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第三十七話:執事の「掃除」と、過去からの落とし物


領主館の裏手、深夜の静寂に包まれた庭園。 そこには、警備のゴーレムたちの死角を完璧に突き、影のように侵入した五人の男たちがいた。


彼らは大陸全土で恐れられる伝説の暗殺集団『葬り去るイレイザー』。かつて、若かりし頃のセバスが所属し、そして「ある日突然、たった一人で壊滅させた」はずの組織の生き残りだった。


「……見つけたぞ。裏切り者のセバスチャン。あんな若造の靴を磨く生活に甘んじているとは、随分と鈍ったものだ」


暗殺者の一人が毒の塗られた短剣を抜き放った瞬間、背後から冷徹な声が響いた。


「……。若様の庭に、許可なく害虫が這い入るとは。明日の朝、庭師が驚くではありませんか」


いつの間にか、彼らの中心にセバスが立っていた。 手には、レオンの夜食用に用意したトレイ。そこにはティーポットと、磨き上げられた一振りの「銀のバターナイフ」だけが載っている。


「セバス! 組織を捨て、我々を地獄へ叩き落とした報い、その首で払ってもらう!」


四方から同時に放たれる必殺の突撃。 しかし、セバスは眉一つ動かさず、優雅な所作でバターナイフを指先で回した。


「組織、ですか。……私はあの日、もっと『やりがいのある仕事』を見つけただけです。若様の『わがまま』を叶えるために世界を整える。それに比べれば、人の命を奪うだけの作業など、あまりに単調で退屈すぎた」


次の瞬間、庭園に銀の閃光が走った。 バターナイフが空を切り、暗殺者たちの武器を「分子レベル」で正確に弾き飛ばし、同時に彼らの急所ではなく「衣服のボタン」だけをすべて切り落とした。


「……っ!? な、なんだこの速度は……」


「若様は『流血は資産価値を下げる』と仰せです。よって、あなた方をここで殺すことはいたしません。……ただ、私の『元同僚』として、最新の接収技術カツアゲを体験していただきましょう」


セバスが指を鳴らすと、庭園の地面が突如として開き、暗殺者たちはリネットが開発した「全自動・強制洗浄室」へと落下していった。


翌朝。 領主館の地下室には、ピカピカに洗われ、清潔な囚人服を着せられた五人の暗殺者が、魂の抜けたような顔で整列していた。


「……セバス、こいつらは何だ? 朝から不気味な連中を並べるな」


パジャマ姿で目を擦りながら現れたレオンに、セバスは深々と頭を下げた。


「若様。彼らは帝国のさらに奥地からやってきた、非常に優秀な『掃除の専門家』でございます。今後、若様の領地の隅々まで、一粒の塵も残さず清める『全自動清掃部隊』のリーダーとして雇用いたしました」


「掃除の専門家? ……ふん、まあいい。セバスが選んだなら、少しは役に立つんだろう。おい、お前ら。俺の部屋に髪の毛一本落ちてたら、増税だからな。死ぬ気で磨け」


「「「は、はい……閣下……!!」」」


かつて大陸を震撼させた暗殺者たちは、レオンの圧倒的な「強者のオーラ(という名の重度の寝起き)」と、その背後に立つセバスの「もし失敗したら、次はバターナイフだけでは済まさない」という微笑みに完全に屈服した。


「……セバス。お前、たまに物騒な知り合いを連れてくるな。まあ、人件費がタダ(接収)なら文句はないが」


「恐れ入ります、若様。すべては、若様が塵一つ気にせず二度寝を楽しめる環境を維持するためでございます」


セバスは、かつて数多の命を奪ったその手で、今日も完璧な温度の紅茶をレオンに捧げた。 彼の過去も、技術も、そして影も。すべてはレオンという「究極の主君」の平穏を守るための道具として、今日も最高効率で消費されていくのであった。

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