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13 お呼ばれした

 一騒動が終わったその夜、夕食に招待されたアイザック様と共に、私はレオン様のお部屋にお呼ばれしました。

 レオン様はお城にではなく、お城の敷地に建てられた離宮にお住まいでした。

 お城と比べればとても小さなお屋敷ですが、花壇や庭は綺麗に手入れされ、通された食堂の窓や床、調度品などもこざっぱりとしており、生活の場としては中々快適そうです。


「素敵なお住まいです」

「ありがとうサクラ。四代前の国王陛下が、王妃との新婚生活のために建てられたのですよ。最近では誰も使っていなかったので、私が借りております」


 糊の効いたテーブルクロスが美しい長テーブルの末席に座り、私はレオン様、そしてアイザック様と共に夕食をいただいておりました。

 正直に言うと、私は一日角砂糖一個分程度の糖分を摂取すれば、体内のミミルズエネルギーによって充分生命活動を維持できるのですが、折角ですのでレオン様のお誘いに甘えさせていただきます。

 ……十代後半女子の思考AIって、どうしてこう美味しいものが大好きなんでしょうね。同時に太りたくないと思うくせに。 


「サクラはフォークとナイフを美しく使いますね」

「恐れ入ります。五百年前のテーブルマナーは、初期設定にインプットされております」


 なお今が中世風の世界なので、秘かに料理も中世風で()()()()()()とかだったらどうしようと心配しておりましたが、そんな事はありませんでした。よかった。

 レオン様は勿論私の隣のアイザック様も、驚く程美しく無駄の無い動きでフォークとナイフを操り、白いお皿から料理を口に運ばれます。

 

「ああ、美味しいな。ちゃんとした料理は久しぶりだ」

「食事は毎日きちんと食べるべきですよアイザック……そんな事では、なんのために食事のお作法を躾けたのかと、母が泣きます」

「ははは、子供の頃王妃様に教えていただいた事は、年に数回は役にたっているよ。感謝してます」


 ほう、アイザック様はレオン様のお母様、つまり王妃様に教育されたのですか。

 夫の年の離れた異母弟、なんて微妙な関係ですのに、アイザック様の照れたような表情からすると、多分関係は悪くなかったんでしょうね。レオン様、そしてロザリエ姫様との友情も、この辺から始まっているのかもしれません。


「どうですかサクラ、我が家の料理人の腕は?」

「はい、とても美味しいです」


 過去と比べると、化学調味料の味がしない分少々物足りない気もしますが、それでも素材を引き立てる、酢や塩胡椒などでの味付け加減は、とても美味です。 

 現代の名称で言うなら、メニューはコンソメに近い味のオニオンスープに、ジャーマンポテト、ザワークラフト、ぶ厚いソーセージ色々、そしてライ麦パン。麦の発泡酒はビールでしょう。

 ……もしかしてこの辺りは、過去知識で言う所のドイツと似た気候風土なのでしょうか。そういえばレオン様をはじめとして、お城にも髪と瞳の色が明るく、がっしりとした長身の人達が多かったような気がします。血筋を辿ればゲルマン系かもしれません。


「そう言えばレオン、後でまた物を置かせてもらっていいかな?」


 そんな事を私が考えていると、ジャーマンポテトを食べ終えたアイザック様が、思い出したようにレオン様に尋ねました。……物?


「ここの物置には、僕の研究素材あれこれも保管させてもらっているんだ。書庫には本も置かせてもらってるし」


 ほほう、そういう事ですか。確かにあのごちゃごちゃの研究室兼自室と比べれば、ここはスペースがありますけどね。


「……アイザック」


 そんなアイザック様に……少々暗い視線を向け、アイザック様が返します。


「……その書庫の事なのですが……何故一部屋だけだったはずが、いつのまにか二部屋に増えているのでしょうねぇ……?」


 ……あ。 


「…………えー? どーしてだろー」


 ……占領しましたね、アイザック様。


「誤魔化すんじゃありませんよこのお馬鹿が!! 貴方でしょうがアイザック!! 貴方が写筆した本で、我が家をドンドン埋め尽くしているのでしょうが!!」

「あはははははははは。いやー、感謝してるよレオン。助かります」

「置いてもいいとは言いましたが、限度がありますよ!! このままのペースで増やされては、屋敷が本で埋まります!! 一部屋に入りきらないものは処分なさい!!」

「そ、それは駄目だよ~。あれは貴重な旧文明の資料で、写筆させてもらえる機会なんてもう殆ど無いものばかりなんだから~」


 善意の家主に図々しいですよアイザック様。

 レオン様、軒を貸して母屋を取られるなんて事のないよう、ご注意下さいませ。

 

「全く、そういった諸々に給金をつぎ込んでいるから、あんなボロ塔から脱出できないのですアイザック。……ですがこれは、ちゃんと必要な事に使うのですよ」


 ……おや? レオン様がなにやら重みのある布袋を、机の上に置かれましたよ。


「これはねサクラ、アイザックの本日の出動恩賞です。王宮付きの魔道師は、給金の他にこういった恩賞ももらえるのですよ。――銀貨で十万ゼルク入ってます」


 特別ボーナスみたいなものですか、それは嬉しい制度ですね。


「十万ゼルクっ。やったねっ、これで先日古道具屋で見つけた旧文明の遺物が買え――」

「お馬鹿!!」


 ゴンッ、という大きな音を立てて、嬉々として袋に手を伸ばすアイザック様を殴るレオン様。……ですよね。必要なものをって言われたじゃないですか。ツギハギの無いローブとか清潔なシーツとか掃除道具とか買いましょうよ。


「これでサクラのものを揃えなさいアイザック」

「あっ」


 ……え、私のもの……?


「彼女は当分貴方の実験に付き合ってここにいるのでしょう? ならば最低限のものくらい、きちんと揃えてあげなさい。貸せるものは貸せますが、消耗品や貸し借りしずらいものだって、女性にはあるのですからね」


 ……王子様……つくづく、気配りのできる、良い方だっ。


「ご、ごめんよサクラさん……そういう事、考えてなかった」

「いいえ、お気遣いありがとうございます」


 一方のアイザック様は、すまなさそうです。

 ケチとかではなく、本当に気の利かない方なんでしょう。多分他人に対しても、自分に対しても。

 ……せっかく仕事のできる美形なのに、この無頓着ぶりでは、複雑な事情が無くても異性に縁遠いんじゃないでしょうか。で、それと特に不幸とも思わないとか。

 ……あ、過去にもいましたこういう人。研究職とかに多かった気がします。

 逆にレオン様のような体育会系気遣いのできる方は、マスコミや政界なんかでよく活躍してましたっけ。うん、正に畑違いの友情です。


「アイザック、しばらくここにサクラと泊めてあげますから、部屋をきちんとして居場所も作ってあげなさい。あのゴミ溜めで暮らすのは、貴方は良くても彼女が可哀想です。彼女は人間ではないかもしれませんが女性で、貴方の大切な実験の協力者なのですからね」

「……うん、ありがとう。……色々いたらなくて、ごめんレオン、サクラさん」

「そんなの、今更ですよ」


 呆れたように返すレオン様の表情は、それでも優しいものでした。

 

「あ、じゃあ物置部屋増やしていいレオン? 捨てられない物いっぱいあるんだけど……」

「駄目です。捨てなさい」

「ちっ」

「舌打ちしない」


 ……それにちゃっかりつけ込むんじゃありませんアイザック様。あんたはレオン様の、出来の悪い弟か何かか。


「サクラ達こっちに住むのかっ? それは助かったっ! この子も混ぜてくれ兄様っ!」

【わーんっ、振り回すなよ狂暴女っ!! ひぃ!! ウソウソトンデモゴザイマセンウツクシイヒメギミ!!!】


 ――そんな事をやっていると、軽快にドアが開きドレス姿の華やかな美少女が食堂に入って来ました。というか、ロザリエ姫です。片手にはフータンも抱えられております。


「なんですかロザリエ? 貴方の部屋は城で、今夕食時でしょうに」

「ふっふっふ、当然完食して、速攻こっちにきたのですよ兄様!」

「何故?」

「何故ならっ!! 兄様がアイザック先生を夕食に呼ばれる時は、兄様の料理人ヨセフは必ずアイザック先生が大好きなデザート、シュトーレンを焼いているからです!! シュトーレンは私も大好きですからね!! こっちで二個目のデザートをいただこうと参上したのですよ!! あ、甘い物は別腹なので、大きく出してくれていいぞっ」


 ロザリエ姫の言葉に、デザートを切り分けていた料理人らしい少々太った口ひげの男性は、苦笑を噛み殺すようにして恭しく頭を下げました。

 ……ロザリエ姫、ドライフルーツがどっさり入りの、白い粉砂糖がかかった甘い焼き菓子は、確かにとても美味しそうですが……夜に二つめって……。


「太るよ姫」

「太りますよロザリエ」

【デブれ狂暴女ー!!】

「んな!! しし失礼な!!」


 私が内心で収めた言葉を、あっさり漏らすアイザック様、レオン様、そしてフータン。

 ロザリエ姫はプンプンと怒って抗議しますが、自覚もあるのか少々怒気は薄いですね。


「沢山動けば太りません!! わ、私は魔力で多量の体力を消耗しますので、このくらいで丁度良いのです!!」

「そう言ってよく間食してますよね」

「夜食べ過ぎると太りますよ」

【デブれー!! デブれー――んぎゃ?!!!】

「ふっ、ふとったりしませんもんっ!! まだ若いから大丈夫ですもんっ!!」


 失言フータンの頭を拳でグリグリと捻りながらも、真っ赤になってそっぽを向くロザリエ姫。

 食べたいと太りたくないの狭間でウロウロしている姿は、やっぱり十代の少女なのだなと思いながら、私は料理人のヨセフさんが切り分けたシュトーレンを前に、感動したのでした。

 うわぁ、美味しそう♪

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