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黒いドラゴン(前編)

というわけで新章突入!サリア回というよりはゼロ回ですね

山が赤く染まっていた、山の中のほんの小さな町が燃えているからだ。炎は家を焼き地面を焼き木々を焼き人を焼いていた。建物は崩壊し生命の存在を感じることができない。

町の中心に黒い塊がいた。赤い目をし全身を黒に覆われている巨大な生物、ドラゴンである。ドラゴンの周りには人の形をした黒い塊が無数に落ちていた。どうやら熱気で耐えられなかったらしい。ドラゴンは最後の1人を飲みこむと、大きな翼を広げ空に舞い上がった。人がいなくなり壊滅した町を後にして・・・。




ゼロは静かに起き上がった、隣には気持ちよさそうに眠るサリアがいるからだ。サリアを起こさないようにベッドから出ると窓を開ける。すると、首輪にかばんをつけた透明な犬が入って来た。まるで幽霊のような犬だが実体はあるらしい。ゼロがかばんを開けて中の物を取る。それは紙の束だった。いや、書類の束というべきか。

内容は新規加入者の詳細、SSランク依頼、その他色々の報告だ。なぜ、このようなものが送られてくるのか?それは、ゼロがクランの総長マスターだからだ。

『蒼穹の翼』

ゼロが総長をしているクランの名前だ。人数は30人ほどでそこそこな規模を誇っている。

だが、実力は大陸でトップクラスと呼ばれクランレベルもS級で、国からの依頼も多い。

現在、ゼロが不在のため副長のアルベリク・バルゲリーが雑務を行っている。重要な案件などはゼロに報告を回すようにはしてあるが。


さて、特にこれといって特別な報告もないので流し読みしていくゼロだったが新規依頼の中の一つに目が止まる。依頼クラスSランク、機密度Sの国からの調査依頼だ。

『このところ山間の小規模な町がねらわれている。現在確認されただけでも5つの町が襲われており、町は壊滅、生存者はいない。なぜ、ねらわれているのか。襲撃者は何者かの調査を頼みたい。なお、調査対象が討伐可能だった場合は討伐を許可するものとする。一番最近襲われた町はメルス山のふもとであるガーネックである。未確認情報であるが、ガイズ山からメルス山の間で商人がドラゴンの目撃情報がある。確認されたし。なお、パニックを避けるため調査は秘密裏に行ってもらいたい。』


(メルス山か、近いな。脅威はなるべく早めに排除しておきたい)


カルパニア魔法学院の北には山々がある。学院の近くからガイナ山、メルス山、ジカード山と続いている。ガイナ山は標高が低く、学院を一望できる展望台もあり学生には憩いの場にもなっている場所だ。一方、メルス山は標高が三つの中でも一番高く魔物の生息している。学院では年に一度ここで実戦訓練として課外授業が行われる。


ゼロは最優先の判子を押し、この問題に適した者を記す。


「こいつを頼むぞ」


犬の鞄に入れると窓から放すと、サリアのベッドに戻る。



―蒼穹の翼本部―

早朝、アルベリク・バルゲリーは執務室に入って回ってきた雑務をこなし始めた。元々、戦っているよりも事務仕事のほうが性にあっているようで、今では冒険よりこっちのほうが楽しいほどだ。重要な報告はすべてゼロに行っているため、そこまで気を張る必要ないのだが、今日は違っていた。


「Sランク依頼、しかも総長からのサインと最優先の判子付きだと?」


『この依頼を最優先で遂行せよ。なお、この任務にあたり次の者を指名するとする。レイラ・カージネス、ジン・カミナギ、アドラ・ハービスト。その他志願者2名、計5名であたるように。未確認目撃情報も含め報告は随時行え』


「珍しいこともあるものだ・・・」


アルベルクは机の呼び鈴を鳴らした、しばらくしてメイドが用件を伺いにやってきた。


「こいつを掲示板に載せてくれ、あと、レイラ、ジン、アドラを呼んで来て欲しい」


「了解いたしました」


「さて、次はっと・・・」


アルベルクの一日は始まったばかりだ。




―カルパニア魔法学院、昼間、グラウンドにて―

この日ゼロはボーっと考え事をしていた。理由は昨日の依頼の一件とサリアに関わることだ。どうやら今夜からサリアを含む一年全員が課外授業としてメルス山に行くらしい。(すっかり忘れてた)安全のために付いて行きたかったのだがレンに止められてしまった。

レン曰く「甘やかしすぎはダメ!」とのこと。

しかし、メルス山が今危険なのは事実。クラン権限を使って入山を止めてもいいのだが、その場合理由を考えなければいけない。何より今回の依頼は秘密裏にとのこと。迂闊に国から受けた調査のためとは言えない。


「まいったな~・・・」


「まいっているのはこっちよ!」


突然声を上げられて驚いて振り向くとそこに腰に手を当てて女子がいた。機嫌は相当悪いようだ。


「授業中に空を見上げてボーっとしてるとかおかしいんじゃない?」


「いや、ちょっと考え事を・・・」


「い・ま・は!魔法陣展開速度の演習中でしょう!?」


「あー・・・うん。別に1人でやればいいんじゃないかな?」


「あのね、二人でやらないといけないの!1人が素早く展開して攻撃してもう一人が防御する攻防戦!二人じゃないと意味ないの!」


「そう言われるとそうだな・・・」


「もう!いくわよ!」


「え、いくってなにをー・・・?」


<ファイアボール!>


女子の手から炎の球が飛び出してゼロに向かっていく。


「おっと・・・」


そんな炎の球を手のひらで受けて無力化する。


「ちょっと!今のなによ!防御魔法陣展開して防御してよね!」


「あ、ああ、それはすまん」


「そこ!なにしているの?ちゃんと授業しなさい!」


「げ、ブレンダ先生・・・」


「攻防一体の速さを練習しないと実戦で役に立たないわよ!」


「だって、ゼロ君が真面目にやってくれないんですもの」


「なんですって?いいわ、ゼロ君!私が相手になりましょういいですね!」


ピー、ピー、急にゼロの携帯結晶通信が鳴り始めた。


「あ、ちょっと待ってください。通信に出ないと・・・」


急いで通信機を取り出し制止をするが・・・。ブレンダ先生はすでに詠唱に入っていた。


「問答無用!いくわよ!<我、求める力は水、水流よ押し流せ!ウォーターブラスト!>」


通信を開くと同時にブレンダ先生の両手から魔法陣が展開下したかと思うと水が波を打って飛び出してきた。

迫り来る波を冷静に右手でかまえ左手で通信機を耳に当てて声を聞く。


「何かわかったのか?」


この携帯結晶通信機は蒼穹の翼専用のため、かけてくる人間はクランメンバーくらいなものだろう。

右手で波を押さえ込むような仕草をすると水は徐々に動きを止め凍り付いてしまった。


「なっ!?ま、まさか魔法干渉?」


驚いているブレンダ先生を尻目に凍った水を氷塊として撃ち出す。


『はい、商人の話、どうやら本当のようです。』


「アイスボール!?<水よ我が壁となれ!ウォーターウォール!>」


ブレンダ先生の前に水の壁ができ氷塊を打ち消す。


「つまり、ドラゴンを見たというのだな?」


『はい、間違いないそうです』


(しかし、ドラゴンは無闇に人を襲わないはず。特に町を襲うなどもってのほか)


「・・・そのドラゴンの色はわかるか?」


『色ですか?少々お待ちください』


「魔法干渉に加え無詠唱だなんて・・・。でも、これならどう?<万物の源に流れる水よ、母なる大海の胎動とともに柱となって天に昇れ!アクアスプラッシュ! >」


魔法陣がゼロの足元で広がり

ゴウッ!

ブレンダ先生が発動した魔法が襲い掛かる。水の柱が空高く上がった。


「先生・・・これはやりすぎでは?」


「ふ、教師の威厳の犠牲のためにはしかがないことなのよ」


ブレンダが空を見つめる。


「ごめんなさい、ゼロ君・・・。正しい教育のために―「せ、先生!あ、足下!」へ?」


ブレンダの足下に魔法陣が大きく広がる。


「ちょっちょっと待って!し、<シールド!>」


バチバチバチィィィ!


電撃が空から落ちてきた。


「ハァハァ・・・。待ってって言ったのにぃ・・・」


地面に倒れこむブレンダ。


「ちょっと先生!ゼロ君やりすぎだよ!」


水の柱が消えゼロが現れる。


「大丈夫だ、魔力の使い過ぎで気絶しただけだ。アクアスプラッシュで魔力を使い果たしてたらしいな、無理もないか。Aランク魔法だしな、アレ」


「・・・消耗していたのを知っていてライトニング撃ちこんだの?」


「一応、攻防一体の訓練だしな」


『お待たせしました、報告によると全身真っ黒のドラゴンだったそうです』


「夜、見かけて、黒と勘違いしたとかではないのか?」


『いえ、目撃したのは日中。しかもまっ昼間です。間違いないかと』


「今、調査隊はどこにいる?」


『現在、メルス山ふもとのゲンルイ村に到着したところですが・・・』


「よし、その村で夜まで待機だ。こちらの指示なく動くなと伝えろ」


『わかりました、他には?』


「志願者が2名いるはずだが、ランクは?」


『BクラスとAクラスですね』


「その二人は帰ってもらえ、代わりが行くとだけ伝えろ」


『了解いたしました』


通信を切ると準備をしに自宅に戻ることにした。先生も倒れていることだし、授業は無理だろう。

夕方、サリアが自宅に帰るとゼロが黒いローブに着替えて出るところだった。


「お兄様?どちらに・・・?」


「急用ができた、出かけてくる。明日の課外授業がんばれよ」


「はい、お兄様。帰ってきますよね・・・?」


「もちろんだ、サリア。これをお前に渡しておこう」


ゼロは懐から出した青い色の石のペンダントをサリアに渡す。


「これは守護聖石ですか?」


「いいや、違う。もし危なくなったら石に魔力を注ぐんだ。そうすれば効果を発揮するはずだ。いいか、もうどうしようもない時にのみだけ使うんだぞ?」


「はい、わかっています」


「では、行って来る」


そう言うとゼロの周囲に風が集まり、宙に浮いたかと思うと消えていた。


「どうか、お気をつけて・・・」



―夜、ゲンルイ村宿屋―

宿屋の一室に5人の男女が言い争っていた。いや、正しくは2人の男が3人の男女に向け反発しているようだ。


「なんで俺たちだけ帰還命令なんだよ!おかしいだろうが!」


「そういう命令だ、しかたがあるまい」


怒声に答えるのは金髪ロングに美しい顔立ちで銀色の鎧を身に纏ったレイラだ。

その横では刀を持った黒髪の男ジンが座っており、さらにその隣で可愛い顔立ちをして男か女かわからないアドラがメイスを抱えて眠っている。


「理由もなにか聞いてないのかよ!」


「・・・聞いていない。そう怒鳴るな、私だって不満なのだ」


「だったら!もう一回通信して理由を聞けよ」


「だめだ、結晶通信は緊急用と定時連絡用のみと限られている。そんなことで通信はできない」


「ふざけるな!だったら俺たちだけでも行くぞ!」


「騒々しいな、一体何事だ?」


戸が開いて黒い髪に黒いローブ姿の男が入って来た。


「マ、マスター!?」 


レイラは慌ててゼロの傍に行くと跪く、ジンも寝ていたアドラも飛び起きレイラに倣う。


「ゼロ様なぜこちらに?」


「連絡を受けただろう?今回の件俺が同行する」


「わかりました、あなたに従います」


うんうん、とジンとアドラがうなずく。


「おい!ちょっと待て!」


「なんだ?まだいたのか、早く帰れ」


「なんで俺たちだけ帰還なんだよ!説明しろ!」


「無礼だぞ、貴様!ゼロ様に向かってその態度は!」


レイラが立ち上がり腰の剣を抜こうとする。


「よせ、レイラ。理由か?簡単だ、貴様らではこの依頼確実に死ぬからだ」


「なに!?」「ほ、ほんとうかそれは?」


「いいか?今回の相手はダークドラゴンだ、貴様らに倒せる自信があるか?」


「「ど、ドラゴン?」」


「名前を聞いただけでそこまで怯えるならわかるな?この件から一切手を引け」


「わ、わかりました・・・」


「レイラ、出発の準備は?」


「すぐにでも旅立てますが」


「では、すぐに行こう、時間の猶予があまりない」


「はい」


「ゼロ様、行き先の件で相談が・・・」


「なんだ、ジン」


「当初我々はドラゴンという未確認情報を確認すべくこの付近の竜人族の村に出向く予定だったのです」


「この近くに竜人族の村があるのか?」


「はい、小規模でありますが、北のほうに」


(ダークドラゴン・・・まさか・・・)


「行ってみる価値はありそうだ、先にその村に向かう」


「了解いたしました」


その夜、4人は北にある竜人族の村へと向かった。

今回は若干短めです、まぁ前編だしね。サリア課外授業編はまた後ほど。

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