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第三十八話:不屈の「盾」と、クズが拾った忠義


グラウス領の練兵場。そこでは、元山賊の頭目であり、現在はレオンの私兵団長を務めるハンスが、凄まじい気迫で兵たちを鍛え上げていた。


「甘い! そんな鈍い動きで若様の安眠が守れると思っているのか! 敵の矢の一本たりとも、若様の昼寝の邪魔をさせるな!」


ハンスが振るう大斧の風圧だけで、訓練用のゴーレムが吹き飛ぶ。その姿を見ながら、レオンはリネットが用意した(自動日傘付き)特等席で、贅沢に冷えたジュースを啜っていた。


「……セバス。ハンスの奴、相変わらず気合が入ってるな。元は俺の金貨を奪おうとしたコソ泥の分際で」


「若様、お忘れですか。彼がただの山賊だった頃……彼には守るべき『家』も『名』も、そして明日食べるパンすらも無かったことを」


ハンスには、かつて「王国正規軍の百人隊長」だった過去があった。 彼は正義感が強く、不当な収賄を繰り返す貴族の不正を暴こうとした。しかし、逆に罪を擦り付けられ、部下たちと共に軍を追われ、行き着いた先が山賊という「汚れ仕事」だったのだ。


彼がレオンに出会ったあの日。ハンスは部下たちの空腹を救うため、死に物狂いでレオンの馬車を襲った。だが、レオンは恐怖するどころか、鼻をほじりながらこう言い放った。


『……お前ら、山賊なんて効率の悪いことしてて疲れないか? 俺に投資しろ。お前らのその「死に損ないの執念」を俺が買ってやる。その代わり、俺が寝ている間は、一匹の蚊も通すな。……分かったら、さっさとその錆びた剣を捨てて、俺の「防壁(資産)」になれ』


ハンスにとって、それは救いの手というより、**「自分たちの価値を初めて正当に査定(接収)してくれた声」**だった。


訓練が終わり、ハンスがレオンのもとへ歩み寄ってくる。大男の彼は、レオンの前でだけは、主人に褒められたい大型犬のような顔になる。


「若様。今日の防衛訓練、完了しました。……帝国軍の残党が使っていた魔導弓のデータも反映済みです。これで若様の寝室の窓硝子に傷がつく確率は、0.001%以下になりましたぜ」


「……ふん。お前が手を抜いて俺の高級羽毛布団に矢が刺さったりしたら、即座にクビ(納税刑)だからな。分かってるんだろうな、ハンス」


「分かってますとも。……俺たちは、あの日死んだ身だ。若様が俺たちを『接収』して、この腹一杯食える生活と、磨き抜かれた武具をくれた。……この命、若様の『贅沢』を守るための盾として使うのが、俺の最高の贅沢ですよ」


ハンスは、かつて軍を追われた時に失った「誇り」が、今はレオンの「わがまま」を守るという新たな誇りに書き換わっていることを誇らしく思っていた。


「……セバス、聞いたか。あいつ、自分の命を俺の『盾』だなんて言い出したぞ。重苦しいったらありゃしない」


レオンは嫌そうに顔をしかめたが、その手には、ハンスたち兵士のために新調した「疲労回復効果付きの特製ミスリル防具」の注文書が握られていた。


「若様。……『資産(部下)』のメンテナンスを怠るのは、一流の経営者のすることではありませんからな」


「黙れ、セバス。これはただの、故障(戦死)による損失回避だ」


不器用な「クズ」と、彼に人生を全賭けした「元・正義の男」。 二人の奇妙な信頼関係は、今日もグラウス領を、どの王国の正規軍よりも突破不可能な「鉄壁の要塞」へと仕上げていく。

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