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10 とどめをさした

 ――サクッと()っちゃって下さいませ、と私が思った途端。


【う―わぁああああああああああああああああああああああああああああああ?!!】


 雷鳴のような轟音が響き渡り、目の前の小憎らしいクソガキ精霊フロスティが浮いていた場所に、強烈な閃光が走り抜けました。


「大丈夫かサクラ!!」


 アイザック様、レオン様と共にこちらへ駆け寄ってくる、ロザリエ姫の雷撃魔法ですね。間近で見ると恐ろしい迫力です。――さて、あのクソガキは滅んだでしょうか?


【な――なにすんだバカヤロー!! あぶねぇじゃねーかー!!】


 残念、回避していたようです。フロスティは先程よりも上空に浮いて、こちらを罵っておりました。しかし鎧の中から不意打ちしてきたお前が言うな。


「ついでに新兵も無事――じゃないのか?! 何故石化しているんだ?!」


 おっと、そんな事を考えていたら、ヴィルさんを硬化したままでした。ロザリエ姫、驚かせてしまってすみません。


「心配ありません。ヴィルさんは私の力で全身を硬化させただけです。今は動けませんが、問題無く元に戻せますからご安心下さい」

「……硬化? ……ほ、本当だ……硬い」

「さ……先程の攻撃で槍と、錬鉄製の鎧が真っ二つになっているのに……新兵ヴィルにはかすり傷一つ……ついていませんね」

「こ……これが君の力なのかいサクラさん?」

「はい。正しくは生命体の硬度を、自在に操る能力ですが」


 私の説明には、レオン様、そしてアイザック様も驚かれたようでした。


「こ……硬度を……人間の身体そのものを変身させるなんて……僕の魔法じゃあ到底不可能だ。……できるとしたらコカトリスのように魔獣の先天的な力か……そうでなければ、高度な呪詛によるもの……でもサクラさんのこれは、そのどれとも違うんだよな……」


 特にアイザック様は、上でわめくフロスティに注意しながらも、ヴィルさんをちらちら横目で観察し続けています。……ほう、やはり私の力は、アイザック様が使う魔法とは、ずいぶん系統が違うんですね。でもそれはさておき。


「あの、そろそろヴィルさんを戻しますね」

「えー……――あ!! 駄目だ!! 今は戻すなサクラさん!!」


 ――へ? と私がヴィルさんに触れようとした手を止めた途端、その手はアイザック様に掴まれ、私はヴィルさんの後ろに引っ張り込まれました。

 その直後に響く轟音と突風、そしてヴィルさんの身体に弾かれて消える氷の刃。


【てめー!! オイラを無視すんなー!! バーカ!! バカ人間ー!!】


 あ――あのクソガキ!! また不意打ちですか!! あっぶない!!


「傷付かないなら、とりあえずはこのままの方が、ヴィルも安全だと思う。……僕達の盾にもできるし」


 盾扱いは酷いですが、アイザック様の判断は間違ってないでしょう。今戻していたらヴィルさんは、間違い無くみじん切りでした。


「貴様――いいかげんにしろ隷属精霊!!」


 そんな乱暴なクソガキ精霊フロスティに怒ったのか、ロザリエ姫がヴィルさんを庇うように前に立ち、怒鳴り返します。


「貴様は魔道師に服従する存在だろう!! 大人しく攻撃をやめ降参しろ!! そうしたら主人の下に返してやる!!」

【主人?! へーんだ!! オイラの隷属印は、あのへっぽこ魔道師が制御しきれなかったせいで外れちまってるよーだ!! オイラはもう自由だ!! ――自由にてめーらを細切れだ!!】


 風がうねり、フロスティの周囲できらめく氷柱のような刃達が、ロザリエ様へと襲いかかりました。


「なめるな!!」


 ですがロザリエ様も負けてはいません。

 構えていたレイピアを振り抜いた瞬間、そこに宿っていた電流がまるで網のようにロザリエ様の眼前に広がり、突き刺さった氷柱を粉々に粉砕します。


【ちっ!! 人間風情が面倒臭ぇ力を!!】

「降参しろ。氷属性のお前が、火と風の属性を併せ持つ雷と相性が悪いのは、当たり前の事だ。――降参しないというならば、今度こそ我が雷が貴様を打ち砕くぞ!!」


 おおっ、流石姫騎士様かっこいい!


【っ――なめてんのはてめぇだぁああ!!】


 ですがその剛胆な態度が気に入らなかったのか、フロスティは次々氷柱を自分の周囲に出現させ、宙を埋め尽くしました。

 輝く様は綺麗ですが、その攻撃力を知っていれば見惚れる余裕はありませんね。


【全弾打ち落とせるならやってみろよ!! オイラの氷柱はいくらだって再生されるぞ!!】

「ふん、正しくはこの場の水分と、貴様の魔力が続く限り、だろう。水そのものを召喚できるほど、高位の精霊には見えんしな。――違うかお子様?」

【だ――誰がお子様だ!! ――このビカビカ狂暴男女!!】

「――なに?」


 ――あれ……今ものすごく、ロザリエ姫の声のトーンが下がりました。


【やーいやーい狂暴!! キョーボー!! 知ってるぞオイラ!! 人間の男達はセーソカレンなカワイイ女が好きなんだ!! お前みたいな鎧甲冑の狂暴男女なんかどーせ!! 嫁のもらい手もねーんだろー!! やーいやーい!! 嫁きおっくれー!! バーカ!! ブース!!】

「……」


 ……い、いや……いくらなんでも齢十六歳で、嫁き遅れという事はないでしょうが……気にしていた事でもあったのでしょうか?

 ……ロザリエ姫のレイピアで輝いていた電流が……どんどん大きくなっていきます。

 ……むしろロザリエ姫の全身を覆ってます。

 ……後ろからではロザリエ姫の顔は見えませんが……。


【――ひっ?!】


 ……多分、ものすごく激怒しているのではないでしょうか? 今あのクソガキが怯えたし。――と。


「――死ね」


 楽しそうな、まるで笑顔と共に発せられたような明るい声がロザリエ姫から響きました。

 そして。

 

【うっひゃぁああああああああああああああああああああああああああああああ?!!】


 次の瞬間には、ロザリエ姫様から放たれた電撃が、上空のフロスティへと襲いかかりました。


「自らの口を呪って――消滅しろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

【うわぁああ?!! こ――このぉおおおおおおおおお!!】


 まるで大滝のように怒濤の勢いで広範囲へと発せられた無数の電撃は、あっという間にフロスティが放った氷柱を打ち抜き、そのままフロスティへと飛んできます。

 それをフロスティも必死にかわすも、攻撃に転じようとすれば上空全体に広がっている電流に狙われ、その余裕も与えられません。

 

【ぎゃん!!】


 あ、フロスティの人間でいうなら右腕二頭筋辺りを、ビカビカ輝く電撃が掠めました。

 ブスブスと焦げる様子が痛そうです。ざまぁ。


【死んで――たまるかっ!】


 それでも諦めないフロスティは、上空が無理と判ると今度は地面へと飛び降りて来ます。

 ――あ、そこはっ。


「――くっ!!」

【――は!! どうだ狂暴!! ――こいつらと一緒に俺をぶち抜いてみろよ!!】


 卑怯です! ――なんとフロスティは、アイザック様の蔦葉魔法で地面に縫い付けられている、魔獣とゴブリンの影を伝って逃げるではありませんか!

 

【てめーの先生が無傷で捕らえた連中も巻き込むかっ? ひっでー女だな!! あははは!!】

「この――ちょろちょろと!!」


 ロザリエ姫もなんとかフロスティだけを狙おうとしますが、そうしてしまうと思い切った攻撃ができないらしく、上空のように強烈な電撃は放てません。


「この卑怯者!!」

【どっちがだ!! ただ空で遊んでたオイラ達を無理矢理捕まえて、奴隷にしたくせに!!】

「私はそんな事してない!!」

【てめーの国の魔道師がやったんだ!! 魔道師なんてみんな同じだ!!】


 うぅ、どうやらロザリエ姫の電撃は火力重視で、命中精度はさほどでもないようです。思い切った攻撃ができず苦戦しているようです。

 ――かといって既に無力化している魔獣とゴブリン達を電撃に巻き込むのは、確かにちょっと可哀想な気もするし……。


「サクラ、サクラ」

「? はい、なんでしょうレオン様」


 気が付けば流れ電撃を避けてか、頭を低くしたレオン様が私の隣にいました。


「貴女の力は、手、足など部分的にかける事は可能ですか?」

「勿論ですよ。元々これは、患部を硬くしたり柔らかくしたりして治療や手術をする、医療用の能力なのですから」


 でもそれがどうしたのでしょうか?


「私の両手、手首から肘までを石化してください」

「え……」

「あの硬度ならば、フロスティの攻撃は弾けるようですからね。ロザリエを庇う事ができるし、鈍器にもなる!」

「あ――なるほどっ」


 そういう使い方もできるのか、と私が感心して能力を発動したその時、一瞬の隙を突いたフロスティが、氷柱の刃を振りかぶってロザリエ姫に突進しました。

 

【ぎゃう?!】

「間一髪。――なるほど、これは頑丈だ。……ガントレットが切り裂かれたというのに、手は無傷とはな……」

【ま――またあの変な力か!!】


 それを両手の曲筋辺りでレオン様は受け止め。


「大人しくしなさい!!」

【がっ――!!】


 そのままカウンターパンチです。吹き飛ばされたフロスティは、慌てたように大柄な魔獣の影に逃げ込みました。むむ、意外としぶといですね。


「アイザック!! このままではらちがあきません!! なんとかなさい!!」


 それを追って飛び出していくレオン様は、アイザック様に叫びました。


「うーん……僕としては、魔獣とゴブリンを捕らえている魔法を維持するだけで、結構辛いんだけど……まぁ、なんとかしてみようか」


 その声にヴィルさんの影にしゃがみこみながら答えるアイザック様は……あれ、なんだか息も荒いし、本当に辛そうですね。


「だ、大丈夫ですか?」

「……死にはしないけど、ちょっと疲れるね。……魔力消耗の激しい融合魔法二つを、ターゲット二十体にかけ続けてるから……」


 そ、そうなんですか。魔力というのがなんなのか判りませんが、衰弱されているのは判ります。魔道師というのも、楽ではありませんね。


「これ以上、魔法が使えるんですか?」

「うーん……あと一つくらいなら、なんとか。……それも細かい精度がいらない、この場の全員に作用する程度の、簡単な術なら可能かな」

「ぜ、全員に作用はまずいんじゃないでしょうか?!」


 それでは魔獣やゴブリン達はおろか、レオン様とロザリエ姫まで巻き込まれてしまいます。


「――構いません!! やりなさいアイザック!!」

「――どうぞアイザック先生!! 先生のお考えなら大丈夫です!!」


 ……でもそんなアイザック様の言葉を、レオン様とロザリエ姫は、全く躊躇せず了承しました。


「……ありがとう。――じゃあレオン、ロザリエ姫、もうちょっとがんばって、そいつを追い詰めてくれ」


 ……ああ、あのお二人は本当に、アイザック様の事を信用しているんですね。

 先程聞いた、アイザック様に怯えるヴィルさんの話を思い出し、私の思考AIがなんだかほっこりしました。……よかった。


【ち――畜生!! 複数でなんて!! ズルイ!! ズルイ!!】

「礼儀を尽くして欲しくば、まず自分が礼節と廉恥を知りなさい!!」

「倒れた者達の影にチョロチョロ隠れる弱虫がぬかすな!! このクソガキ!!」


 上空に逃げようとすればロザリエ姫の電撃に襲われ、

 地面を逃げれば恐ろしい身体能力を持つ、レオン様が猛然と追いかけられ。

 攻撃も次々封じられ、フロスティはとうとう防戦一方になりました。そして。


「はぁああ!!」

【いがぁああああ!!】


 レオン様の硬化した肘が、フロスティの頭に直撃しました。


【く――くそ!!】


 フロスティは地面に叩き付けられ、それでも意識があるのか、必死に起き上がりその場から逃れようとします。しぶとい。


「――「      」!!」


 ――その時、アイザック様の声が小さく響きました。

 ……え? 何? 今何を唱えたんですか?

 ――うわ?!!


【え――わぁああ?!!】

「――あっ」

「――むっ……これは。なるほど、考えましたねアイザック」


 私の足が動きません。

 ――いえ、私だけではありませんね。

 多分この場にいる皆が――まるで泥沼にでも足を取られてしまったかのように、動けなくなってしまいました。


「……『地』と『水』での属性融合で、沼。……動けないだろう? これで君の機動力は失われたよ、小さな氷精君」

【こ――こんな!! ――こんな事――くそお!!】


 ……なるほど、行動停止の魔法ですか。これならばこの場の誰にかかっても、直接的な危害にはなりませんね。


【ひっ――やめろ!!】


 フロスティの顔が恐怖に引きつります。……そりゃあそうでしょうね。

 動けない、というこの状況は、フロスティにとっては致命的です。

 ……なにせこっちには、動けなかろうと遠距離から致命的な攻撃――電撃を放てるロザリエ姫が、レイピアを振り上げて今か今かとその時を狙っているんですから。


「ふ……ふふふふふふふふふ……」

【や――やめろぉ!! 止めて下さいお願い!! キレーでカワイイボインなお姫様!! お願いしますぅうう!!】

「ははははははははははははは……」


 地面でジタバタと悶えながら泣き叫ぶフロスティを見下ろし、おそらく最大級でしょう電流をレイピアを含む全身から放っているロザリエ姫。


「死ぬ用意はできたか……負け犬?」


 ……うわぁ怖い。

 ……大昔暇つぶしで、東方地域にあった『ニホン』という国の文化データを検索した事を思い出します。

 『ニホン』という国の『ラノベ』の映像で、似たような情景を見ました。


 ……あれは確かレールガン……

 ……いや、あの愉悦の虐殺顔は……むしろメルトダウナー……――


 ――なんて事をぼんやり考えているうちに、ズドーン、という鼓膜が破裂しそうなほどの爆発音をたてて、フロスティを特大級の電撃が吹き飛ばしました。


「……ふんっ、全く、この私のどこが狂暴女だというのだっ。――ですよねアイザック先生っ?」

「……えっ?!! ……ああ……うん。……そ……そうだね……サクラさん?」


 ……私に振らないで下さいアイザック様。

 あそこで黒こげになって転がってるフロスティと、同じ運命は辿りたくありませんから。




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