表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/60

第四十話:盲信の「剣」と、歪んだ救済の真実


グラウス領の美しい夕景の中、高台に立つフェリスは、眼下に広がる平穏な街並みを眩しそうに眺めていた。その腰に差した聖銀の剣は、レオンが「俺の騎士がボロい剣を持ってると、領地の資産価値が疑われる」という理由で、帝国から接収した最高級素材をリネットに叩き込ませて作らせた逸品だ。


「……閣下。今日もこの街は、貴方の慈悲によって守られています」


フェリスが背後に気配を感じて振り返ると、そこには豪華な毛皮のコートを羽織り、気だるげに鼻を鳴らすレオンが立っていた。


「……フェリス。お前、またそんなところで黄昏ているのか。暇なら、俺の寝室の加湿器の魔力補充でもしておけ。あいつの調子が悪いと、俺の喉のコンディションに響くんだ」


フェリスには、かつて「没落貴族の娘」として、不正を働く権力者たちにすべてを奪われた過去があった。 家族も、名誉も、騎士としての誇りすらも踏みにじられ、路頭に迷っていた彼女を「接収」したのがレオンだった。


あの日、雨の中で震えていたフェリスに、レオンは傘も差さずに冷たく言い放った。


『……おい。お前、死ぬ勇気があるなら、その命を俺に寄越せ。俺は自分の平穏を脅かす奴が大嫌いだ。お前のその「行き場のない怒り」を、俺の領地を守るための「番犬」として再利用してやる。……その代わり、俺の命令は絶対だ。俺が「寝る」と言ったら、世界が滅びようとも俺を起こすな』


フェリスにとって、それは冷酷な言葉などではなかった。 誰もが彼女を憐れむか、あるいは利用しようとする中で、レオンだけが彼女に「明確な役割(価値)」を与え、その復讐心を「守護」という形へ昇華させてくれたのだ。


「……閣下。貴方はいつも『自分のため』と仰いますが、この上水道も、下水道も、そして私に与えてくださったこの剣も、すべては弱き民が安心して眠れる世界を作るためのものでした。……私は、貴方のその『不器用な正義』を、一生をかけてお守りすると誓いました」


フェリスは跪き、レオンの手に誓いの接吻をしようとした。しかし、レオンは全力で手を引っ込めた。


「……よせ。お前のその『キラキラした期待の目』が一番疲れるんだ。俺はただ、俺の周りに貧乏人がうろちょろしてると気分が悪いから、底上げしてやっただけだ。勘違いするな。お前は俺の『動く防衛資産』だ。壊れたら修理費(人件費)がかかるんだから、無茶な戦い方をするなよ」


レオンは吐き捨てるように言うと、足早に去っていった。


「……ふふ。やはり、閣下は照れておいでなのですね」


フェリスは、レオンが去り際に手渡した(実際は「邪魔だから持ってろ」と押し付けた)最新の「疲労回復効果付き魔石」を胸に抱き、幸せそうに微笑んだ。


「セバス様。閣下は、また私に新しい『愛』を接収させてくださいました」


「……左様でございますな、フェリス様。若様は、ご自身の『優しさ』を税金や効率の中に隠すのが、本当にお上手な御方ですから」


セバスは眼鏡を拭きながら、フェリスの「重度の勘違い(盲信)」を訂正することなく、そっと見守った。


世界最強の女騎士、フェリス。彼女の振るう正義の剣は、一人のクズ領主が「自分の昼寝を邪魔されたくない」という一心で整えた、極めて利己的な防衛システムの一環であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ