13.花吹と葉山
目が覚めると見慣れた天井があった。朝陽と一緒にUFOキャッチャーで取った人形が置いてある。自室だった。
体を起こすと頭を殴られたせいか、頭痛がする。
窓の外は真っ暗だった。時計を見ると深夜1時を指している。
ベッドから出て、階段を降りて行くとリビングから明かりが漏れていた。そっと中を覗くと父さんが何か悩んでいるようだった。
「父さん?」
ばっ、と顔を上げた父さんは駆け寄って来てオレを抱きしめた。
「良かった。心配したんだぞ」
「オレ、どうやって帰って来たの」
「お前、葉山の息子と付き合ってたのか」
父さんはオレの肩を強く握る。痛かった。
きっと、怒られるのだろう。
知らなかったとはいえ、オレは好きになってはいけない人を好きになっていたのだから。
そして、今も好きだ。
「ごめん。オレ、知らなかった」
「誕生日の日も葉山といたのか?」
オレは頷いた。
父さんはオレを抱きしめた。
「辛かったな。好きな相手がまさか戦う相手なんて…父さん、暖が可哀想で…」
父さんは泣いていた。オレもつられて鼻の奥が痛くなって、涙が零れた。
「朝陽君もいい子じゃないか。父さん、好きになったよ」
「…え?」
涙が引っ込んだ。父さんは冷蔵庫からカレーを出して電子レンジで温め始めた。
いい香りがオレの空腹を呼び起こした。
「今日、このカレーも朝陽君と母さんが一緒に作ってたんだよ」
「どういう状況?」
カレーとスプーンを貰い、オレは食べ始める。美味しかった。
「正々堂々、戦うって言ってたなぁ」
「戦わない選択肢はないの?」
「ないね。今の葉山には」
父さんはばっさりと言い切った。オレも覚悟を決めた方がいいのかもしれない。
「父さんさ、葉山には怒っているんだ。可愛い息子を数で倒そうとして傷つけただろ?朝陽君もかわいそうだ。早く終わらせるべきだと思うんだよね」
父さんはテーブルに指先でくるくる円を描く。何か考えているのだろう。
「提案なんだけどさ……聞いてくれる?」
にやり、と父さんが笑った。
その日は曇っていた。
初めて訪れた葉山の家はでかかった。
オレは白い砂利の上に叩き落とされた。
朝陽が間髪入れずに拳を振り上げる。
オレはそれを避けた。
「まじじゃん」
「今日で絶対、終わらせる」
朝陽の顔は真剣そのものだった。
ーーー遡ること、数時間前。
オレは父さんと大きな屋敷の前にいた。
父さんが電話をかけていた。
「着いたから早く開けろよー」
門が開いていく。中に入ると白い砂利に囲まれた日本家屋の豪邸がそこにあった。
「葉山、久しぶりだな」
「花吹も相変わらずで」
朝陽に面影が似ている人が父さんと握手をしていた。
「あのうるさいじじいは元気かな?僕の可愛い息子に傷をつけて困るんだよ」
「それはそれは」
2人の間には小さな火花が通う。
朝陽の父がオレを見た。もう少し大人びた顔になったらこの人のようになるのかな、と呑気なことをオレは考えていた。
「君が暖君だね。まさか乗り込んでくると思わなかったよ」
そう、父さんは提案と言って、葉山に乗り込もうと言った。
カレーを食べていたオレは危うく吹き出しそうになった。
「早くこんな戦い終わらせちゃおう。その方がいい」
父さんはオレの頭に手を置いた。
わかった、とは言ったがまさか今日行くとは思わなかった。大学が夏休みに入った翌日で良かった。
「朝陽も待たせているよ」
そう行って連れて行かれた場所は庭だった。
朝陽が本当にいた。オレたちは互いを見つめる。別の視線を感じれば屋敷の中から1人の老人がすごい形相でオレ達を見ていた。
「暖、あのじじいは気にしなくていいよ」
父さんは何だか楽しそうだった。
「父さん、お願いがあるんだけど」
オレは父さんから戦い方を教えて貰っていたからこそ分かる。いつも頼りなさそうなのに、本当は強いことを。
「オレがさ危なくなっても、絶対に助けるなよ」
「え、それは」
「絶対に助けないで欲しい」
オレは朝陽の元へ足を進めた。
あれから、どのくらい経ったのだろうか。
オレは息が上がっていた。それは朝陽も同じ様子だった。
雲が晴れ、太陽が出てきた。暑い日差しがオレたちに降り注ぐ。汗が顎を伝って落ちていく。
「もう、体力きついだろ?降参しろよ、朝陽」
「いや、お前が降参しろよ」
オレたちはこの時間を楽しんでいた。
しかし、それは怒声で変わる。
「朝陽、早く殺れ!」
投げ込まれたのは小刀だった。
オレたちの間に入って来たものを見て、オレは生唾を飲み込んだ。
父さんが今にも小刀を投げ込んできた老人に襲いかかりそうだった。
それを葉山の父が抑えていた。
朝陽が小刀を拾う。
「降参しろ」
「いやだ、って言ったら?」
朝陽の蹴りがオレの腹部に入る。
オレはそのまま熱くなった砂利の上を滑って行く。
小刀がオレの首元に当てられた。
「降参、しろ」
朝陽の顔は懇願しているようだった。オレは譲れなかった。わざと小刀に肌を食い込ませる。何かが流れるような感覚が首を伝う。
老人が殺せ!と屋敷の中で騒いでいる。
「なんで、降参しないんだよ」
「降参して、朝陽は幸せになるのか?」
オレは小刀を持っている朝陽の手触れる。
「殺せ!朝陽!」
老人の怒声がうるさい。
「殺せって言われてるけど」
「無理だ」
「じゃぁ、朝陽、降参しろよ」
「無理だ」
オレは小刀を奪った。朝陽が体勢を整える。
「朝陽はさ、何を願うの?」
「教えない」
「……降参しろよ。オレは決まってんだよ。神様に会ってクソ野郎って言うんだ」
朝陽は笑っていた。
「降参しろ、朝陽。オレを認めろ」
「無理だ」
「…なら、こうするよ。オレは」
刀を自分に向けた。ギラリ、と刃が光る。
「やめろ」
朝陽の声は震えていた。
「……やめてくれ」
オレは自分の腹部に向ける。
とはいってもフリ、だ。もしかしたらミスって擦り傷ぐらいは作ってしまうかもしれない。
これは朝陽のためだ。
朝陽が自分の足で前に進めるように、と願いを込める。
きっと朝陽にとっては一瞬に見えるかもしれないがオレにはゆっくりに見える。
小刀の先端が服を掠める。
老人が喜ぶ声が聞こえる。なんてひどいじじいだ。
「やめろーーー!」
朝陽の声にオレの口端が上がる。




