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第四十九話:物流網の「逆流」と市場の支配


「……セバス。あの無能な第二王子、俺の領地への『定期配送便』を止めたのか。おかげで楽しみにしていた王都限定の高級スイーツが届かなかったぞ」


領主館のテラスで、レオンの周囲に冷徹な威圧感が漂った。 エドワード派の騎士団が街道を封鎖し、グラウス領へ向かう商隊を強制的に差し押さえているという報告。それはレオンにとって、単なる経済的損失ではなく「私的な安眠と愉悦への宣戦布告」であった。


「若様、エドワード殿下は『グラウス領を兵糧攻めにする』と息巻いているようです。王都からの物流を遮断すれば、若様が泣きついてくると信じているのでしょう」


「……。俺を『兵糧攻め』にするだと? 自分の領地の食料自給率すら把握していない男が、よくもそんな大口を叩けたものだ。リネット、セバス。――『経済の逆流』を始めるぞ」


レオンが動かしたのは、武力ではなく「圧倒的な買い占め権」と「独占契約」だった。


まず、グラウス領は王都周辺の農村や中継都市の商人たちに対し、通常の三倍の価格での「全品即時買取」を提示した。さらに、レオンがこれまで投資してきた「魔導肥料」と「高速配送馬車」の利用権を人質に、商人たちに究極の選択を迫ったのだ。


「いいか、商人ども。今日から王都へ荷物を運ぶ奴には、俺の領地の魔導技術は一切貸さない。逆に、俺の指定する隠しルートに荷物を流すなら、損失の十倍を補填してやる」


商人たちは、エドワード王子の「名誉ある騎士道的な封鎖」と、レオンの「現実的で暴力的な札束」を天秤にかけ――一瞬でレオンを選んだ。


結果、王都へ向かうはずの食料、燃料、魔法薬の原材料が、街道の途中で不自然に「消え」、すべてグラウス領へと吸い込まれていった。


数日後。王都はパニックに陥った。 「封鎖しているはずのグラウス領」が飢えるどころか、逆に「封鎖している側の王都」の市場から物が消えたのだ。


「殿下! 大変です! 王都のパン屋がすべて閉まりました! 小麦が……小麦がすべてグラウス領へ買い叩かれ、あちらの倉庫に積まれているそうです!」


「な、なんだと……!? 街道を封鎖しているのは我々だぞ! なぜ荷物が通る!」


「商人たちが……『王都へ運んでも王子は代金を払ってくれないが、レオン卿は金貨を山積みにしている』と言って、夜陰に乗じて森の裏道や水路から荷物を運んでいるのです! それどころか、王都の住民まで『グラウス領に行けば飯が食える』と言って脱走を始めています!」


エドワードが窓の外を見ると、王都の騎士団もまた、空腹のあまり力なくうなだれていた。封鎖を維持するための兵糧すら、レオンの「圧倒的な購買力(接収)」によって奪われていたのだ。


「……エドワード。経済とは『流れ』だ。そしてその流れは、より高い価値(金)がある方へ向かう」


王都の城壁に、レオンからの魔導書簡が届いた。


「お前が物流を止めたせいで、王都の物価は十倍に跳ね上がった。……今、お前の足元にある土地や建物、さらには騎士団の装備。それらの『維持費』を払えなくなった貴族たちが、次々と俺に権利を売り渡しているぞ。……さあ、エドワード。お前の騎士たちに、その錆びた剣を食わせるがいい。……俺は、届いたばかりのスイーツを楽しませてもらう」


エドワード派の派閥は、戦わずして「空腹」と「破産」によって崩壊し始めた。 レオンの「自分勝手な食欲」が引き起こした経済戦争は、一国の王都をわずか数日で『巨大な質屋』へと変えてしまったのである。

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