第四十七話(修正):王都からの「召喚」と、無礼な査定
「……セバス。なぜ俺が、こんな埃っぽい王都の宮殿まで足を運ばなければならないんだ。俺の領地の『魔導空気清浄機』がない場所では、肺が汚れて資産価値が下がる」
レオンは、王宮の一室で不機嫌を全身から漂わせていた。 本来、一介の辺境伯が王族の呼び出しを拒むことは難しいが、今のレオンにはそれを無視するだけの財力と武力がある。しかし、「今後、王都から余計な使者が来て俺の安眠を妨げないよう、元を絶っておく必要がある」という極めて利己的な理由で、あえて出向いたのだ。
そこへ、豪華な衣装を纏った第二王子、エドワードが数人の騎士を連れて現れた。
「待たせたな、レオン・フォン・グラウス。……貴様の領地の噂は聞いているぞ。何やら正体不明の技術で莫大な富を築いているそうではないか」
エドワードは挨拶もそこそこに、レオンの対面にどっかりと座り、傲慢な笑みを浮かべた。
「貴様に提案……いや、命令がある。その富、そして貴様が抱えている『勇者』と『聖女』を私の派閥へ献上しろ。そうすれば、私が即位した暁には貴様を王国の宰相に据えてやってもいい。光栄に思え」
レオンは、リネットが開発した「周囲の騒音をカットする魔導イヤホン」をゆっくりと外した。その瞳は、目の前の王子を「ゴミ同然の投資先」として冷徹に鑑定していた。
「……セバス。この男、自分の立場を勘違いしている。俺に指図をするということは、俺の『時間』という最も貴重な資産を奪っている自覚がないらしい」
「若様。そのようですね。……エドワード殿下、若様は多忙なのです。具体的には、今日の午後に予定されている『新作の最高級枕の試用』をキャンセルしてまでここへ来られたのですぞ」
「……何だ、そのふざけた理由は! 枕だと!? 貴様、私を誰だと思っている! 次期国王、エドワード・フォン・ディストリアだぞ!」
エドワードが激昂し、机を叩いた。その瞬間、レオンの周囲に冷たい魔力が渦巻いた。
「……王? お前のような、目先の利益(勇者や聖女)に目が眩んで、既存の成功モデル(俺の領地)を力ずくで奪おうとする無能が王になれば、この国の経済は破綻する。……そうなれば、俺の領地の資産価値まで悪影響が出るだろうが」
レオンは立ち上がり、エドワードを冷たく見下ろした。
「お前は『落選』だ。……俺のポートフォリオ(人脈)に、お前のような不良債権を置くスペースはない」
「なっ……貴様! 衛兵! この無礼者を捕らえろ!」
エドワードの叫びに応じ、騎士たちが一斉に踏み込もうとした。だが、その足は一歩も動かなかった。セバスが音もなく放った「威圧」と、レオンが仕掛けた「重力接収」の魔法が室内を支配していたからだ。
「……セバス、行くぞ。ここにいても、俺の脳細胞が死滅するだけだ。……ああ、それからエドワード。お前が今日着ているその服の刺繍、帝国の職人を脅して作らせたものだろう? 職人の権利保護の観点から、その服の『所有権』は今、俺が接収した。……後で全裸の請求書を送っておいてやる」
レオンは呆然とするエドワードを放置し、一度も振り返ることなく部屋を後にした。
「……若様。第二王子をあそこまでコケにして、よろしいのですか? 彼は王都で最大の派閥を持っておりますが」
「構わん。あんな無能に国を任せるのは、俺の安眠に対する最大のリスクだ。……セバス、他にマシな『予備』はいないのか? 管理がしやすくて、俺の邪魔をしない奴だ」
「……左様でございますな。それでしたら、王都の隅でひっそりと図書室に引きこもっている『第三王子』という、掘り出し物の物件がございますが……」
「……ほう。図書室か。少しは話が通じそうだな。……会いに行くぞ」
こうして、レオンは自らの「快適なニート生活」を盤石にするため、王国の玉座をすげ替えるという、前代未聞の「国家買収」へと動き出すのだった。




