召喚と悲劇の幕開け
最強の主人公登場回。
旧校舎のとある教室で怪しげな光が漏れていた。床にはサリアが寝かせられており、その周りには黒フードをかぶり黒いローブを纏った集団が手を掲げて呪文を唱えていており、床には大きな魔方陣が書かれている。
「我、力を欲するものなり、かの者汝の贄とし捧げ、混沌たる世界より我が儀式に降りて契約に応じよ!」
魔力がサリアから吸い取られる。魔力は渦を起こしながら魔法陣に入り込んでいく。バチバチと火花を散りながら魔法陣を中心に空間が歪んでいく。
「こ、これは・・・」
「成功です!やりましたね、部長!」
「ああ、これで遂に我らの願いが・・・!」
喜ぶ部員達だがリジーは驚きで固まっていた。なぜなら、彼女が知っている召喚式とまったく異なるからだ。
「ちょ、ちょっとあなたたち!一体どんな魔法式を組んだの?こんな召喚見たことないわ!」
「え?」
「魔法式は部長が書いたんですよ」
すると部長が懐から黒い本を取り出して自慢そうに語る。
「これに載っていた魔法式だよ、これは我がサークル秘密の蔵書でね。優秀なる先輩が開発した召喚式なんだよ」
「見せなさい!」
リジーは部長の持ってる本を奪い本を開いて魔法式を確認する。
「おいおい、大切に扱ってくれないか?」
リジーが一生懸命魔法式を解読している間、背後では空間が開いていき黒い次元が出てくる。膨大な魔力が次元からでて何かが次元から出てきた。
それに気づかずサークルメンバーとリジーは言い争っている。
「いい?これは召喚魔法式なんかじゃないわ!」
「何を馬鹿な!」
「ど、どういうことだよ」
「これはね!「ゲート魔法だよ」・・・え?」
何かの声がリジーの声を遮って答える。一同がゆっくりと後ろを振り向くとそこには長髪の男が立っていた。身長は180センチぐらいで、金髪の長髪に、黒いマントに黒いスーツを着ている。
「あ、あなたは一体どこから・・・?」
「おやおや、もちろんあのゲートをくぐってに決まっているじゃないか」
男の強大な魔力に圧倒される。
(なにこの男の魔力は?まるで・・・)
「ああ、自己紹介がまだだったね。私の名前はカルネージ、一応魔人をやっている。よろしくな」
「「ま、魔人!?」」
部屋の中にいた人間全員が氷のように固まった。『魔人』それは魔界でもっとも戦闘能力が高いといわれている種族の一つである。魔法と力が強くおまけに人間以上の知性を持ち、寿命で死ぬことはあまりない。魔物の上位種族である。
魔人には強さのランクがあり、魔力が強大なほど上のランクのほうに位置する。
強さのランクは爵位によって示される。これは魔人に対しての畏敬を込められているからといわれている。
※魔人の強さランク:騎士<男爵<子爵<伯爵<侯爵<公爵<王族級
「は、早く逃げるわよ!」
リジーが叫ぶが・・・
サークルメンバーは恐怖で体が思うように動けないようだ。
「おとなしく逃がすとお思いですか?」
カルネージが両手を広げて笑いながら言う。
「く、<視界を遮るは水の粒、濃霧!>」
リジーが呪文を唱えて右手をカルネージに向けると右手から青い魔法陣が展開した。展開した魔法陣は一瞬で消え教室内は霧が立ち込める。
「面白い、水の下級魔法を使うとは。ここは魔法学院でしょうか?」
カルネージが濃霧の中で問いかける。
「しかし、この程度の魔法。たいしたことはありませんね」
パチン!
指を鳴らすと霧は一瞬にして晴れ元の教室に戻る。
「ど、どうすれば・・・」
カルネージが向かってくる。
(サリアだけでも守らないと!)
そう思ったリジーは咄嗟にサリアの前に立ちはだかり魔法を詠唱しようと構えたが青白い光がサリアからあふれ出した。青い石のペンダントが唐突に光り出したのだ。
「くっこいつはまさか守護聖石か!」
カルネージは光を浴びないように身構えたその時、青い石は砕け散り光が教室中に広がった。
「なんという強力な聖石だ!」
(今のうちにサリアを!)
カルネージがひるんでいるうちに床で気を失っているサリアを抱えると教室を抜け出した。
「逃げられたか、しかし・・・あのような聖石が存在するとはな。これは回復に時間がかかるな」
体中のあちこちから黒い煙をがっくりと膝をつく。
ゲートに向かって手振りをするとゲートから無数の魔物が飛び出してきた。
「私が回復するまであなたたち暴れてきなさい、そこの人間は食べてもかまいません」
逃げる機会を失ったサークルメンバーは身が凍りついたが恐怖で動けないまま魔物に食われていく。
「ぎゃああああああああああああ」
だいたい食べ終わると魔物たちは教室を飛び出しあらゆる方面に広がっていく。
そのころリジーはサリアを抱え教職棟に向かっていた。なぜ毛嫌いして召喚儀式にすら巻き込んだサリアを連れてきたのか?それにはちゃんと理由があった。サリアのことは嫌いだ、しかし泣かせたり困らせたりはしても命までも奪おうとは思わなかったのだ。教職棟に行けばなんとかなるかもしれない。
そう思い、向かっていたのだが・・・
「おい!サリアを離せ!」
いきなり声をかけられ立ち止まる。そこにはエルと風紀委員のレン、魔法理論学教師のゲルン、魔法薬教師兼女子寮担当のカルアがそこにいた。
「お前、サリアをどこに連れて行こうとしているんだ?」
「これは・・・、先生!大変なことが起きてしまって!」
「おい!私の質問に答えろよ!」
エルが歩み寄ろうとするとレンが止めた。
「待て、エル!様子がおかしい、一度寮に戻って事情を聞いたほうがいい」
「その意見に賛成ね~、何かに怯えているようだし」
カルアが賛同する。
「どちらにせよ厳罰は免れんぞ?リジー・・・?」
嬉しそうに笑うゲルン。
「罰は事情を聞いてからですよ?ゲルン先生、それに私の寮生でもあります。罰は私が言い渡します」
「くっ、いいだろう」
「それでは一度寮に戻って事情を・・・「そんな暇ありません!」」
カルアが寮に移動しようとするとリジーが遮った。
「魔人が、魔人が現れたんです!早く避難を!」
「「魔人?」」
「ふん、そんな嘘誰が信じるか」
「嘘じゃありません!私みたんですから!」
いまいち魔人の召喚に反応が鈍かった。
「う、うん・・・ここは一体・・?」
サリアが周囲の騒がしさに目を覚ました。
「サリア!具合は?大丈夫か?」
エルがサリアに近づき抱き起こす。
「ええ、具合は大丈夫よ、どこも異常はないわ。ところでなんでこんなところにみんないるの?」
サリアが無事でほっと一安心し事情を話そうとカルアが口を開こうとしたときサリアが声を上げた。
「ない!どこにいったの!?」
無意識のうちにペンダントを触ろうとしてないことに気づいたのだ。
「それは壊れたの・・・。」
リジーが残念そうに言う。
「壊れた?なんで!」
サリアがリジーに掴みかかる。
「落ち着いて!その石のおかげで私とあなたは助かったのだから!」
「え?」
「とりあえず一通り事の顛末を話してもらえるかしら?」
「はい、わかりました」
リジーはみんなに話した。サークルのこと、召喚のこと、サリアに嫌がらせを考えたこと、魔人のこと。すべて正直に話した。
「ゲート魔法だと・・・」
「真実味が非常にあります、これは信用してもいいかもしれません。」
「とりあえず旧校舎に確認をして―」
ピーピー!
結晶通信の音が唐突に鳴る。
レンの緊急用結晶通信機の音だ。レンは慌ててカード型の通信機を取り出し耳に当てる。
「はい、レンですが・・・。ええっ!はい、はい、了解しました」
通信を終えると難しい顔でレンが振り向く。
「先生、学院内に魔物が多数出現したとの報告が!現在死傷者多数、至急講堂に避難されたしのことです!」
「魔物だと!馬鹿な・・・」
「結界があるはずなのにどうして・・・」
「もう死者まで・・・」
「みなさん、ここにいるのは得策ではありません!急いで講堂に行きましょう!」
素早く状況を理解したのはサリアだった。深刻な状況にみんなが落ち込む中一人声を上げる。
「あ、ああ、そうだな」
「行こう!」
「私が先行しよう」
ゲルンが先頭に立つと移動を始めた。
「グランドを横切れば近いはずだ」
そう言ったのはゲルンだったが、今思えばあの時止めておけばよかったと後悔しているのはゲルン以外のみんなが思っていた。なぜなら―――
「なぜこんなことに?」
「わかりません、誰かさんが横切ったほうが早いと言ったからですよ」
となりで必死に戦っているゲルンに冷たい目を向けるレン。
「ええい、だまれ!まさか魔物の群れがいるとは思わなかったんだ!暗かったし!」
「みなさん、しゃべる前に手を動かして詠唱してくれませんか?」
無詠唱で火球を放つサリアが言う。
そうグランドを横切ると近道になるというのは正解ではあった。講堂はグランドをはさんで向こう側にあったし校舎を周っていくと逆に遠回りになるからだ。
暗闇だったためグランドで蠢く魔物の群れに6人とも気づかなかった。
結果的に6人は魔物に囲まれる形となってしまった。
「グギャアアアアア!」
「な、なんだこいつは・・・!」
「ゲルン先生!」
突如横から襲い掛かった魔物にゲルンが噛み千切られる。
「この魔物は・・・ヘルハウンド!S級の魔物がなんでこんなところに・・・」
ヘルハウンド、それは巨大な狼のようなモンスターだ。黒く赤い目が特徴の魔物。一見狼とそう大差なさそうな外見だが闇魔法を全身に纏っており獣族にもかかわらず闇魔法が使える。巨大な身体のわりに素早い。
「ガオオオオオオオン!」
ヘルハウンドが空に向かって遠吠えをすると、5人を囲むように巨大な狼が現れた。
「ヘルハウンドが8匹・・・!?うそでしょ・・・」
「カルア先生!しっかりしてください!」
ゲルンが死んだことで心が折れてしまったカルアは地面にへたり込んでしまっている。
「<我らを光の壁で守護せよ、シールド!>」
レンが光属性の守護魔法を発動して5人の周囲に光の壁を作る。ヘルハウンドは闇属性のため光属性に弱い。そのため、光属性のシールドは迂闊に近づけない。
「グルルルルルルル」
周囲をヘルハウンドがうろついてシールド魔法の効果が切れるのを待つ。
「どれくらいもちます?」
「そんなに長くはもたない、あとせいぜい1、2分・・・」
「くそ!救援を待つにも時間が足りないじゃないか!」
「各々の得意属性の防御魔法を張って時間を稼ぎましょう!その間レンは魔法陣を描いて光属性の持続防御魔法をお願いします!エルはレンから結晶通信を借りて救援を呼んで!」
「わ、わかった」
「わかりました!」
「少しでも効果が高くなるように詠唱は長めに!そうですね、サリア?」
「ええ!」
4人はサリアの作戦を理解しやる気をだす。
「もうじき切れるぞ!」
「私にまかせなさい!」
リジーが前に出る。
シールドが切れると気づいたヘルハウンドがリジーの魔法が発動する前に一匹サリアに向かって飛び掛った。
「危ない!」
サリアが気づいたときには目の前にヘルハウンドの大きな口が視界に飛び込んできていた。
魔法は間に合わない。
(お兄様!)
目をつぶって死を覚悟する。
「グギャッ」
その瞬間ヘルハウンドの悲鳴が聞こえて静かになる。
「え?」
恐る恐る目を開けると目の前にはヘルハウンドの死体が目に入った。ヘルハウンドの頭には光の剣が刺さっている。
「一体何が起こって・・・?」
「ギャッ」「ギャン」
次々と周りのヘルハウンドが空から降ってくる光の剣にやられていく。
ヘルハウンドが光の剣で全滅すると周囲を囲うように落ちていた光の剣が光り出して、5人の周囲を囲った。
「レンが・・・?」
「い、いや違う!これは私じゃない・・・」
「じゃあいったい誰が?」
「おい、見ろよ!空から何か降りてくる!」
見上げると光に包まれた何かかがサリア達の目の前に降りてきた。黒髪に整った顔立ち、それは夢にもでてきたある人物、背はあの頃より高い。そして、サリアがもっとも会いたかった人。
「久しぶりだな、サリア。無事で何よりだ」
サリアの兄、ゼロ・レクマイヤーが降り立った。
やっと出せた主人公。この作品は一区切りずつ書くよりも一気にドバーっていくので更新は遅めですがよろしくお願いします。