第11話 ノイズ・ゼロの少女
お読みいただきありがとうございます! 学園都市セレステの中央広場。瓦礫の雨の中で、ロアは一人の少女と出会います。 彼女は「世界の不具合」なのか、それとも……。
学園都市セレステの中央広場。白亜の瓦礫が降り注ぐ中、ロアはただ一人、その少女を凝視していた。
逃げ惑う群衆の悲鳴。地面を叩く巨大な破壊音。すべてが「濁った情報の波」となってロアの脳内に流れ込む。だが、その狂騒の中心にいて、その少女だけが、あまりに非現実的なほど「静か」だった。
ロアは、反射的にゴーグルを押し下げた。 レンズ越しに見える周囲のすべては、不吉な赤色に染まり、醜く明滅している。瓦礫の一片、崩落する壁面、人々の叫び声。そのすべてが歪みを含み、この世界の記述が限界を迎えていることを物語っていた。
だが、少女――ノエルだけは、違った。 彼女の指先、流れる銀髪のひと筋、そして虚空を見つめる水晶のような瞳の奥に至るまで、一点の曇りもない。
――わあ。
ロアは息を呑んだ。この世界を縛る『不透明な法則』から、彼女だけが完全に自由であるかのように見えた。 彼女は、汚れたキャンバスの上に描かれた、唯一の、そしてあまりに鮮烈な「真実の色彩」だった。
「あぶないっ!」
ロアの身体が、思考より先に動いた。 少女の頭上。崩壊した時計塔の頂点、巨大な鉄製の短針が、真っ逆さまに落下してきた。 ロアは右手のハンマーピッケルを逆手に持ち、落下する鉄塊に向かって、全力で大地を蹴った。
トントン。
ロアが叩いたのは鉄という物体ではない。そこに付着した『破壊』と『落下』という、過剰なまでの不自然な情報の重みそのものだった。
鉄塊は、ロアのハンマーピッケルが触れた瞬間、白銀の雪のような粒となって霧散した。 瓦礫という名の「壊れた世界の一部」が、ロアの手によって純粋な光へと還元され、ただの輝きとなって少女の周囲を舞った。
少女――ノエルは、ゆっくりと瞬きをした。 彼女はこれまで、自分がこの不完全な世界において「異物」であることを自覚していた。自分だけが余計なノイズを持たないがゆえに、世界から浮き上がり、誰とも真の意味で触れ合うことのできない孤独の中に生きてきた。
だが今、風に舞う光の破片の中で、目の前の少年の瞳は、驚くほど澄んでいた。
「わあ、きみ、すごく、綺麗だね!」
ロアの無邪気な言葉が、止まっていた彼女の時間を、再び動かした。 (ずっと、この汚いノイズに耳を塞いで生きてきた。でも、この子の叩く音だけは……。まるで、降り積もった埃を払うような、心地よい響きで……)
「……私を、消さないの? 私は、この世界の『間違い』。……あなたのお掃除の対象じゃないの?」
「消さないよ? 僕は、汚いものをお掃除するだけだもん。きみみたいに綺麗なの、もっとちゃんと、見えるようにしてあげたい。……ねえ、きみの居場所、僕が一緒に探してあげようか!」
ロアの言葉は、冷たく凍りついていた彼女の心に、初めての「温かい波紋」を広げた。 (……居場所。……私を汚いと言わなかった、唯一のひと……)
(第11話終わり)
読んでくださりありがとうございます! ノエルとロアの出会い。 「汚れ」を探す少年が、初めて見つけた「お掃除しなくていい綺麗なもの」。 これが二人の、そして世界の運命を大きく変えていくことになります。
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