第五十二話:王都の「不良債権処理」
エドワード王子の無様な敗北から数日。王都の城門には、見たこともないほど巨大な、漆黒の魔導馬車が悠然と姿を現した。
護衛として付き従うのは、最新の魔導アーマーに身を包んだハンスの私兵団と、抜き身の正義(執着)を瞳に宿したフェリス。そして、馬車の後方には、猿ぐつわを噛まされ、錆びた檻に閉じ込められた「かつての次期国王候補」――エドワードが繋がれていた。
「……セバス、王宮の空気が悪いな。カビと権力闘争の臭いがする。リネット、後で換気用の魔導ファンを十基ほど設置しろ。費用は王室の予備費から『接収(天引き)』だ」
「了解……。……見積書、三秒で作成完了」
馬車から降り立ったレオンは、震えながら出迎えた大臣たちを無視し、玉座の間へと土足で踏み込んだ。
玉座の間には、心労で老け込んだ国王と、隅で静かに本を閉じた第三王子カイルがいた。
「レオン・フォン・グラウス! 貴様、この暴挙をどう説明するつもりだ! 王子を捕らえ、軍を率いて王宮を囲むとは!」
大臣の一人が叫ぶが、レオンは懐から一枚の厚い書類を取り出し、それを玉座の前の床に放り投げた。
「説明? そんな無駄なコストを俺にかけさせるな。これは『損害賠償請求書』兼『事業譲渡契約書』だ。……お前のバカ息子が俺の領地へ不法侵入したせいで、俺の午睡が三時間も削られた。その損失、および迎撃に使用した魔導弾の費用、さらには精神的苦痛の慰謝料……。締めて金貨五百万枚だ」
「ご、五百万……!? 国家予算の半分ではないか!」
「払えないだろうな。だから、代わりの決済方法を用意してやった。――エドワードを廃嫡し、王宮の全運営権を俺に譲渡しろ。ついでに、この国の『経営者(王)』をすげ替える」
レオンは顎でカイルを示した。
「なっ……カイルを王にするというのか!? 彼は政治の経験もないのだぞ!」
「経験などいらん。俺の邪魔をせず、俺が作った『合理的(冷酷)』な法案に、黙って判子を押す機能さえあればいい。……カイル、お前はどうだ? このまま、いつ首を吊らされるか分からない『在庫(王子)』として余生を過ごすか、俺のバックアップを受けて、この国の『管理者』として平和に本を読むか」
カイルはゆっくりと立ち上がり、レオンの冷徹な瞳を見据えた。
「……兄上の下で飢えて死ぬよりは、君という名の『暴君』の下で、静かに暮らす方を選ぶよ。……レオンさん、僕を君の『最も高価な備品』にしてくれるかな?」
「いい返事だ。……セバス、契約成立だ。今すぐエドワードを地下牢という名の『スクラップ置き場』へ放り込め。……さて、国王陛下。……いや、『前』国王陛下。……今日からこの国は、俺の安眠を妨げないための『緩衝地帯』として再編させてもらうぞ」
こうして、剣を一度も交えることなく、王国の統治権はレオンの手によって「事務的」に処理された。
翌朝、王都の広場には「新王カイルの即位」と、「全平民への配給(レオンが買い占めていた食糧の放出)」が発表され、民衆はレオンを「救国の聖者」と勘違いして、その名を讃え始めたのである。




