4話
「……よりによって、一番会いたくない連中が揃って来やがった」
豪華な客間を前に、レオンは顔を引き攣らせていた。 王都から派遣された、生真面目の権化のような女騎士フェリス。
そして、勇者ルートのメインヒロインであり、人類の希望とされる聖女リアナ。
「若様、どうぞ。皆様、若様の『慈悲深いお言葉』を今か今かとお待ちです」
セバスが期待に満ちた目で扉を開ける。 レオンは内心で「帰れ」と毒づきながら、貴族らしい傲慢な笑みを貼り付けて部屋に入った。
「遠路はるばるご苦労。グラウス領へようこそ」
そこにいたのは、氷のように冷たい美貌を持つ騎士、フェリス・フォン・ベルン。
彼女は鋭い視線でレオンを射抜いた後、意外にも深く頭を下げた。
「……レオン・フォン・グラウス閣下。先ほど、訓練場を視察させていただきました。愕然といたしました」
(やばい、厳しい訓練をさせてるのがバレたか? 『ならず者を虐待している』とか言われて、騎士団にしょっ引かれるのは御免だぞ)
レオンは先手を打つことにした。
「……フン、あれが厳しいとでも言うのか? 無能が戦場で死なれるのは、俺の領地の『損失』だ。だから、徹底的に叩き込んでいるだけだ」
レオンの本音はこうだ。
「俺を護る盾(兵士)が、すぐ壊れたら困る。だから死ぬ気でレベル上げしろ」
しかし、フェリスの瞳に、熱い火が灯った。
「――やはり、閣下の真意はそこにあったのですね。名もなき兵士一人一人の命を『領地の宝(損失)』と呼び、彼らが戦場で死なぬよう、自ら悪役となって剣を振るう……。今の王都に、これほどまでに兵の命を尊ぶ指揮官がいるでしょうか!」
「は?」
「閣下、先ほどの発言。我がベルン家に伝わる騎士道の極致『死を遠ざける愛の鞭』そのものです! 不肖フェリス、閣下のその高潔な厳格さに、魂を揺さぶられました!」
フェリスがガシャリと音を立てて跪く。
(違う。俺、愛なんて一ミリも込めてない。コストパフォーマンスの話をしてるんだってば!)
レオンが助けを求めて隣を見ると、聖女リアナが胸に手を当て、潤んだ瞳で頷いていた。
「……フェリスさんの言う通りです。レオン様、貴方はあえて冷徹に振る舞うことで、兵士たちに生き残るための『強さ』を授けておられるのですね。なんと孤独で、献身的な……」
「いや、聖女様まで何を……」
「若様」
セバスがレオンの肩を優しく叩いた。その顔は、もはや神を崇める使徒のようだった。
「これほどまでに早く、王都の才女たちに若様の『真実』が伝わるとは。これも若様の徳の致すところ。……フェリス殿、若様の護衛、並びに我が領主軍の規律担当をお任せしてもよろしいですかな?」
「もちろんです! この命、閣下の掲げる『至高の生存』のために捧げましょう!」
(勝手に就職が決まった……。しかも、俺の護衛(監視役)が、一番厳しい奴になっちゃったよ……!)
レオンが絶望で天を仰いだその時、部屋の隅で様子を見ていた元山賊のハンスが、ニヤリと笑ってナイフを弄んだ。
「へへっ、坊ちゃん。これでお堅い騎士団の後ろ盾もゲットですな。さあ、次は誰を『剥ぎ取り』に行きますかい? このハンス、準備はできてますぜ」
聖女と騎士。そして執事と元山賊。 混ぜるな危険なメンバーが揃ったグラウス領。 レオンは確信した。
(ダメだ。このままじゃ、俺、平和にゴロゴロするどころか、世界を救う先頭に立たされる……!)
「セバス……」 「はい、若様。次は大森林の魔物氾濫の予兆を調査しに……」 「……おやすみ。俺、寝る」
レオンは現実逃避のために、ふかふかのソファに顔を埋めた。 だがその姿すら、周囲には「重責を背負い、一時の休息を求める英雄」として、神々しく映っていた。




