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4 服をもらった

「――ということはアイザック、この子は旧文明遺跡から発掘された旧文明時代の存在であり、そんな彼女を貴方は、ネボラ魔道師に押しつけられたという事ですか?」

「サクラさんを、というよりもサクラさんが入っていた不思議な箱を、というべきかな。開く事も破壊する事もできず邪魔だったらしい。弟子達数人に運ばせて来たよ」


 ここイストリア王国の、先代国王の認められていない息子。

 少々複雑そうな出自をお持ちだったアイザック様は、それ以上の説明を遮るように、レオン様に私がここにいる説明を始めました。

 ……おそらくあまり詳細には語りたくない、家庭事情をお持ちなのでしょう。

 そんな事は冬眠前の世界でも珍しくありませんでしたので、私は気にせずお二人の会話を聞きます。


「『何をしても、開く事も破壊する事もできなかった箱です。十中八九できないでしょうが、もし僥倖にも貴方が開き中身を解析する事ができれば、うだつの上がらない窓際魔道師生活からおさらばできるかもしれませんよアイザック殿。はっはっは』――だってさ」

「……アイザック、貴方それ馬鹿にされているんですよ」

「だろうねぇ。ネボラ魔道師の弟子達が、『やっと粗大ゴミを処分できた』って喜んでたし。僕は研究できればいいけど」


 すると私も知らなかった、私がアイザック様の元に来た時の情報を収集できました。

 どうやら私が眠っていた冬眠用安置装置(ポット)は、『ネボラ』なる人物にどこかで発見され、それを開く事ができず持て余した『ネボラ』なる人物は、アイザック様が押しつけたようです。


「しかしアイザック、貴方はそれを開く事ができたのですね?」

「いや……開けたというか開いたというか。……色々試していたら、いつのまにか開いていたんだよレオン。正直何が決め手だったのか、全く判らない」

「なんですかそれは」


 ……それにしても、『発掘』に『旧文明』ですか。……私が眠ってから、既に相当な時間が経ってしまっているんでしょう。

 人間の生活全てが高度な機械文明によって支えられていた、冬眠前の世界。そこに何が起こると魔法の世界(ファンタジー)になってしまうのかは解りませんが、とりあえず私が元居た世界は、旧文明扱いされているほど大昔なのです。

 ……ならばとっくに、私の創造者(マイスター)ウェルナー様も、工房も無いのでしょう。……人型機械(ヒューマノイド)が戻れる『実家』はもう、ありません。

 ……あ、また。



―……また逢えますか……御主人様(マスター)?―

―……ああ。……いつかきっと……サクラ―



 ……例え今のバグが本当の記憶(メモリー)だったとしても、言葉を交わした私の所有者だって……もう生きているはずもないでしょうしね。


「……それはとにかく、彼女のこの姿は貴方の失態ですよアイザック」


 いつの間にか、俯いていたようです。

 肩に感じた柔らかい感触に顔を上げると、いつのまにか私の身体には、レオン様のマントが被せられておりました。

 外見は豪華絢爛過ぎますし、少々威圧感のある王子様ですが、私のような不審物を気にして下さるなんて、優しい方のようです。


「箱の中に何かが入っているのは予測できたのでしょう。それが彼女のような人に近い姿である可能性も踏まえ、羽織れる服の一枚くらい用意しておくべきでした」


 豪華な真紅のマントに包まれた私を見下ろしながら、アイザック様は困った顔で頭を掻きます。


「そうだな。……どんなものが入っていたにしろ、もうとっくに朽ちているだろうと思ってたんだが、旧文明の力は予想以上に凄いものだったらしい。……旧文明が滅んで、もう五百年以上経っているはずなのに」


 私が元居た……旧文明が滅んで五百年でしたか。

 理論上は、千年単位での冬眠を可能にする冬眠用安置装置(ポット)でしたからね。故障でもしない限り、そのくらいの時間で私は壊れなかったでしょう。


「やはりすごいな旧文明は……もっと解析したいよ」

「アイザック」

「……まずは自由に操作できるようにして、あの箱の材質も検査して、中の液体の魔術構成式を解き明かして……」

「旧文明時代の事は、今はどうでもよろしい。問題は彼女ですアイザック」


 そのまま旧文明に思いを馳せそうになるアイザック様にピシャリとおっしゃったレオン様は、腕組みして私を見下ろすと、ふむ、と呻りました。


「……しかし小さなお嬢さんですね。……身長からして、外見的には十歳前後という所でしょうか?」

「……」


 ……一応私は、十六歳東洋人だった女性モデルの姿を元に作られておりますレオン様。

 ……求めるサイズが変わるわけではないので、訂正はしませんが。

 ……別に外見十六歳と言って、見えないと笑われるのが嫌な訳ではありません。

 ……本当ですよ?


「こんな小さな子は、お城の侍女としても上がっていませんね。――そうだ、母の部屋に多分妹の幼い頃の服がまだ残っているはずです。それをもらってきましょうっ」

「えぇ?!」


 レオン様の発言に、アイザック様が驚きます。

 それはそうですね。王子様の妹なら、お姫様です。


「ロザリエ姫の?! そ、そんな高価な服は困るレオンっ。借りてから汚したり破ったり濡らしたり焦がしたりして駄目にしたらもったいないだろう!」


 汚したり破ったり濡らしたり焦がしたりですか。……アイザック様の研究実験は、かなり過酷なのでしょうか。人型機械(ヒューマノイド)虐待反対。


「みみっちい事を言うものではありませんよアイザック。着る服のない娘さんをなんとかするのが先です」

「じゃあとりあえず僕のローブを……」

「嫌がってますよ彼女」

「え……」


 ……あ、申し訳ありませんアイザック様。とっさに首を振ってしまいました。


「ははははっ。そのボロボロのローブでは当たり前ですねっ。私の足下にも及びませんが、貴方の姿形は悪く無いのですがら、もっと身綺麗になさいアイザック!!」


 それでは待ってなさい!! そう宣言して、レオン様は部屋から出て行かれました。


「……サクラさん」

「はい、なんでしょうアイザック様」

「……そんなにボロいかなこのローブ?」


 させていただけるなら、全力をもって修繕とクリーニングをさせていただきたいです。



 体内時計で三十分もしないうちに、レオン様は帰ってらっしゃいました。


「母が快く了承してくれました」


 そう言ってレオン様がテーブルの上に置いたのは、おそらく衣装ケースと思われる木製の箱に入った、女物らしい衣装一揃えでした。


「連れて来れば着付けもしてくれると言うのですが、流石にその恰好で城を連れ歩く訳にはいきませんし、持って来ました」


 王子様のお母様という事は、王妃様でしょうか。随分きさくな方です。

 私はレオン様から手渡された服を両手出広げ、確かめます。


「どうです?」

「はい、とても素敵、です」

「それはよかった。アイザックもどうです?」

「これはいいな。動きやすそうだし、色的に汚れても目立たないだろう」

「そこはもっと外見的な事を褒めなさい。小さくても女性の召物ですよ」


 旧文明時代の服装とはかなり趣が違いましたが、洋服は着方が判らないようなものではなく、ハイウェストをリボンで留めた、やや丈の長いシンプルなワンピースでした。

 濃碧の布地は滑らかで上質なのでしょうが、おそらく子供服だからか過剰な装飾はなく、ゆったりとしたワンピースは可愛らしくも動きやすそうです。

 箱には他にも下着やリボン、小さな革靴など細々としたものが入っており、貸して下さった方のお気遣いを感じます。


「レオン様、御母堂様には厚く御礼申し上げます」

「なに、久しぶりに服選びをして楽しかったそうですよ。妹はもう自分の趣味で装いますから、折角女の子なのに、遊ばせてくれないと嘆いてました」


 なるほど。

 頷いた私は、アイザック様が開けてくれた洗面所に洋服一式を入れた箱を持ち込み、着付けにかかります。

 ……ふぅ、これでようやくテーブルクロスドレスとはお別れです。レオン様と王妃様、ありがとうございました。


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