第八話:防衛費の壁と強欲の再点火
大森林から帰還したリネットは、領主館の地下に引きこもり、凄まじい勢いで設計図を書き上げていた。
「レオン……。領地全域を覆う『恒久型多重魔法結界』と、領主館を浮遊させる『対消滅飛行機関』の設計、終わった。これで、貴方の安眠は銀河系レベルで保障される……」
「……待て待て待て! なんだその物騒な計画は!?」
レオンはリネットが差し出した見積書を見て、目玉が飛び出しそうになった。 そこに記された予算は、グラウス家の全資産を三回使い果たしても足りない、天文学的な数字だった。
「リネット、お前……これ、いくらかかると思ってるんだ?」
「素材だけで……隣国が三つ買えるくらい? 予算、ないの……?」
リネットが小首をかしげる。彼女にとって、理論は実現されるためにあるもので、資金繰りという概念は存在しない。
「あるわけないだろ! 山賊から奪った金も、前領主の隠し資産も、装備を整えたり税を下げたりしたせいで、もう底が見え始めてるんだ!」
レオンは頭を抱えた。
今のままでは、リネットの「絶対安全な防衛網」どころか、自分の「贅沢なニート生活」の維持すら危うい。
「……金だ。圧倒的に金が足りない。このままじゃ、俺の安眠どころか、リネットの飯すらランクダウンさせなきゃならなくなるぞ!」
「……それは、困る。お肉、もっと食べたい……」
レオンの心に、前世のゲーマー時代の「効率重視の稼ぎ(金策)」の魂が再燃した。
「よし、ハンス! フェリス! 全軍を広場に集めろ!」
数分後。 急遽集められた領主軍の前に、レオンは漆黒の鎧を鳴らしながら立った。
「お前ら、よく聞け! 我が領は今、未曾有の危機に瀕している! 具体的に言うと、俺が贅沢をして、お前らが安全に暮らすための『金』が、全く足りない!」
兵士たちの間に、動揺が走る。
「だが、安心しろ。俺には考えがある。勇者ルートの知識……もとい、俺の『予感』によれば、隣国の悪徳成金共が、不正な取引で溜め込んだ黒い金が、今この瞬間も国境付近の砦に積み上げられているはずだ!」
レオンは剣を抜き、空を指した。
「あれは汚い金だ。つまり、俺たちが『浄化(接収)』して、正しい場所(俺の財布)に戻してやる必要がある! ついでに道中の魔物も全部素材に変えて売っぱらうぞ! 一枚の金貨、一枚の鱗も残すな! 剥ぎ取り開始だぁぁ!!」
「「「「うぉぉぉぉ! 浄化(略奪)だぁぁぁ!!」」」」
兵士たちの怒号が響き渡る。 それを聞いていたフェリスは、またしても涙を流していた。
「……ああ、なんということでしょう。閣下は、ご自身の資産が尽きてもなお、領地の防衛(結界)を諦めないために、自ら泥棒猫……いえ、悪徳貴族を裁く汚れ役を引き受けようとなさっている……!」
「若様、さすがでございますな」
セバスが深く頷き、手帳を更新する。
「自らの欲望という名の『正義の旗』を掲げ、兵たちに富を分け与えつつ、領地の盤石な未来を築く。これぞ真の覇道。……ハンス、準備はいいですね?」
「おうよ! 坊ちゃんのために、隣国の金庫を空っぽにしてやりやすぜ!」
こうして、レオンは「最新の防衛設備」と「最高のニート生活」を維持するための資金を求めて、さらなる略奪……もとい、正義の資産接収へと乗り出すことになった。
その標的は、勇者ルートでは後に勇者のパトロンとなるはずだった、隣国の強欲貴族である。




