第五十話:第二王子の「最後の大博打」
王都、エドワード王子の私邸には、血走った目をした貴族や騎士たちが詰めかけていた。
レオンによる経済封鎖――いや、正確には「王都の物資の全方位買い叩き」によって、エドワード派の資金は底を突き、食卓からは肉が消え、ワインの代わりに薄めた泥水のような飲み物が並んでいた。
「……おのれ、レオン・フォン・グラウス! 卑怯な商売人の真似事で、私からすべてを奪うつもりか!」
エドワードは、ひび割れた姿見に映る自身の痩せこけた姿を忌々しげに睨みつける。
最早、正攻法でレオンに勝つ道はない。だが、彼にはまだ「王族」という名の最後の手札が残っていた。
「……いいか、者共。グラウス領には、レオンが王家から着服した莫大な隠し資産、そして禁忌の魔導兵器が隠されているという確かな情報(捏造)がある。これは国家への叛逆だ!」
エドワードは、給料が払えず離反しかけていた騎士たちに、ギラついた笑顔を向けた。
「――あの領地を落とした暁には、略奪を許可する! 金貨も、女も、あの最新の魔導具も、すべて貴様たちのものだ! 飢えたくなければ、剣を取れ!」
略奪という甘い蜜に、理性を失った一万の軍勢が咆哮を上げた。
数日後。グラウス領、境界線付近。 地平線を埋め尽くすエドワード派の軍勢を、レオンは領主館の展望室から、リネット特製の「超望遠・魔導双眼鏡」で眺めていた。
「……セバス、あれを見ろ。あのエドワードとかいう無能、あんなに大量の『歩く不法投棄物』を引き連れて来やがった。俺の領地の景観が悪くなるだろうが」
レオンは、最高級の冷えた果実水を飲みながら、心底嫌そうに顔を歪めた。
「左様でございますな。しかも、彼らの軍靴は王都の泥をたっぷり吸い込んでおります。そのまま領内に入られれば、若様が心血を注いで整備させた『自動芝刈り機能付き庭園』が台無しになりますな」
セバスが冷徹に告げると、隣にいたリネットが、巨大なタッチパネル式の魔導端末を無造作に操作し始めた。
「……問題ない。境界線に配置した『自動迎撃・魔導砲台』……稼働率、百パーセント。……レオンの安眠を邪魔するノイズ、……一括消去する」
「フェリス、ハンス。お前たちも行け。一歩でも境界線を越えたゴミは、掃除しても構わん。ただし、俺の芝生に血を飛ばすな。後で掃除の請求書を書くのが面倒だ」
レオンの冷たい命令に、側近たちが静かに、しかし狂気を孕んだ笑みを浮かべて跪いた。
「全軍、突撃ィィ! 略奪の始まりだぁ!」
エドワードの号令と共に、一万の兵がグラウス領の境界線を越えようと踏み出した。 だが、彼らがその「一線」を越えた瞬間――。
空を切り裂くような高周波の音と共に、見えない「壁」に激突したかのように、最前列の騎士たちが吹き飛んだ。
「なっ……何だ!? 何が起きた!」
エドワードが目撃したのは、魔法陣すら描かず、等間隔に配置された奇妙な鉄の筒から放たれる、光の礫だった。
それは「狙う」というより、ただ「排除すべき対象」を自動で感知し、精密機械のように効率的に、そして無慈悲に騎士たちの四肢を砕いていく、人類未踏の防衛システムだった。
「ひ、ひぃぃっ! 矢も魔法も届かない! 姿すら見えない相手に、我々は……!」
一万の軍勢は、レオンの姿を見るどころか、領主館の屋根すら拝む前に、圧倒的な「技術の暴力」によって、その場に釘付けにされたのである。




