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2話 魔物たちの国

「グッ……痛…」


 全身の痛みに耐えながら体を起こす。あたりはほの暗く、声の響き具合からかなり広い空間だとわかった。ここはどこだろうか。というか俺は誰だろうか。なにがどうなってるんだろうかと考ようとして、手をついて立ち上がろうとしたのだが、ふと違和感を感じる。視線を移してみると。


「…腐ってる。なんじゃこりゃ」


 ケロイド状にただれたような見た目に、内部の感触がグズグズになっているのを感じる。一応形は保ってはいるものの、気をつけていないとちょっとした衝撃で壊れてしまいそうな印象を受ける。

 

 準備運動の要領で身体のあちこちを確かめてみたのだが、どこも同じことになっているらしい。さらにその影響なのか運動性能がかなり低く、歩くのがおっそいおっそいで大変だ。


「どうなっちまんたんだ、俺」


 はぁとため息をつく、そしてまた違和感。


「あれ声が出る」


 さっきは声を上げることすらできなかったのに、と考えたところでハッと思い出した。


「…俺はポーションぶつけられて死んだはずじゃ」


 その後すぐ気を失ったのでよく覚えてはいないが、かなりの高さをあっちにひっかかり、こっちに引っかかりで落下していったような気もする。体の痛みはそのせいだろう。それにしても。


「体力が幾分か回復してるな。しゃべれるようになったのもそのおかげか?」


 誰かに手当してもらったのかとも考えたのだが、辺りには人の気配が全くない。足音一つ聞こえない。


「なんだかよくわからんが、まあいいや。とりあえずここはどこだ?」


 よし、とすこし気合いをいれてあたりを散策してみることにする。カール含めさっき迷宮の上層にいた連中の話ではここは迷宮だそうだが、半分休眠状態にあって、ある程度深く潜らないと魔物の姿はないという話だった。普通なら迷わず上の階層へと歩を進めるべきなのだが、それはできない。なぜなら。


「くそっ。歩くのが遅い!かといって走ろうとすれば足が折れそうだし不便すぎる」


 現在絶賛ゾンビ中だからである。冒険者やカールたちにもし出会ってしまったら一巻の終わりだろう。運良く会わなかったとしても、迷宮の出口は外だ。アンデッド系のモンスターは太陽が苦手なので、最弱であるゾンビで日光を拝もうものなら瞬時にあの世行きだ。


「かと言って下に逃げるのもなぁ」


 上から追われるのならば下に行く以外に選択肢はありえない。が、下は下で魔物がでる。この迷宮の主、マスターの采配にもよるのだが、基本的に魔物たちは同じ魔物どうしで殺し合うことが往々にしておこりうるのだ。


 なぜかと問われれば性分だから、というのが一番しっくりくるのだが、これは別に魔物に限った話ではないだろう。人間だって同じことが往々にして起こりうる。むしろ魔物たちには定期的に体に貯めている魔力を放出したり、他者から吸収したりしなければ生きていけないという理由があるため、人間よりかは自然なのかもしれない。そんなとりとめのないことを考えながら俺は暗い迷宮をあてもなくさまよった。


「はぁ、疲れた。ゾンビとはいえやっぱ疲労は感じるものなんだな」


 よっこいせ、と床に腰を落として小休止を取る。あれからずいぶん歩いたが未だに下に降りる階段は見つからない。成果はほぼなしだ。しかし、ほぼというのは自身の記憶に関してわかったことがあるからだ。


 俺は自分に関する記憶がすっぱり抜け落ちたように覚えていないのだが、それ以外のことについては意外と知識を持っているようだった。カールたちと遭遇したときはで言えば、ゾンビという魔物の詳細な情報をが出てきたし、ポーションの効果などもすぐに浮かんできた。ただ、知識を思い出す為には条件のようなものが有り、対象の物を目で見たり、耳で聴いたりしなければ記憶は引き出せない。


 ここまで歩いてくるのに目で見て知識を得たものは、石の材質だとか植物の名前はなんだとか、あとはこの迷宮はほかと比べてずいぶん広く作られているだとか、役に立つとはいいにくい情報ばかりだったが。


 はぁ、と本日何度目かというため息をもらす。その時。


「------------!」


 かすかにだが遠くでもの音がした。俺はとっさに隠れようとしたが壁に囲まれた一本道で休憩をとっていた最中だったため、先にも後にも身を潜めたり出来る場所はない。未知の場所で敵かもしれない相手に見つかってしまうという愚をおかしてしまったのだ。いきなりやらかしたかと思わなくもないが、どのみち歩き疲れて体力不足だったため、まぁこんなものかもしれない。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか」


 やがて姿を現したのは一匹のコボルトだった。小さい背丈に犬のような頭部をもった二足歩行の魔物。遠目に見れば小さな子供に見えなくもないが、その身体能力は平均的な人間の大人でも決して侮ることはできず、油断は禁物という程度の強さだ。だが、はっきりいって戦闘になれば負けるだろう。それでもやるだけのことはやろうと思い立ち上がって身構えるのだが。


「オマエ ココデナニシテル?」


 コボルトは首をかしげ不思議そうにこちらに問いかけてきた。喋った。普通のコボルトではありえないことだ。仲間と意思疎通をとるいために奇声を発したりすることはあるにはあるのだがこれは一体。


「…ああ、道に迷ってな」


 とりあえず適当なことを返しておく。敵意はないようだから荒事になりそうはないが果たして。


「ソウカ ソレジャア アンナイスル ツイテコイ」


 言葉が通じた。一瞬よぎった考えは、俺が魔物になったことでコボルトの奇声なり唸り声を翻訳できるようになったというものだ。しかし、このコボルトは俺の答えを的確に感じ取り、言外にある俺の望みを悟る知性を身につけている。


「うーむ…」


 とりあえず行くあてもないのでこのコボルトについていってみよう。言葉が通じるのなら、現在俺が置かれてる状況を理解する手がかりだってつかめるかもしれない。のんきに背後をさらすコボルトの腰に付けてある一本のショートダガーを見ながら俺は歩き始めた。


 程なくして俺はコボルトの目的先についたわけだが。


「なんて魔物の数だ。広い迷宮だとは思っていたがこれほどとは」


 眼下には魔物達の集落がいっぱいに広がっている。これだけの数いれば小国くらいは滅ぼせそうなほどだ。


「オマエハ シンイリナヨウダカラ アノトウへイケ」


 コボルトはそう言って遠くにあるひとつの塔を指差したあと、背を向け去っていった。


 また歩くのか、それに礼を言いそびれたと思いつつもとりあえず言われたとおりにしてみる。俺は塔に向かうべく集落のほうへと丘を降りていった。


「アイテム屋に武器屋、防具屋に…」


 驚いたことに店がある。もちろん店主は魔物だ。高位な魔物たちは人間より高い知性を持ち、時たまその甘言でもって人間をいいように弄んで楽しんだりしたりすることもあるのだが。


「おい、このブロートソードは2ブロック先の武器屋で18cで売っていたぞ。ここはそこよりも2c高いじゃないか」


「ヘッ、ナラソノミセデカエバイイダロウ」


 魔物たちの会話である。両者とも低級な魔物で知性どころか言葉すら操れないはずである。


「魔物達の知力の増加、魔法の中で該当する効果を持つものもないわけではないんだが、ここまで規模がでかいと…いやしかし…」


 この現象に関して思考していると、いつの間にか塔へたどり着いていた。一旦考えるのをやめ、中へ入っていく。と、そこにはたくさんの数、種類の魔物たちが列を作り並んでいる。


「はぁいようこそ選定会場へ。あなたはアンデッドさんですね。あちらの列へどうぞ~」


 軽い調子のハーピーがやってきて、なんだか列へと案内される。流れ作業で進んでいるためか、有無を言わさず移動させられた。そして案内された列は俺と同じゾンビだらけだった。服は乱れ手足もあちこち腐っており、中には欠損しているものまでいる。


「なぁそこのアンタ、これは一体何を順番待ちしているんだ?」


 すぐ後ろに並んでいたゾンビに問いかけてみるが、不明瞭な唸り声が帰ってくるばかりだ。


「俺の言葉がわかるなら左目を閉じてみてくれないか?」


 最初の頃の俺のように声が出せないのかと思い質問してみたがやはり反応はない。周りにいるほか数人に同じことをしてみたが結局全てダメだった。


 あのコボルトを始め、集落にいた魔物たちと、ここにいる魔物たちはどうやら違うらしい。そうこうしている内に俺の順番が回ってきた。なにやら小部屋に通され、そこには身長15センチくらいでふわふわと宙に浮いている妖精、タイニーフェアリーが待っていた。何事かと思ったが、ただ俺をジッと見つめてくるだけで特になにもない。そしてだんだんとフェアリーの表情が切羽詰ったものへと変わっていく。なんだかいたたまれなくなってきた。


「あの~さっきから何してるんだ?」


 沈黙に耐えられなくなり声をかける。


「ウソッ、あなたしゃべれるの!?」


「は?」


 えらい驚かれ、フェアリーはそのまま部屋を飛び出していってしまった。一人取り残された俺は途方に暮れてしまう。しゃべれることを表に出してはまずかったのか、しかし集落にいたモンスターだって会話してたし、いやでも列に並んでいたゾンビたちは出来なかったな。よくわからんがなにか失敗したのかもしれない、などと考えていると。


 部屋の扉が開き、今度は数人の別の魔物たちがやってくる。そしてまた俺を見つめてくるのだが、これがどうにも居心地が悪い。まるで自分の中身を見透かそうとしているような……。と、そこまで考えたところで、記憶の中から一つの言葉が浮かんできた。


「まさか、俺に対して鑑定スキルを使っているのか?」


「!?」


 ぽんと思ったことがつい口を出てしまった。あ、と思ったのも束の間。またもや魔物たちは血相を変えて退出していく。どうやら図星だったようだ。しかし鑑定スキルか。なんとなく思い出してしまったが、非常に便利な能力だ。だが、俺が使えるかどうかはわからない。次に現れる魔物に試してみるとしよう。そして待たされること10数分。ガチャりと扉が開く。現れたのは。


「ほう、お主が」


 赤と白で構成された巫女服のようなものに着物を羽織っている人間の女。いや違う。


「にわかには信じられぬな、ここの職員共に鑑定スキルが効かぬと泣きつかれ来てみれば」


 頭に三角の耳が二つピンと立っており、腰のあたりから伸びている毛で覆われた尻尾のようなものがある。


「鑑定スキルは使い、使われるもののレベルに大きく依存しておる。あやつらがお主の内を見通せなかったのは単にお主の鑑定スキルがあ奴らを上回っていたというだけじゃ」


 透けるような白い肌、さらさらと風もないのに揺れる美しい銀の髪。


「じゃが、これはありえんよ。あってはならない」


 宝石のような鳶色の瞳が俺を射抜いた。


「お主が妾の鑑定レベルを超えているなどとな」


 レベル65 妖狐 鑑定スキル----100

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