襲撃の後
初回からバトル物で飛ばしていきましたが、この辺からやっと学園物に軌道を修正したいです。
『sideゼロ』
サリアたちをリーラに預けて見送ると、風魔法スカイウィングを唱え空に舞い上がった。行き先は旧校舎だ。ゼロは後悔と自分の不甲斐無さ、そして怒りに燃えていた。妹は絶対安全なところで暮らしているからこそ自分は危険な仕事でも続けられた。それはサリアの身の安全が保障されているからこその安心感だ。しかし、この世に絶対安全な場所などないことにあらため思い知らされる。サリアを守るための守護聖石が発動したからだ。
守護聖石とは聖なる光の石で護りし物と言われ、光属性の魔力を圧縮し魔石に込めたものである。圧縮は大きくなった魔力を特性を失わずに縮小させることをいう。要は魔力を溜める(チャージする)ような感じだ。守護聖石は身に持つもののみを対象とさせる魔法効果があり、対象者に対し命の危険が生じた際、魔石に込められている光属性魔力を一気に解放するというものである。なお、石を作った者と対象者の絆が深い場合、石が力を解放した際に製作者に発動を知らせる効果があると言われている。
ゼロは万が一のためにと思い持たせたのだが、まさかこんなにも早く発動するとは思っていもなかった。
さて、今は色々と後悔している暇はない。妹に手にかけようとした魔人を狩らなければ。
旧校舎の真上に来たゼロは魔力の最も高いところを感知して、魔人とゲートの位置を確認する。ゲートは周囲の魔力を吸収し開き続けるものだが攻撃には非常に弱く打たれ弱い。そのため、力押しでやればなんとかなる代物だ。
ゼロは右手に剣を一振り換装した。『魔法剣シルヴァンス』ミスリル製で全属性の元素魔法の伝導率が最も高い剣だ。ゼロがシルヴァンスに魔力を込める、どの属性にも属さない無属性の魔力を。
剣は白く輝きゼロの3倍ほどの大きさに膨れ上がった。
そしてそれを思いっきりゲートに向かって振り下ろした。
ゲートは思いがけない上からの力を受け次元展開バランスを失い崩壊していった。カルネージが気づいたのは頭の上に膨大な魔力を感じたあたりだ。その後ゲートと建物と共に瓦礫に埋もれてしまった。
瓦礫からなんとか抜け出したカルネージだったが完全に抜け出るか否かのところで体に複数の痛みがきた。
「この私が切られているだと・・・・?」
振り向くとそこには黒髪の青年が白い剣を持って立っている。
カルネージはここで初めてゼロを見た。
「なるほど、あなたが・・・。この剣さばき、魔人ハンターですか?」
「いいや、ただの魔道士だ」
そう言うとゼロは手を振って剣を消す。
「魔道士?魔力の使い手とも呼ばれる我ら魔人族と魔法でやり合うと?」
「そういうことだ、<我、放つは光の槍!ライトニングランス!>」
ブン!右手をかざすと魔法陣が二つ重なり簡単な詠唱を行った瞬間ゼロの手から光の槍が出てカルネージに当る。
カルネージがとっさにガードするものの槍はそのままカルネージを外にへと押し出した。
『side終了』
学院での魔人出現事件は大きく取り上げられたが世間的にはあまり公表されなかった。学生がゲート魔法を使い魔人を呼び出したなんてことを外部に漏れたりしたら学院の恥であり、存亡の危機だからだ。
死者の数は6人(サークルの部員と教諭を含め)、怪我人の数は20人ほどだった。魔人が現れたのに被害人数が少ないのは奇跡といっていいだろう。もちろん、これにはちゃんとした理由があるのだが。
魔物の群れは最初あちこちに散らばっていたのだが、講堂に人が集まっていると気づき、ゲートからの増援も加わりグラウンドに集まっていた。集結した魔物の群れは一斉に講堂の人間を襲撃しようとしていたとき、何者かがその魔物の群れを全滅させてしまったのだ。これにより魔物の襲撃はなくなり、被害も最小限度に収まったと言える。さて、サリアとゼロだが、二人はサリアの部屋で寝ていた。サリアはともかくゼロがいるのはサリアが兄と一緒にいたいと強く願ったからだ。
日が昇り朝になった。本来なら学校が始まる時間でもあるがしばらくは休校らしい。ゼロはサリアを起こさないようにベッドから抜けると、ドアへと向かった。
昼前、サリアは目を覚ました。こんなに安心して眠れたのはいつ以来だろうか?ベッドには兄の姿はない。
「お兄様・・・?」
声をかけるが洗面所にもいないようだ。まさか、昨日のことはすべて夢だったのか?兄など実は来ていなかったのでは?急に不安を覚えるが、ここは冷静に考えることにした。もし、あれがすべて夢だったとしたら今日は学校がある。エルやマリ、レンが迎えに来るはずだ。しかし、その気配はまったくない。だとしたら、昨日のことは現実だろう。では、兄はどこに?
そう考えながら起きてベッドから立ち上がると、机の上に手紙があった。
『しばらく出かける、数日後にまた会おう ゼロ・レクマイヤー』
それだけだった。
数日後?ということは兄にまた会えるということだろうか?わずかな期待を胸に数日間待ってみることにした。
『それから一週間後』
今日は登校日だ。一週間の間特に何もなかった、数日後には帰ってくると言った兄も未だ会ってない。
あったとすれば、事件で亡くなった人たちの追悼式があったくらいだ。
いつもの時間に起き、いつものメンバーで、いつもの授業を受ける。そんな日が始まろうとしていた。
2限目を終え、中休みでエルとレンで談笑していた時、マリが慌てて教室に飛び込んできた。
「大変!ねぇ、聞いて!事件だよ!」
えー、今度は何だよー。そんな感じの空気が教室に流れる。
そんな空気の中サリアが代表して聞いてみた。
「何があったの?」
「2年に転入生が来たのよ!」
「「転入生?」」 「どういうこと?」 「なにそれ」
クラスの皆が不思議そうな反応をする。
それもそのはず、カルパニア魔法学院で転入生や転校生といったものはないからだ。そもそも、魔法を扱えるかどうかは生まれたときに登録され、その日のうちに学院に名前が載る。おかげで、急に能力が目覚めたから入学したいといったことはありえない。ましてや、このカルパニア国に魔法学校はこの学院しか存在しないため転校なんてこともありえない。
そのせいかマリはとても興奮して皆に伝えた。
「なんか複雑な家庭環境にあって学院に入れなかったんだけど、最近落ち着いたから入学したいとかなんとかそんな感じの事情があるらしいのよ」
「なんかとてもあやふやな理由ね・・・」
いまいち納得のいかない理由に一同ため息をつく。
「話は終わってないわよ!なんとその転入生、この前の事件で魔人討伐を手伝ったらしいのよ!!」
「え?」 「・・・どいうこと?」 「魔道士ギルドの人ってことか?」 「まさか」
あの場にいなかったクラスの連中はギルドの人間かな?みたいな反応だったが、なんとなくその人物に心当たりがある面々はまさか、な?という反応だった。
「そ、それでその方のお名前は?」
サリアが慌てたように聞く。
「うーん、そこまではわからないかなー。聞こえなかったし」
「・・・そうですか」
がっかりしたように肩を落とすサリア。
「あ、でも今2年の教室に行けば会えるんじゃない?さっき行くようなこと言ってたから・・・ってあれ?サリア~?」
その言葉を聞いたとたん教室を飛び出し2年の教室に向かう、サリア。
「サリアどうしたの?」
マリが不思議そうに聞いたが、エルとレンはお互いに目を合わせながら苦笑いしてごまかした。
2年の教室の前では人だかりができていた。珍しい転入生を見に来たのだろう。前列の女子たちからは「イケメンだよねー」とかいうキャーキャーした声が聞こえた。
人だかりを押しのけ教室に入ると、そこには学院の制服を着たゼロの姿があった。
「お兄様!」
人目を気にせずサリアはゼロに向かって抱きついた。
今回はちょっと短めです。まぁ、後日談みたいな感じですから。軽く流して次に移りたいと思います。