食べます」

「よろしい」

「あーあ、完全に胃袋掴まれちゃったなー。同性に」

 苦笑する男。その姿に俺は笑ってしまう。

 この男も最初は大変だった。

 一番フレンドリーに接し、一番心が離れていたのはこの男だ。

 極端に近かったり離れたりするより、常に距離を一定にし続ける相手の方がなかなか近づけない。

 そんな男の心を引き寄せたのは隣の女だ。

 臆病でびくびくしているのに、いつも一生懸命だった。その姿に触発されたのがこの男。

 少しずつ。少しずつ。その距離は近付き、最後は半ば強引にこちらに引きずり込んだ。

「……ふっ」

「何を笑ってるの?」

「いや。今までのことを思い出していたのさ。お前たちは自分たちの力で何でも解決してきたな、と。俺はただ眺めているだけだった」

 俺がそう言うと二人は顔を合わせ、そして同時に声を上げて笑い出した。

「ど、どうした?」

「い、いえ。……私たちが仲良く出来たのはあなたのおかげなのに、本人が自覚してないからおかしくて」

「俺が?」

「あー、ダメだ。全く理解してない」

 理解も何も、俺は特別な事は何もしていない。

 いつだって中立であり続けただけだ。

「それだよ」

「それ?」

「中立でいたこと。この周りに何もない空間で、君みたいに常に僕たちの味方でいてくれる存在はとても心強かったんだよ」

「な、何かあった時は相談にも乗ってくれました」

「……ああ。だが、それだって最終的には自分で解決出来ただろう?」

「答えのわからない問いに立ち向かってる時、一番欲しいのは答えでも何でもない。ヒントだよ。皆がちゃんと答えに辿り着くように、いつだって見守ってくれた。相談に乗ってくれた。それは僕たちにとっては心の支えだったんだよ」

 自分の行動がそんな風に思われていたとは初耳だった。

 だが、自分の何気無い行動が皆の役に立ったというのであれば、それはとても嬉しいことだ。

「……そうか。お前たちの助けになったのなら、俺も嬉しい」

「ふふ。何だかお母さんみたいです」

「お母さん……? お父さんじゃなくてか?」

「そうだね。お母さんだね」

 そう言うと二人はまたも笑った。こちらとしては複雑な気分ではあるが。

 俺はふと時間を確認する。

「そろそろ料理に取り掛かろう」

「いつもありがとうね」

「ありがとうございます」

「これが俺の仕事だからな。皆の助けになれば嬉しい」

 そう言って、俺はキッチンへと移動する。

「……鬼ごっこ、か」

 もし俺たちがその“鬼”だとしたら、俺たちが辿り着いた惑星の者たちからしたら本当の意味で鬼……いや、悪魔か邪神だろう。

 何故なら、それは10年で自分たちの住む星を破壊するのだから。

 誰がどうしてこのようなことを、などと考えるのは無駄だ。きっとそれはこの黒箱の創造主にしかわからない。

 持つものを持たざるものから見た時に鬼と見せる黒箱。持つ者を破滅へと導く箱。

 もし10年経っても他の惑星が見つからなかったら? その時俺たちの住む星、地球は消えるだろう。そしたら俺はどう思うだろう。

 悲しみで泣くだろうか。この黒箱を届けた者へ怒りを抱くだろうか。創造主に憎しみを覚えるだろうか。それとも何も感じなくなってしまうのだろうか。

「……これ以上は無駄だ」

 思考を切り替える。

 この状況で先の事を考えても無駄だ。嫌なイメージが浮かぶだけだ。

 今は、今の状況だけを考えよう。今という時を生きよう。破滅の後の事など、破滅でもした後に考えればいい。自分たちはその破滅を回避するために飛んでいるのだから。

 無限に続く闇の海。

 俺たちは今日も、鬼を続けている。

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