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3話 迷宮への入口

 なにやら剣呑な雰囲気になってきた。向こうは俺に鑑定スキルのレベルを上回られたことでなにやら様子がおかしくなっているが、俺だって十分すぎるほどビビっている。


 今も視界の隅に表示されている相手のレベル数値の65。この世界ではレベル100が上限となっているのだが、そのうちの65。はっきり言ってバケモノだ。人間側で例えるならば普通の村人がせいぜい6か5あたりが限度で、一人の男が生涯を鍛錬に費やしたとしてもレベルは30に届くかどうかといったとこ。それでもレベル30といえば国では並ぶものさえいないとされるほどの豪傑に数えられる。


 レベリングというシステムが勇者に発見され、幾分かは人間たちのレベル上限なるものが解放されたのかもしれないが、それでも65にはまだまだ足りない。こいつは一体何者なんだ。単純なレベルでいえば魔王に次ぐほどの強さをほこるだろう可能性だってある。


「どうした顔色が優れぬぞ」


 やんわりと笑いながらこちらへ近づいてくる。


「いや、だって俺ゾンビだし顔色がってレベルじゃないだろ」


「フフ、そうじゃったか。そういえばお主は変わった仮面をしておるの。まさかこれが妾の鑑定スキルを妨害しておるのか?」


 ピタリと仮面に手を当てられる。鑑定スキルが相手に及ばない場合は装備品などに限り、直接手を触れることで鑑定できるのだが。


「ふむ、特に効果もないようじゃの。強いて言うなら呪われて外すことができんという程度か。フフ、そうこなくてはな」


 アテが外れたというのに何故か嬉しそうだ。というか今さらりと重大なことを言われたきがする。外せないのかこれ。まぁ特に困ってもいないし別にいいか。


「お主にはきっと妾の内がみえているのだろうな。ああ、妾の全てがお主に見透かされておる。フフ、こんなことは初めてじゃ。どうしたものか、どうしたものか」


 何やら大仰なセリフと仕草をとり、頬をそめている。なんだこいつは。アブねぇ。


「と、ところでここはどこなんだ?俺はここに来たばっかり、というか生まれたばっかりみたいなもので何がなんだかわからないんだが」


「うむ、妾の名は稲荷楓という。お主ならば特別に楓と呼ぶことを許そうぞ」


「え?あ、ああ。ありがとう?。俺の名前は……じゃなくて、ここはどこなのかおしえてくれないか?」


 反射的に自分も名乗ろうとしたのだが、記憶がないのでつまってしまう。


「そうよの。妾は盆栽が趣味でな。今度屋敷に来てみていくといい。こういうものばかりは鑑定スキルでも知ることができなかろう?」


「ん?そ、そうかもな。それでここはどこなのかを……」


「いや思い立ったが吉日。今すぐ行こうではないか。ちょうど美味しい羊羹を手に入れたのだ。甘味は嗜むかの?」


「駄目だこいつ話が通じん」


 げんなりとうつむき嘆息する。その後「また会おうぞ~」という言葉を残し楓は職員の皆様に引きずっていかれた。


「なんだか…どっと疲れた」


「お疲れのところ申し訳ございませんが、これからの貴方様について等ご説明させて頂きたいのですが」


「ああ、はいはいよろしくお願いします」


 新たに現れた猫の獣人の女性が丁寧に教えてくれる。まずはこの場所のこと。ここは4人の有力な魔物達によって分割統治されているシカリウス、と呼ばれる領であり、先に起こっ魔王の崩御によって始まった権力争いをよしとしていない。


 だが攻めてくる者達への対策は怠っておらず、休眠中の迷宮に見せかけることで強力な敵を招き寄せることを防いだり、内部に非常に大きな集落、もはや国だが、を作り魔物たちを共存させることによって互の力を練磨させているというものだった。


 先ほどの鑑定スキルを行っていた場所は新たに生まれた魔物達の能力を見極め、適切な役割を与えるためにやっていたもので、種族ごとに分けられていたのもそのためだ。


 そして、次に俺のことについて説明される。本来ならあそこで俺の所持スキルやらレベルやらを鑑定し、どこか適切な部署へと配属されるはずだったが、俺に鑑定は効かなかった。こんな事態は初めてのことであったのだが、所持スキルがわからず路頭に迷うということはないらしい。


「すでに稲荷様よりあなた様へお声がかかっています。」


さっきの妖狐の魔物のことか。えぇーあいつのとこ行くのか。聞くところによると、鑑定スキルを使った仕事に回される可能性があるとのことだ。確かに鑑定スキルが高いのは大きな武器で、まさに適材適所といった感じなのだが。


「他にはどんなところがあるんだ?」


「えっ、稲荷様の誘いを断られるのですか!?」


「いやそういうわけじゃないんだけど」


「稲荷様は先程ご説明した、このシカリウス領を統治していらっしゃる4人の内の一人なのですよ?色々な面から鑑みましても、間違いはないと思いますが……」


「だからそういうわけじゃないって。例えば他にどんな可能性があるのかなーって知りたいだけだよ」


「そ、そうでございますか。では…ほかに配属先をとれるとしたら迷宮作成部門でしょうか」


「迷宮作成部門?一体どんなことをするんだ?」


「はい。こちらでは主に冒険者や騎士団の迎撃やその他迷宮の運営などを取り仕切っております。あなた様はアンデッド族ですのでその中でも主に戦闘の部分を任されることが多いと思います。」


「ゾンビに戦闘ねぇ」


おもわず自分の身体を見下ろす。ここまでたどり着くのに、この体がどれだけ脆弱であるかは身にしみてわかっている。


「……あまり大きな声では言えませんが、あなた様のお考えのとおりです。ゾンビは数が多く量産され、加えてここの魔族の中でも飛び抜けて思考も鈍く、非力です。口減らし、といえば聞こえは悪いのですが………」


「いや、いいよ。わざわざ説明してくれてありがとう」


そこまでぶっちゃけてくれれば、皆まで言わなくともわかる。


「申し訳ありません。お見苦しいところを」


ここまでの話でいけば、片方は楓のもとで鑑定スキルを使った安定のデスクワークだ。加えてここの統治者の一角という後ろ盾も得られるしで、ゾンビに生まれ変わった者としては破格の待遇だ。はっきりいっていいことずくめである。


 もう片方は迷宮作成部の戦闘部門だ。それもおそらく最前線に放り込まれるだろう。しかしながらゾンビなんぞ数だけが多く、冒険者や騎士団にちぎっては投げを繰り返されるだけなのが関の山だ。死にに行くようなものである。


「ふっ、選ぶまでもないな」


「はい」


「俺は迷宮作成部へ行く」


「かしこまりました。ではすぐに稲荷様にお取次ぎを………え?」


「楓のとこはパス。俺は迷宮作成部に行くって言ったんだ」


「え…えええぇぇえぇぇ!!」


木霊する声を聞きながら俺は迷宮へと思いを馳せるのだった。



◇◇◇◇◇◇



 そんなこんなで迷宮作成部へと配属が決まった俺。あのあと楓が乗り込んできてえらい剣幕で詰め寄られたのだが、それはさておき。


「さて、鑑定開始っと」


 鑑定スキルを使う。対象は自分自身だ。

 

 レベル1 ゾンビ HP30/30 MP0/0 STR20 DEF5 INT8 AGI2 DEX7 CRI10


 ここまではごく普通のゾンビと変わらない。知力を表すINTが8しかないのが何気にショックだったが、魔法を使う力、という風に換言すれば頷くこともできる。うん、そう思っていたほうがきっと幸せだ。


 さて問題は次である。この世界には単純な身体能力とは別に、スキルというものが存在する。楓とひと悶着起こしたきっかけである鑑定スキルもそれに含まれている。


 スキルは魔力をどれだけ蓄えたか、つまりレベリングとは別の方式で成り立っており、本人の素質にもよるのだが、そのスキルを使えば使っただけ鍛えられていくこととなる。普通のレベルが高いからといって、それぞれのスキルレベルも同じだけ高いとは限らないのだ。その逆も然り。そんなわけで俺のスキルはというと。


 杖52 遠見68 心眼82 師団指揮78 治癒75 見切り63  明鏡止水72 魔法制御82 魔力付与85 アイテム作成73 無詠唱80 光魔法79 最後に鑑定のレベルだが、EXとなっている。


 パッと見て高位なスキルを上げていった。全てのレベルの上限は100なのだが、スキルレベルだけで言えば地上最強を名乗ってしまってもいいくらいのでたらめな強さだ。それいそもそも鑑定のスキルEXとはなんなのだろうか。楓の100レベルを超えているということは通常の枠に収まっていなさそうだが。


「当然ながら取得した覚えもないし、生前の俺が持っていたスキルってことでいいのか?」


 もしそうだとすると、生前の俺が何者なのかはかなり絞り込めてくるはずだ。自分でいうのもなんだが、これほどの使い手は世に数人とおるまい。


「まぁこれなら自分探しの旅はあとに回してもいいかな。問題は目先のことだ」


 目先のこと、というのはいうまでもなく迷宮作成部についてのことだ。


 なぜ楓の誘いを蹴ってまで、危険な任務を選んだのか。それは一刻も早く力を、レベルを上げたかったからだ。ここでの統治は今までに見てきたどの領地よりも完成されている。ここ数日の間見て回ったことで、これは疑うべくもなかった。


 だが所詮は魔物社会なのだ。いくら仕事で支払われる貨幣を溜め込んだところで、いくら安定しているからとはいえ、いくら有力者の力を借りられたところで、結局は強さが物を言うのだ。


 乱暴な話だと思わなくもないが、危機に直面した時に、我を通しきるには結局その方法しかない。記憶を失っている俺が経験則を語るのも妙な話だが、なぜか確信が持てた。そして今俺が持っている強力なスキル達もその背中を押したことは否めない。


 だが、実際にスキルを試してみたときは落胆したものだ。ここには闘技場というものがあり、魔物同士がしのぎを削って戦うという訓練場みたいなものがあるのだが、杖に魔術制御、治癒、魔力付与、無詠唱、光魔法と魔力を扱うスキルは軒並み使用不可能になっていた。


 俺自身としてはスキルの扱い方がなんとなくわかっていたので、問題ないだろうと踏んでいたのだが、いかんせん基本ステータスが足りなさすぎる。光魔法の限定的なスキル以外宝の持ち腐れとなってしまっていたのである。


 それなりに使えそうなのは師団指揮と遠見、心眼くらいだろうか。しかしこれらはどれも副次的なものにすぎず、直接の戦力とするには適さない。


「今からでもいいから、楓のとこに頭下げてこようかなぁ」


 思った以上に多難となってしまった前途に、つい弱気になってしまった。

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