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第三十九話:孤独な天才と「最高のスポンサー」


領主館の最深部、そこはレオンの「怠惰」を実現するための心臓部――リネットの魔導開発局である。 足の踏み場もないほど散らばった魔導回路の残骸と、怪しく光る液体。その中心で、銀髪の少女リネットは、無機質な瞳で複雑な数式を空間に投影していた。


「……リネット、また徹夜か。お前が倒れたら、俺の『全自動・肩揉み機』の修理が滞るんだ。少しは寝ろと言っただろう」


レオンが(自動配送ドローンに持たせた)夜食を置いて声をかけると、リネットはゆっくりと振り返った。


「……レオン。……計算が終わらない。……貴方の『もっと楽をしたい』という欲望、……物理法則の限界を超えている。……でも、……ワクワクする」


リネットには、王国から「異端」として追放された過去があった。 彼女の提唱する魔導理論は、当時の学術院にはあまりに高度で、かつ実用性(という名の贅沢)に特化しすぎていた。 「魔力を家事や娯楽に使うなど、神への冒涜だ」と蔑まれ、路頭に迷っていた彼女を「接収」したのがレオンだった。


あの日、ゴミ捨て場でガラクタを弄っていたリネットに、レオンはこう言い放った。


『……おい。お前のその頭、もっと「有意義なこと」に使え。例えば、俺が指一本動かさずに部屋の温度が変わる魔法とか、歩かなくてもトイレまで運んでくれる椅子とかな。……世界を救う魔法なんてどうでもいい。俺の「退屈」を殺すための理論を完成させろ。……資金と設備は、俺が帝国から毟り取ってやる』


リネットにとって、それは初めての「肯定」だった。 他の誰もが「高潔な目的」を求める中で、レオンだけが彼女の技術を「個人の欲望(幸せ)」のために全力で使い切ることを許したのだ。


「……リネット、これが新しい研究費だ。帝国から届いた賠償金の半分を、お前の好きにしていい」


レオンが差し出した「金額の桁が狂った小切手」を、リネットは無造作に受け取った。


「……了解。……これで、レオンの枕を『雲の上のような寝心地』にするための、反重力システム……構築できる。……感謝。……私の頭脳、……一生分、……レオンに接収されたままでいい」


リネットの瞳に、微かな熱が宿る。 彼女にとってレオンは、単なる領主ではない。自分の「狂気的な知的好奇心」を、一切の倫理観を無視して全肯定し、莫大な資金を投じてくれる「世界最高の理解者」なのだ。


「……セバス、見たか。あいつ、また俺の金で『空飛ぶゴミ箱』なんて作ってやがる。……まあ、俺の部屋が綺麗になるなら投資価値はあるが」


「若様。リネット様は、若様の『欲望』という名の無茶振りを解くことが、人生で最大のクイズだと思っておいでです。……彼女の才能を、ここまで贅沢に使いこなせるのは、世界で若様ただ一人でしょうな」


レオンは「才能の無駄遣いだ」と吐き捨てながらも、リネットが開発したばかりの「歩行アシスト付きスリッパ」の履き心地に、満足げに鼻を鳴らした。


世界を震撼させるリネットの魔導技術。そのすべての原動力は、一人のクズ領主の「もっとダラダラしたい」という底なしの欲望であった。

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