第七話:飢えたる英知の略奪
ハンスとフェリスを外縁部の素材回収に残し、レオンはセバスを連れて大森林の最深部、通称『呪われた魔導域』へと足を踏み入れた。
勇者ルートの知識によれば、この奥には後に魔王軍の最終兵器を作り出す天才魔導師、リネットが隠れ住んでいる。彼女はあまりに高度な魔導理論を追求しすぎたため、王立アカデミーを「人道に反する」と追放され、この森で餓死寸前の引きこもり生活を送っているはずだ。
(彼女の技術はヤバい。自動で敵を殲滅する防衛機構や、地形を変えるほどの広域魔法。そんな兵器、魔王軍に渡したら俺の安眠が脅かされる。今のうちに確保して、俺の領地を世界一の要塞に改造させるんだ!)
不気味な茨の森を抜けると、そこには今にも崩れそうな古塔が立っていた。 レオンは迷わず、持参した「特製重箱」を地面に置く。
「……セバス、例のものを準備しろ。脳を焼く香りをな」 「御意に。若様の『人徳(餌)』ですね」
セバスが手際よく魔法火で重箱を温めると、高級和牛のステーキと濃厚なガーリックソースの暴力的な香りが漂い出した。
「……くんくん……この、高密度のカロリー反応は、何?」
古塔の窓から、ボサボサの銀髪を揺らした少女が顔を出した。リネットだ。
「リネット、お前に商談に来た。その料理を食いたければ、俺の軍門に降れ」
レオンは漆黒の鎧を鳴らし、不敵に笑う。リネットはふらふらと塔から降りてくると、野生動物のような警戒心でレオンを見上げた。
「……貴方、魔王? その鎧、不吉すぎる……」
「俺はレオン・フォン・グラウス。お前のその腐りかけた頭脳を、俺の『絶対安全』のために買いに来た男だ」
「……安全?」
「ああ。俺が指一本動かさず、昼寝していても敵が塵になるような『最強の防衛兵器』と『軍備』を作れ。倫理観など気にするな。お前の好きなだけ理論を詰め込め。その代わり、お前には一生、このステーキ以上の飯と、誰にも邪魔されない研究室を与えてやる」
リネットの瞳が大きく見開かれた。アカデミーでは「倫理的ではない」「危険すぎる」と否定され続けてきた彼女の兵器理論。それを「好きなだけ詰め込め」と肯定し、対価に極上の食を提示した男。
「……倫理を無視して、貴方の『絶対防衛』のために……私の、全知全能を注げと?」
「そうだ。俺を脅かすゴミ共を、お前の技術で一掃してくれれば、俺は安心して贅沢ができる」
リネットはステーキを一切れ掴み、口に放り込んだ。その瞬間、彼女の顔が劇的に緩む。
「……契約成立。貴方の『保身』は、私の『破壊衝動』をこれ以上ないほど肯定する……。今日から、私は貴方の専属、移動要塞製造機になる……」
「よし。話が早いな」
レオンは満足げに頷いたが、背後で見ていたセバスはまたしても目頭を熱くしていた。
「……素晴らしい。若様は、彼女の『禁忌の才能』すらも平和への抑止力として取り込まれた。追放された天才に光を与え、その力を正しき軍事(※レオンの護衛)に活用なされる。なんと慈悲深い勧誘でしょうか!」
「セバス、早く彼女を運べ。これからは領地の要塞化で忙しくなるぞ」
「はっ! 救世主レオン様の下、新たな英知が加わったことを祝し、今夜は宴でございますな!」
こうして、伝説の魔導師リネットが加入した。 彼女は後に、レオンの「死にたくない」という願いを叶えるため、物理法則を無視した超兵器を次々と生み出すことになる。




