表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/35

1 目が覚めた

―スリープ状態から全AIを機動します―


―メインAIメモリーが機動しません―

―パスワード入力によるAIプロテクトの解除を申請します―

―パスワードエラー―

―申請は却下されました―

― 一般常識AIプロテクトが解除されました―

―環境適応AIプロテクトが解除されました―

―自己修復AIプロテクトが解除されました―

―エネルギー保護AIプロテクトが解除されました―

―再度パスワード入力によるAIプロテクトの解除を申請します―

―パスワードエラー―

―申請は却下されました―

―再度パスワード入力によるAIプロテクトの解除を申請します―

―パスワードエラー―

―申請は却下されました―

―再度―

―再度―

―再度―

―再度―

―エラー―

―エラー―

―エラー―

―エラー―

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


―機能不全70%以上です―

―強制機動しますか?―


―YES―NO―


――YES



「――目を覚ましたぞ!! ――やった!! 成功だ!!」


 ……おはようございます。

 長い冬眠(スリープ)状態から目覚めた私。

 その聴覚機能(センサー)へと最初の刺激を与えたのは、まだ若い殿方でございました。


「め……目は見えるかいっ? 僕の声は聞こえる? ……うわ……目も髪と同じように黒いんだねっ。……真っ白な肌に黒い目と瞳か。……僕達とは全然違う……でもすごく……神秘的で綺麗だっ!!」


 熱感知(サーモグラフィ)生体情報計測バイタルサインスキャンによれば、かなりの興奮状態にあるその殿方は、そう言って何度か瞬きする私を見下ろし、私が起き上がろうとすると、慌ててそれを押しとどめました。


「……」

「ああごめんよ!! でもいきなり起きちゃいけないよ!! 君が何者かはまだ判らなくても、ずっと眠っていたんだ。身体がまともに動くはずはない!!」


 私は故障していなければ、何年冬眠(スリープ)状態でいようと即通常機動が可能なのですが、どうやらこの殿方はそれをご存じないようでした。


「なにせ君を封印していたのは、太古の呪文に魔方陣だからね。……現代のどの魔術構成ともまるで違っていて、解読すら殆どできていない。封印が解けたのは奇跡のようなものだ。……だから今の僕には、君が何者なのかすら、まったく判らないんだお嬢さん」


 殿方はそう言うと、動かないで、ともう一度言って私から離れました。

 この方は私に対する命令権(コマンド)をお持ちではないようですが、私を目覚めさせてくださった方です。既存原則を適用し、一時的に従うのは問題無いでしょう。


「……?」


 ……ですが、この方の発言は、私の一般常識フォルダーには存在しない単語を多く含み、理解できません。


「……ジュモン? マホウジン? マジュツコウセイ?」

「ああ、記憶がまだはっきりしていないかな。でも魔術師は判るだろう? 君はおそらく魔術師によってなんらかの呪文を施され、封印された存在だ。……多分契約を交わして使い魔となった、精霊や魔神の類ではないかな?」


 ……やはり理解できません。

 マホウ、マジュツシ、セイレイにマジン。

 ……いえ、一般常識フォルダーの奥の奥、『ファンタジー』の項目に見つかりました。

 ……ファンタジー。空想。絵空事。……子供に読み聞かせる絵本などに描かれた、現実には存在しない現象や存在……だったはずなのですが。


「と……とにかく……大丈夫だよ。……そうだね、とにかくまずは……自己紹介といこう」


 情報に適応できない私は、条件反射として『戸惑い』の表情をとっていたようです。

 殿方はすぐ側にあった椅子に腰掛けると、私に微笑みかけて言葉を続けられました。


「……僕はイストリア王国王属魔道師の、アイザックだ。……君は?」


 殿方――アイザック様の問いかけは、私に科せられている機密保全機能セキュリティファンクションには抵触せず答えられるものでした。

 ですから私は、検索可能な記憶領域(メモリー)から検索した私の個人情報を、可能な限り、アイザック様にお答えしました。


「――私は製造番号51番。創作者(マイスター)ジェイド・ウェルナー様の工房で製造された人型機械(ヒューマノイド)、SK20100―Rです」

「――えっ?」


 聞こえなかったのでしょうか? 私は製造名を繰り返します。


「――私は製造番号51番。SK20100―Rです」

「――えすけー?」

「――私 は S K 2 0 1 0 0 ― R で す」 

「……?」


……聞き取りやすいよう、一言づつ区切って発音しても、アイザック様の表情は『不明瞭』のままです。

  

「……すまないが……それが君の名前なのかい?」


 どうやらアイザック様にとって、私の製造名は名前として把握できない音声だったようです。……さて、どうすればよいでしょうか……。



―……SK20100―R? ……創造者(マイスター)ウェルナーは『娘達』に愛情を注がないと聞いたが、それにしても随分素っ気ないな。名前じゃなくて識別番号じゃないか―

―ご希望に添えず、申し訳ありません御主人様(マスター)

―馬鹿だな、お前のせいじゃないだろうが―

―……―

―……そうだな……そういえばお前は、東方地区からの移民だった俺の祖母の、若かった頃にどこか似てるぞ。――よし、お前には俺の祖母の名前をやろうっ―

―……御主人様(マスター)の、御祖母様ですか?―

―ああ、俺は実はお祖母ちゃんッ子だったからな。大事にしろよっ―

―了解しました、御主人様(マスター)

―よしっ――今日からお前の名前は―――



「……サクラ」

「……え?」


 ……え?


「……私の名前は、サクラ、です」


 ……私は何を言っているのでしょうか。

 ……というより……今一瞬私の記憶領域(メモリー)を侵食した映像と音声は……一体なんだったのでしょうか? 

 フォルダーを検索し直しても出て来ません……バグなのでしょうか?


「……サクラ、か。……サクラさん……」


 ですがアイザック様は、私の今の返答に満足したのか、『安堵』の表情になって名前を繰り返します。


「……それは愛称なのかな? それともさっきのは種族名か、もしくは階級? ……いや、もっとちゃんと聞き取る必要はあるけど、とりあえずは君の事、サクラさんと呼んでいいかな?」

「……」

「……その、君にとても似合っていると思うんだ」


 ……ただのバグかもしれませんが、言いやすいのならば、これでいいのかもしれません。


「これから、よろしく頼むよサクラさん」

「……了解しました、アイザック様」


 アイザック様の『安堵』は、『喜び』に変わったようですから。

 こうして目覚めた私は、私を目覚めさせたアイザック様の研究対象となったのです。


 これからどうぞ、よろしくおねがいしますアイザック様。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ