5話
「ハンス、フェリス。全軍に伝えろ。これより『大森林・外縁部』へ遠征する。目的は——将来の憂いを断つための『害獣駆除』と、地中に埋まった『遺失物(レア装備)』の回収だ」
レオンの号令に、領主軍が殺気立つ。 彼らにとって遠征は、今や「領主様が用意してくれたボーナスタイム」と同義だった。
「ひゃっはー! 坊ちゃん直伝の『効率狩り』の時間だぜ!」 「閣下自らが陣頭に……。皆、死ぬ気でついていくぞ!」
大森林に到着するなり、レオンは迷わず、勇者ルートの知識で
「最も経験値効率が良く、かつ安全な」狩場へと軍を誘導した。
「ハンス、左の茂みに『痺れ粉』を撒け。あそこからランクCの魔獣が出る。フェリス、お前は部下を連れて右の崖上で待機だ。追い込んできたところを上から叩け」
レオンの指示は、まるで未来を予見しているかのように的確だった。
本来なら死傷者が出るはずの魔獣狩りが、ここではただの「作業」に変わる。
(よしよし、いい感じに兵士たちが経験値を吸ってるな。こいつらが強くなれば、俺が戦わなくて済むし、ガードも固くなる。これぞ究極の安全策!)
「見てください、フェリス殿! 若様は魔獣の習性、地形、すべてを把握しておられる。これはもはや戦いではなく、慈悲を持って迷える獣を屠る儀式……!」
「ああ。閣下の無駄のない動き、まさに騎士の理想だ。一撃ごとに、兵士たちが『自信』という名の力を得ていくのがわかる」
セバスとフェリスが勝手に感動の涙を流す中、レオンの目的は別の場所にあった。
「……ここだ」
激戦の合間、レオンは軍を待機させ、古びた大樹の根元を掘り起こした。 泥の中から現れたのは、煤けてはいるが、神聖な魔力を帯びた漆黒のフルプレート。
「『冥府の聖騎士の鎧』……!」
勇者ルートでは、物語中盤でライバルの騎士が手に入れるはずのチート装備だ。
自動修復機能に加え、物理攻撃を八割カットするという、保身には最高の一品。
「ふふふ……これだよこれ。これを着ていれば、暗殺者も魔王の攻撃も怖くない。俺だけの『絶対安全スーツ』だ。見た目がちょっと悪役っぽいけど、性能が良ければ何でもいい」
レオンがニヤニヤしながら泥を拭っていると、背後から兵士たちのどよめきが聞こえた。
「おい、見ろよ……若様が掘り出したあの鎧……」 「ありゃあ、昔この地で民を守って死んだ伝説の騎士の遺品じゃないか?」
「若様、それを身につけるってことは……先人の意志を継いで、俺たちを守るって誓いなんだな……!」
(いや、単に死にたくないだけなんだけど。あと、これ市場に出せば小国が買えるくらいの値段になるから、保険としても最高なんだよ)
「閣下……!」 フェリスが感極まった様子で駆け寄ってきた。
「その呪われた外見すら厭わず、闇を纏って光を守る覚悟。私、ベルンの名に懸けて、その志に一生ついて参ります!」
「いや、これ呪われてないよ? めちゃくちゃ高性能なだけd——」
「レオン様!」 セバスが、いつの間にか用意していた漆黒の外套をレオンの肩にかけた。
「その鎧にふさわしい意匠の外套でございます。ああ、なんと禍々しくも神々しい……。これぞ真の『支配者の鎧』ですな!」
結果として、領主軍のレベルは爆上がりし、レオンは最強の防御力を手に入れた。
しかし、その姿はどこからどう見ても、**「最強の軍勢を率いる、冷酷な魔王」**にしか見えなくなっていた。
「……ま、まあいいか。安全第一だ」
漆黒の鎧を纏ったレオンは、勇者のヒロインが見たら卒倒しそうな凶悪なビジュアルで、満足げに頷いた。




