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暴行をでっち上げられた時の対処法

掲載日:2026/05/21

「ダレイユ!お前との婚約を破棄する!ダバリーナに暴行を加えやがって!絶対に許さないからな!」


 王立学園創立記念パーティが開催されている大広間で、私の婚約者であるホームラー王子はそう宣言した。人間一人分も離れていないのだから、そんなに大きな声を出さなくても良いのに。耳が痛い。

 私は、横の机にあるアヒージョの大皿に伸ばしかけた手を引っ込める。油たっぷりでとても美味しそうなのに……。だが、さすがに無視して食べるわけにもいかないので、アヒージョからの熱烈な誘惑を振り切り、何とか正面に視線を戻す。

 王子の左腕には、メソメソと顔を彼の腕に埋めているダバリーナ男爵令嬢がいた。反対の右手の平では、火球を出しては消し、出しては消し、が繰り返されている。王子が他人を威嚇するときによくやる癖だ。なんでも王子曰く、『俺の火魔法は世界一すごい』らしい。彼の世界はとても小さいのだ。 


「……私がダバリーナさんに暴行?身に覚えが全くありませんが」

「しらばっくれるのも大概にしろ!彼女の服の下にはたくさんのアザが出来ていたのだ!逃げ場など無いぞ!」


 ホームラー王子はそう言って、右腕をビシッと伸ばし、人差し指もピンと伸ばし、私の事を指し示す。この断罪劇に興奮しているのだろうか。彼の頬はやや赤く染まり、呼吸が荒くなっている。その影響で王子の体が少し揺れ、チラリと彼の左腕に隠れたダバリーナさんの顔が見える。彼女は、笑みを浮かべていた。


「逃げも隠れもいたしません。本当に私はやっておりませんので」

「だったらやっていないという証拠を出せ!証拠もないのに、そんな主張通ると思うか!?」

「証拠ですか……ですが証拠を出そうとすれば、ホームラー様にご迷惑をお掛けすると思いますので」

「――俺に迷惑だと?何を言い出すのかと思ったら、証拠が出せないのを俺のせいにするつもりだな!?良いだろう。迷惑をかけてもらって一向に構わん。さっさと証拠を見せろ!」

「では」


 王子からの許可は得た。私は、横の机においてあるアヒージョがのった大皿を、おもむろに両手で持ち上げる。

 ごめんなさい、アヒージョさん。これからすること、許してください。

 心の中でそう唱えた後、王子達のいる方向に向かって、勢いよく大皿を動かす。その反動で、大皿の上に載っていたアヒージョは、彼らを包み込む油と共に空へと飛び立ち、王子の体に着地する。顔に、体に、腕に、彼の左腕にいるダバリーナさんに。アヒージョは散弾魔法がごとく、綺麗にまばらに散っていった。


「き、貴様!何をする!――この俺をあまり舐めるんじゃ無いぞ!お前なんて火球で消し炭にしてやっても良いのだからな!」


 ホームラー王子はそう言って、アヒージョの油まみれの顔を右手で拭うと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 瞬間、油を伝って服に広がる炎。炎はアヒージョを食らいつくすように、燃えやすい服の上を伝搬していく。もちろん、左腕にしがみついていたダバリーナさんも例外ではない。二人の一張羅は、呪いの炎の装備へと姿を変えていた。


「アッチィ!」「キャァー!?」


 上がる悲鳴。彼らのものか、周りで見ていた群集のものかは、もはや区別がつかない。会場はパニックに陥っていた。


「すぐに服を脱いで!まだ火は表面にしか広がっていないわ!」


 私の珍しい大きな声。彼らの耳に届いたようだ。

 時折アチッ!と声を出しながらも、服を脱ぎ、破きして、二人はなんとか炎の檻から脱出する。彼らの肌に大きな火傷は無く、各々下着が燃えていなかったのは、不幸中の幸いと言えるだろう。


「ダ、ダレイユ!お前のせいだぞ!」


 王子は、パンツ一丁の姿で私を責め立てる。タバリーナさんは、なるべく肌の露出を避けようと、正座した状態で地面に頭をこすりつけ、コンパクトに丸まっている。まあ綺麗なスベスベの背中が丸見えだが、そこは目を瞑っておこう。


「暴行していない証拠を出すと言っておきながら、この始末。お前、どうなるか分かっているんだろうな!」

「それはどういうことでしょうか?私は証拠を提示いたしましたよ?」


 そう言って、私は床で丸まっているタバリーナさんの方に目をやる。スベスベな背中がとても眩しい。


「確か『彼女の服の下にはたくさんのアザがある』のでしたっけ?――私の目には綺麗に手入れされた肌しか見えないのですけれど?」


 その時の王子の顔。憤りと焦りと驚きと、まるでお面のように次々と切り替わる表情は、もはや一種の芸の域だった。あそこまで滑稽な芸を、私は今まで見たことが無かった。

 以降、王子が言葉を発することもなかった。


******


 その後、王家から正式な謝罪と謝礼をいただいく事となった。事前に迷惑をかける了承を得ていたし、火をつけたのは王子だし、不当な言いがかりが明らかになったしで、特にお咎めを言い渡されることは無かった。

 これは小耳に挟んだ話だが、あの一件以来、ホームラー王子は火魔法がうまく使えなくなったらしい。残念ながら世界一は別の人に譲った方が良さそうだ。


 私はゆっくりとアヒージョをつまむ。シェフにお願いして、夜食用にわざわざ作ってもらったのだ。

 油まみれのその味は、美しい背徳感が合わさって、特別な味がした。

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― 新着の感想 ―
一般的な食用油は確か火が着かないと思うんだけど、灯油でアヒージョ食ってたんかな…
油まみれのとこに火をつけられて服を脱いだから無傷で済むのはいくら何でも無理有りまくりでは あとこの殺人未遂に対して冤罪かけられたのだから無罪放免てのもどんな修羅の国なのかと
服の下のアザって、医者でもないオウジサマがなんで確認できたの?と疑問が湧いてきますが
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