第五十三話:隣国・帝国の「軍事介入」
「……若様、お休み中のところ恐縮ですが、少々『騒音』の懸念がございます。隣国、帝国の重装騎士団および魔導戦車部隊が、治安維持という名目で国境を越え、こちらへ向かっておりますな」
セバスの声で、レオンは最高級羽毛布団から這い出した。その顔は、睡眠不足による殺意で満ちている。
「帝国? ……ああ、あの前時代の遺物(封建制度)にしがみついている連中か。せっかく王都の不良債権を処理して、これから十時間は二度寝しようと思っていたのに……」
レオンは寝巻きのまま、リネットが用意したホログラム投影式の戦況マップを睨みつけた。 帝国の最新兵器、重装魔導戦車が砂塵を巻き上げ、王国の国境を蹂躙している。その数は五十。一国を滅ぼすに十分な戦力だ。
「……リネット。あの鉄の塊、一ついくらする?」
「……。帝国の国家予算ベースで、一基につき金貨五万枚相当。……でも、中身の回路は時代遅れ。ゴミ同然」
「金貨五万枚が五十基……二百五十万枚の資産が、勝手に俺の庭に転がり込んでくるわけか。……セバス、帝国に伝えろ。『不法侵入による土地損壊の賠償金』として、その戦車を全台置いていくなら、命だけは接収せずに返してやると」
帝国軍の最前線。指揮官のバルカス将軍は、目の前に現れたレオンの使者(拡声魔法を積んだ小型ドローン)の言葉を聞き、鼻で笑った。
「馬鹿め。この魔導戦車こそが帝国の叡智、鋼の正義だ! グラウス領などという成金領地、一撃で踏み潰してくれるわ! 全車、主砲チャージ! ――放てッ!」
五十基の魔導戦車が、一斉に砲口を光らせた。 だが、次の瞬間、放たれたのは破壊の光ではなかった。
「……? なんだ、この音は……」
キィィィィィィン、という耳を劈くような高周波が戦場に響き渡る。 リネットが仕掛けた「空間歪曲・重力トラップ」の起動音だ。
魔導戦車が放った魔力は、空中で「ねじ曲がり」、あろうことか放った本人たちの足元へと逆流した。さらに、大地が突如として底なしの泥濘と化し、超重力によって数トンの鋼鉄が、紙屑のように地面へとのめり込んでいく。
「なっ……動かん! 出力が……出力が逆流している!? 制御不能だ!」
「……バルカス将軍、でしたっけ? お疲れ様です」
いつの間にか、戦場のど真ん中にレオンの魔導馬車が静かに停車していた。
馬車の窓が開き、寝起きのレオンが顔を出す。
「……おい、将軍。お前たちの持ってきたこの『農機具』、なかなか馬力がありそうだな。ちょうど領地の開墾に、頑丈な鉄が必要だったんだ。……それと、この土地を荒らした分の損害賠償だが、お前たちが着ているそのマントと鎧も全部置いていけ。……身一つで、走って帝国まで帰れ。二度と俺の眠りを妨げるな」
「貴様……我ら帝国を、最強の魔導師軍団を愚弄するか!」
「愚弄? ……違うな、これは『査定』だ。お前たちの価値は、今この瞬間、俺の中で『ゼロ』になった。……セバス、やれ」
セバスが指を鳴らした瞬間、戦車に取り付けられていた魔力回路がリネットの遠隔操作で「強制上書き」され、砲口が自軍の将軍へと向けられた。
「ひ、ひぃぃぃっ! 待て! 降伏だ! 降伏する!」
鋼鉄の軍勢は、レオンの指先一つで「鉄屑の山」へと成り下がった。 帝国が誇る無敵の戦車部隊は、一度も砲弾をグラウス領に届かせることなく、レオンの「新しい庭仕事用の重機」として接収されたのである。




