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第四十五話:勇者の「資産価値」鑑定


「……セバス、例の『勇者もどき』はどうなった。俺が多額の食費と修繕費を投資しているんだ、少しはマシな戦力(動産)に育っていないと困るぞ」


レオンは、リネットが開発した「全自動・移動式マッサージチェア」に揺られながら、領地外縁にある特別訓練場へと向かっていた。


そこには、もはや「伝説の勇者」という爽やかな肩書きが似合わないほど泥と汗にまみれ、鬼のような形相で巨大な魔導ゴーレムと格闘するアルスの姿があった。


「はぁ、はぁ……! くそっ、まだだ! まだレオンさんの足元にも及ばない……!」


アルスが振るう聖剣は、以前よりも鋭い輝きを放っている。だが、その対戦相手であるゴーレムは、リネットが「レオンの安眠を妨げる不審者を0.1秒で排除する」という目的で設計した、理不尽の塊のような最新鋭機だった。


「……おい、アルス。お前、いつまでそんなブリキのおもちゃに手こずっている。俺が投資した最高級の魔力回復ポーション、一滴いくらすると思っているんだ。お前の汗一滴よりも高いんだぞ」


レオンの冷たい声が響くと、アルスは弾かれたように動きを止め、直立不動で敬礼した。


「レ、レオンさん! 視察ありがとうございます!……すみません、この『自動排除くん三号』の防御壁がどうしても突破できなくて……!」


レオンは椅子から降りるのすら面倒そうに、手元のリモコンでゴーレムを停止させた。


「当たり前だ。それは対軍用の多重結界を積んでいる。……いいか、アルス。勇者なんてものは、世界を救うのが仕事じゃない。俺の領地の『平和(資産価値)』を維持するための、最後の保険なんだよ」


レオンは、アルスの首元に下げられた『自動蘇生・転送ペンダント』を指差した。


「お前に死なれると、葬儀代やら新しい勇者の育成費やらで、俺の国庫に甚大な被害が出る。だから、お前は絶対に負けてはならないし、死んでもならない。……いいか、お前の命は既に俺が『接収』しているんだ。俺の許可なく傷つくことは、横領罪に等しいと知れ」


「……レオンさん……。やっぱり、あなたは僕の甘さを叱ってくれているんですね……! 僕が死んだら、この領地の人たちが悲しむ……。だから、僕に『死ぬな』と命じてくださっている……!」


アルスの瞳に、再び熱い感動の涙が浮かぶ。


(……いや、悲しむのは俺の財布だと言っただろうが。なんでこいつもハンスたちと同じで、俺の言葉を美談に翻訳するんだ?)


「セバス。こいつの訓練メニュー、さらに二割負荷を上げろ。……リネット、アルスの聖剣に『自動追尾機能』と『遠隔強制帰還システム』を組み込め。万が一こいつがピンチになったら、俺の前に転送されるようにしろ。……目の前で資産を失うのは気分が悪いからな」


「畏まりました、若様。……勇者様を、物理的に『システム』で繋ぐというわけですな」


レオンは「ふん」と鼻を鳴らし、再びマッサージチェアに深く沈み込んだ。


「……いいか、アルス。お前は俺の『最高級の防衛備品』だ。磨き抜いて、いつまでも新品同様の性能を保て。……分かったら、さっさとその泥を落としてこい。俺の訓練場が汚れる」


「はい! レオンさん! 僕、一生あなたの『備品』として戦います!」


アルスの爽やかな叫びが響く中、レオンは「備品って響きはいいな……」と満足げに目を閉じ、次の「効率的な接収」の計算を始めるのであった。

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