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9 戦った


 人間よりずっと大きな、二足歩行で武器を構える肉食獣のような生物達が魔獣。

 人間よりずっと小さな、でも凶悪そうな目付きの、二本角と尖った耳を持つ生物達がゴブリンでしょう。


【ヴオオオオオオオ!! 殺セ!! ブッ殺セェエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!】

【八ツ裂キダァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】

【細切レニシテヤルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】


 無軌道に暴れていたらしい魔獣とゴブリン達は、自分達を吹き飛ばして闘技場内に突入してきた者達を、即『敵達』と判断し、襲いかかってきました。


「ふんっ、本能のまま暴れる者など、敵ではありませんよ!!」

「属性――『風』・『裂』……発動……雷……!!」

「……おや、隷属精霊がいない……隠れたか?」


 ですが『敵達』――私の前に立つレオン様、ロザリエ姫、そしてアイザック様は怯みません。

 当たり前ですね。


「――疾く走れ我が雷!!」

「ぬぅううううううん!!」


 狂暴な怒気を剥き出しにして襲いかかって来た闘技場の魔物達は――次の瞬間には、ロザリエ様が放った電撃と、レオン様の豪快なアックスボンバーによって、まとめて弾き飛ばされていたのですから。


【ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!】

【オノレェエエエエエエエエエエエエエエ!!!】


 驚愕の叫び声を上げながら。地面に叩き付けられた魔物達。

 更に怒り狂って起き上がろうとしますが、そこに杖を構えたアイザック様の声が響きます。


「属性――『地』・『発』。『水』・『育』。融合発動。――地に栄えよ呪縛の蔦!!」


 その声に従ったのでしょう。緑色に輝く蔦葉のような形状の光が、まるで倒れた魔物達を絡め取るように発現しました。


【ォオ?!! オ――オォオ!!】

「悪いね、窒息はさせないから静かにしていてくれ。――レオン、ロザリエ姫、僕は彼らの拘束を優先するよ。このまま狂化を解けば、無力化できる」


 たちまち輝く蔦葉は魔物達を拘束し、暴れる魔物達を難無く押さえ込みます。

 更にそのままアイザック様は何かを唱え、二つ目の魔法を発動させます。


「属性――『聖』・『癒』。『水』・『鎮』。融合発動。――猛りを鎮めよ聖浄なる雫!!」


 ふわりとしたシャボン玉のような輝きが現れると、捕らわれた魔物達に吸い込まれていきました。……暴れていた魔物達は鎮静剤でも打たれたように、だんだんと動きが止まっていきます。

 ……これがアイザック様の魔法ですか。

 ……よ、良く判りませんが……ロザリエ姫様のそれよりもずっと複雑で……なんだかすごいです。一体全体、どういうシステムなのでしょうか。


「判りましたアイザック!! ガンガン殴り飛ばしますから、倒れた所をしっかり捕まえなさい!!」

「地表設置型の拘束魔法は、対象がじっとしてないと発動させ難いですからね! 私達が敵をブチ倒します! 任せておいて下さいアイザック先生!!」


 そんなアイザック様を信用しているのでしょう。レオン様とロザリエ姫様はアイザック様に応じると、再び襲いかかって来る魔物達に応戦し、二手に分かれて行ったのでした。

 確かにこれは、心配は全くいらないようです。

 私の出番も無いのでしょうか? それならそれでいいのですけど。



 レオン様とロザリエ姫様の活躍で、闘技場内の敵は次々と地面に叩き付けられていきました。


【ウォオオオオ!!】

「その焼印……イストリア王国属の奴隷戦士ですか!! ならばその身はこの国のもの!! 馬鹿魔道師のお遊びなどではなく!! この国を守るためにその力を奮いなさい!!」


 牛のような顔と角を持つ巨体の魔獣を真っ正面から押さえこんで投げ飛ばし、地面に叩き付ける怪力レオン様。


【ギャッヒイイイイイイイイ?!!】

「悪いな!! 手加減は苦手なんだ!! しばらく身体が痺れるとは思うが勘弁しろ!!」


 電撃をレイピアに宿し、それを素早く突き刺して、スタンガンのようにゴブリンへ電撃ショックを加える雷魔法使いロザリエ姫様。


「――よし、残りはあと……四体かっ」


 そのお二人に倒された魔物達を、アイザック様は一体一体拘束し、鎮静させていきました。

 一応蔦葉の拘束は解かれていませんが、捕らえられている者達はみな眠ってしまったように静かです。アイザック様の魔法には、鎮静作用の他に睡眠導入作用もあるのかもしれません。


「……ゆ……融合魔法を、一度に二種類も同時発動させるなんて……やっぱり恐ろしい人だな……魔道師アイザックは……」


 そんなアイザック様を闘技場の壁の端で見ながら、私の前で槍を構えていた兵隊のヴィルさんは呟きました。

 ……怖いですか?


「私にはレオン様とロザリエ姫様の攻撃の方が、怖いですけど?」

「え? ああ……うん。確かに王子殿下、王女殿下は素晴らしい戦士だけど……そういう意味じゃなくてねお嬢ちゃん」

「サクラです」

「じゃあサクラちゃん」


 ヴィルさんは複雑な表情で、アイザック様に視線を送り、話を続けます。


「……人間で、ああも容易く融合魔法を使える魔道師はめったにいない。……しかもそれを二つ同時に発動できるなんて、魔法の天才エルフ族や天使族、悪魔族にだって、珍しい才能なんだよ。……それをアイザック様は、魔法を覚えた子供の頃から呼吸をするようにできたんだそうだ」


 へぇ……それは新知識です。……それにしても、天使や悪魔もいるんですかこの世界は。


「やっぱり……あの噂本当なのかな。……アイザック殿の母親は……先王を誑かしてこの国を乗っ取ろうとした、女悪魔だっていうのは……」


 ……。


「国うんぬんはさておき……あのアイザック殿の母親なら……普通じゃないよな。……普通じゃない……バケモノから生まれたアイザック殿も……やっぱりバケモノ……なのかな? ……やだなぁ……あいた?!!」

「……あ、すみません思い切り叩いてしまいました。虫かと思ったら、間違いでした」


 ……なんとなく、アイザック様が先王の御子と認められていない理由は判りました。


「お、俺だけそう言ってんじゃないんだよサクラちゃんっ。お城の兵隊だってあの人のことは怖がってて……」

「あ、またっ。虫っ、虫っ、虫っ、虫っ、虫っ、虫っ、虫っ、虫っ、虫っ、虫っ、虫っ」

「いたいいたい!! そんなにいるわけないだろー!! わざわざ飛び上がって顔叩く事ないじゃないか?!!」


 だってヴィルさん、顔以外は鎧で守られてるじゃないですか。

 しかし先程の三つ編みの女の子もアイザック様に冷たい視線でしたし……もしかしたらレオン様やロザリエ姫様が例外で、アイザック様を取り巻く人達は、それほど暖かいものではないのかもしれません。

 ……理不尽な話ですね。怖がっているくせに、何かあると頼るのですか。


「これで――最後です!! アイザック!!」

「よしきたレオン!!」

「ああ!! 兄様に一歩出遅れたぁ!!」


 幸いそんなこちらを気にする事もなく、アイザック様は最後に倒された大きなトカゲのような魔獣を拘束し、鎮静させる事に成功しました。


「よし。……皆命に関わる怪我もないし、あとは安静にしていれば全員大丈夫だろう」

「やりましたねアイザック先生っ」

「一応はね」


 ……あ、少し笑った。

 ……やっぱりすごく綺麗な人です。アイザック様には、悪魔より天使が似合うと思います。


「……とはいえおかしいね、隷属精霊がいない」


 と思ったらすぐに難しい表情になり、アイザック様は闘技場を見回します。

 そういえば、隷属精霊というものもここにいるはずでしたっけ。


「逃げたのでしょうか? でなければ、闘技場で暴れていた者達に殺されてしまった?」

「……どうかな。……いや、まだフロスティの冷気を感じる。多分闘技場のどこかに隠れているよ」


 魔獣とゴブリン達が拘束されてた闘技場は静かになりましたが、彼らが暴れたせいで半壊しており、座席や鉄柵、防具や武器などが部屋中に散乱しています。……確かにこの状況なら、小さな子供サイズらしい精霊が、どこかに隠れるのは可能でしょう。


「では外の兵士達はまだ呼ばない方がいいですか?」

「そうだね……ドサクサに紛れて城の方に逃げ出したら、大騒ぎになると思うし……」


 ……あれ? ……すぐ側に転がっている鎧甲冑が……今動いたような気がします。

 ……それになんだが……あの甲冑……白くなってませんか? ……凍り付いたみたいに……。


「あ――あの――」

「ん? どうしたんだいサクラちゃん――」


 私がすぐ傍にいるヴィルさんに、意見を聞こうとした――その時でした。


【死ねぇえええチビぃいいいいいいい!!】

「――えっ」

「あっ!!」


 甲冑の隙間から冷たい何かが飛び出し、鋭い刃となって私へと突進してきました!


「フロスティ!!」

「逃げろサクラさ――」


 アイザック様達が咄嗟に反応しますが、間に合いません。

 間に合ったのは――私のすぐ傍らにいた、ヴィルさんでした。


「危ないサクラちゃん!!」


 ヴィルさんは咄嗟に私を抱きかかえ、自分の背で冷たい刃から私を守ろうとしてくれます。

 ――怪我させたりしません!!


「――ミミルズエネルギー発動!!」

「――っ?!!」


 私の心臓部に内臓されているエネルギーが、輝きました。

 ちゃんと使えるようです。よかった!

 私は発動始点である掌でヴィルさんに触れ、そして自分のエネルギーに向け命じます。


「――形質変化!! ――硬化!!」


 ヴィルさんがエネルギーの光に包まれたその瞬間、フロスティの刃がヴィルさんに突き立てられました。


【――痛ぇ?!! な――なんだこりゃ?!!】


 ――ですが、怪我などしません。


「な――何?! あれは……魔法じゃなく……サクラさんの?!」


 その通りですアイザック様。

 ヴィルさんの全身は、私のミミルズエネルギー能力によって、最硬度合金並みに硬くなっているのです。


「……これが私が持つミミルズエネルギーの力、『形質変化』です。……命在るものを、硬くする事も柔らかくする事もできる、本来は手術や治療に使う力なんです」

【な――なんだよてめぇ!! なんなんだよ!!】


 硬化したヴィルさんに弾き飛ばされ驚いたのか、青色に輝く小さな存在が宙に浮かび、私を罵ります。

 ……そうですね……本当に小さな子供みたいで、造作は可愛いかもしれませんが……。

 

「――これがフロスティ……見るからに野蛮で、幼稚ですね」

【なんだとぉチビ!! チビブス!! バーカ!! 絶壁胸!! 寸胴!!】


 ……アイザック様、レオン様、ロザリエ姫様。どうぞサクッと()っちゃって下さいませ。

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