策略
※ウィンドウルフサークル※
「くそっ!また失敗か!」
黒装束に身をまとっている男たちが暗闇の教室の中にいる。その中の一人が声を荒げたのだ。
「部長、やっぱり生贄なしじゃないと契約には応じてくれませんよ~」
「でもいい生贄がな~・・・」
「ううむ、魔力がなるべく高い人間がいいのだが」
ちらりと部員たちを見る部長。
「ぼ、僕たちはその魔力低いからこうして召喚をですね・・・!」
「そうだ!そうだ!」
「この際部長が生贄役になってくださいよー」
その目線に対し反論する部員。
「俺だって低いんだよ!そうだ、部員以外から生贄を選ぶってのはどうだ?」
「えーそれって危険ですよ、我々の問題なんだから、我々で解決しないとー」
「あら、そういうのにぴったりの子がいましてよ?」
急に入り口から声がかかる。
そこには一人の女生徒が立っていた。
「誰だ!ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!」
「固いこといわないの。みんなから憎まれていて魔力が高い子を知っているんだけど、どう?」
「憎まれている?どういうことだ」
「そのままの意味よ~、入学したての一年で、魔力が一段と高く、おまけに嫌われ者。みんなからの嫌われ者なんだから何かあったとしても問題はないでしょう?」
「ううむ、確かに。問題はなさそうだが・・・。」
「部長!」
「じゃあ準備のほうをよろしくね~、私はあの子を誘い出すからさ」
「わかった、場所は旧校舎の3階の教室で。時間は今夜23時だ」
「了解~」
女生徒が出て行くと部員たちは抗議を唱えた。
「部長!いいんですか!」
「怪しすぎますよ、あの女!」
「お前たちの意見もわかるが俺たちの時間もないこともわかっているだろう?もうじき魔法審査も近い。そこで結果が出なければ・・・」
この言葉に部員全員が黙った。定期試験に近い形の魔法審査は3ヶ月に一度行われる行事の一つだ。魔力の高さの測定や魔力の制御を審査するものだがカルパニア学院の場合魔力の高さが評価されるといわれている。そのため、クラス分けも魔力の高い順に分かれる。上からS、A、B、C、Dと4つに分かれるのだがもっとも魔力が低い者は上の4つには入れずGクラスに入れられる。通称落ちこぼれクラスだ。
Gクラスの出身で卒業しました、ということは卒業後何の魔法職もつけないに等しい。
だが、魔力とは己の鍛錬次第で上げる事が可能なためGクラス残留する者はあまりいない。
むしろ日頃鍛錬を怠ってGクラスに落ちることを恐れ狡賢い手段に出る生徒が多い。
「契約召喚をして我らの魔力を上げてもらえば将来も安定だ!そうだろ?それに生贄といっても命までも取るまでの契約をしなければいい」
「ですが・・・」
「とにかく決行は今夜だ!参加は自由だ!いいな!?」
※謎の女生徒※
「ふふ、これであのサリアも終わりね」
自然に笑いがでてしまう。
リジー・バルスタークは名家のなかの貴族、魔力も一族のなかで十本の指に入るほど高く、将来有望されていた。入学するまでは。入学後、平民出のサリアに魔力、魔法技術、制御すべての面に追い抜かれ一族から冷たい目で見られる。もし、サリアがいなければ・・・。そんなふうに考えていたときウィンドウルフサークルの噂を聞いたのだ。「生贄を探している」と。なんという機会だ。これを逃すはずがない。そう思うとすぐに実行に移した。あとは、どうやってサリアを誘い出すかだが。それについてもすでに手を打ってある。今朝寮で偶然耳にしたあの話。
「サリアは’お兄様’がお好きとね・・・。うまくいけばいいけどいざとなったら」
※サリア※
放課後寮の部屋の扉の下にある手紙があるのを見つけたサリアは不審に思いながらも部屋の中で眺めている。手紙には阻害魔法がかけられており簡単には読めないようになっている。先程読もうか読まないか迷っている原因がこれだった。ラブレターならわかるかもしれないがここまで厳重にする必要もないし、重要な内容だとわかっていても自分には見当がつかないのである。かれこれ30分ほど悩んでから魔法を解く作業にとりかかる。この程度の魔法ならすぐ解けると思うのだが・・・。
『あなたのお兄様の情報を教えます、今夜23時に旧校舎3階で』
「怪しいですね・・・」
本当にお兄様のことを知っているのなら名前くらい出しても大丈夫なはずだ。もし、普段の彼女ならそういって冷静に考え判断を下したはずだが、今日のサリアは普通ではなかった。
昨日の夜に見た悪夢と今朝の悶々とした感情が一気に押し寄せまともな思考ができなかった。
彼女は迷わず落ち合う場所へと急いだ。
(お兄様の情報!あの悪夢は予知だったの?もしかしたら会えるかもしれない、お兄様!お兄様!)
23時ちょうどにサリアは教室に入った。
「・・・?」
教室内は真っ暗なのに何か違和感が感じる、魔力をさきほどから感じるのだ。教室の真ん中辺りに来たとき、背後からの衝撃で気を失った。