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第四十二話:王都経済の「接収(ハッキング)」


「……セバス、準備はいいか。俺は機嫌が悪い。非常に、だ」


領主館の最上階。レオンは帝国から接収した最高級の葉巻(香りのみ楽しむ健康仕様)を燻らせながら、窓の下で震える王都の「真の黒幕」への怒りを煮詰めていた。


フェリスの実家を陥れ、今なお彼女の残党を追い回していたのは、王都の財務副大臣・ガゼル伯爵。彼は王国の物流と税制を牛耳り、自分に逆らう貴族を経済的に抹殺することで今の地位を築いた男だ。


「若様。既にガゼル伯爵が投資している全事業のリスト、および彼が王都銀行に預けている個人資産の口座番号、すべて特定いたしました。リネット様の『遠隔魔導情報接収機ハッキング・ツール』もスタンバイしております」


「よし。……あいつはフェリスを『債務者』として扱った。なら、俺はあいつを『破産者』にしてやる」


数日後。王都のガゼル伯爵邸。 ガゼルは優雅にワインを嗜みながら、部下からの報告を待っていた。だが、飛び込んできたのは絶望の叫びだった。


「ほ、報告します! 伯爵閣下が所有する港の倉庫、および王都の全商店街の不動産権が……たった今、すべて『グラウス領』に買い取られました!」


「……何だと!? 誰の許可で売買した! 私は一歩も外に出ていないぞ!」


「それが……閣下の『電子署名(魔導印章)』が使われておりまして……。さらに、閣下が秘密裏に隠していた海外口座の金も、一シリング残らず『領地開発寄付金』としてレオン・フォン・グラウス氏の口座に転送されました!」


「なっ……馬鹿な! 私の財産を、たった数分で全接収したというのか!?」


そこへ、室内の魔導通信機からレオンの声が響いた。ノイズ一つない、不気味なほど落ち着いた声だ。


「……聞こえるか、ガゼル。お前の手口は、時代遅れなんだよ」


通信機の向こうで、レオンが冷たく笑う。 「お前は権力を使ってフェリスの家を毟り取ったが、俺はお前の『存在価値(数字)』そのものをこの世界から削除した。……たった今、お前の家は王都の所有物ではなく、俺の『下水道メンテナンス用の物置』として登記されたぞ。……あ、それから、お前が着ているその服も俺の資産だ。一分以内に脱いで、そこから這い出て行け」


「ひっ……ひぃぃぃぃっ!!」


全裸一歩手前で邸宅を追い出されたガゼル伯爵。王都の路上で、彼は自分が信じていた「金と権力」が、レオンという怪物の前では単なる「書き換え可能なデータ」に過ぎなかったことを悟り、絶叫した。


一方、レオンの横でその様子を見ていたフェリスは、震える手で剣を握り締めていた。


「……閣下。私のために、王都の重鎮をここまで徹底的に……。……一生、いえ、来世までお仕えしても、このご恩は返せません」


「……勘違いするなと言っただろう、フェリス。俺はただ、俺の持ち物(部下)に指をかけた不衛生なゴミを掃除しただけだ。……それより、あいつから接収した王都の土地、あそこに俺の『専用・全自動マッサージサロン』を建てる設計図を持ってこい。……あぁ、肩が凝った」


「はい! 喜んで、王都最高のサロンを建設いたします!」


フェリスの瞳には、もはや信仰を超えた「神への愛」に近い光が宿っていた。 レオンはそれを「重い」と感じながらも、接収した莫大な資産リストを眺め、「これでまた一歩、究極のニート生活に近づいたな」とほくそ笑むのであった。

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