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第五十五話:勇者アルスの「戦略的活用」


帝国をも「事務的」に退けたレオンの名は、皮肉なことに大陸中に轟いてしまった。 「第二王子を失脚させ、帝国の最新軍団を数分で鉄屑に変えた男」 その評価は、いつしか「救世主」を通り越し、一部では「王国に潜む新時代の魔王」として恐れられ始めていた。


「……セバス。最近、領地の境界線に『腕に覚えのある冒険者』や『自称・正義の騎士』がちょろちょろと湧いてくる。俺の安眠を妨げる羽虫の分際で、俺を『倒すべき巨悪』だの何だのと……。不快すぎて、寝返りの回数が増えたぞ」


レオンは、最高級シルクの寝巻きのまま、苛立たしげにこめかみを押さえた。


「困りましたな、若様。彼らは皆、名声という実体のない資産を求めて、若様の『静寂』を盗もうとしております。一括で排除してもよろしいのですが、それでは新たな『悲劇の英雄』が生まれるだけで、根本的な解決になりません」


「……。なら、別の『看板ブランド』を立てろ。俺という存在を覆い隠す、巨大で、清潔で、それでいて誰も逆らえないような正義の象徴だ」


レオンの視線の先には、庭園で真面目にリネット製の「対重力ダンベル」を振り回している青年――勇者アルスがいた。


「アルス、ちょっと来い。お前に新しい『業務』を命じる」


「はい、レオンさん! 僕にできることなら何でも言ってください!」


キラキラとした純粋な瞳で駆け寄ってきたアルスに、レオンは一通の計画書を渡した。 内容は、アルスを「レオンの個人的な備品」ではなく、「レオンの庇護のもとで世界を監視する『平和の守護神』」として公式にプロモート(宣伝)するというものだ。


「いいか、アルス。これからお前は、国境の警備に立つ。お前はただ、そこに立って笑っていればいい。聖剣を抜く必要すらない。……俺が開発した『勇者オーラ増幅機(リネット製)』でお前の存在感を十倍にしてやる。これを見た馬鹿どもは、『ああ、レオン卿は勇者を支援し、世界を守る聖者なのだ』と勝手に解釈する」


「……僕が、みんなの安心を支える『盾』になる、ということですね!? レオンさん、ありがとうございます! 僕、一生懸命に立っています!」


「……ああ、そうだ。お前が立っているだけで、俺の寝室に届く騒音が減る。それが俺にとっての平和だ」


数日後。 グラウス領と王都を結ぶ主要街道に、巨大な「勇者の塔」が建設された。 そこには、黄金のオーラを全身から放つ勇者アルスが、神々しい微笑みを浮かべて鎮座していた。


その圧倒的な「正義のプレッシャー」を前に、レオンを暗殺しにきた者たちは皆、戦意を喪失して膝をついた。 「……おお、見ろ。あの勇者アルス様が、レオン卿と親しげに握手をしている(実際はレオンが業務報告を受けているだけ)。レオン卿が悪魔だなんて、とんだデマだったんだ!」 「勇者様をこれほどまでに手厚く支援できるのは、彼こそが真の慈愛の持ち主に違いない!」


民衆や騎士たちの間で、レオンへの評価は「恐ろしい悪徳領主」から「勇者を陰で支える偉大なる賢者」へと、急速に書き換えられていった。


「……ふん。安いものだ。アルスの給料(プロテイン代)だけで、これほどの『抑止力』が得られる。軍事費の大幅な節約だな、セバス」


「左様でございますな。……若様が二度寝をむさぼる姿を、世間では『神々との対話』だと思い込んでいるようですぞ」


レオンは満足げに鼻を鳴らし、世界で最も安全になった寝室で、再び深い眠りへと落ちていった。

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